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作者がそこそこお気に入りのコメディ系作品(完結済)

婚約破棄されてる最中に蘇った前世の記憶が全く仕事しない。

作者: 砂臥 環


「フリーダ・ボガード!! 貴様との婚約を破棄する!」

「──!!」


ああ、とうとう恐れていたことが起きてしまいました。

私の婚約者であるバルハン第一王子殿下に婚約破棄を宣言されてしまったのです。


本来宣言すべきのなのは『卒業する生徒への寿ぎと、卒業パーティーの開始』。

そしてその横には私がいるハズでした。


ですが今、殿下の横にいるのはか弱く震えつつも、これみよがしに豊満な胸を押し付けているあざとい男爵令嬢です。

『そんなに巨乳が好きならば、乳牛(ホルスタイン)と結婚しなさい!』という、どこかで耳にした言葉が頭に(よぎ)ります。


(はっ! これは──前世の記憶!?)


驚きました。


まるっきり役に立ってないではありませんか!

こういう時、普通役に立つ記憶が蘇るものではないんですかね?!


むしろ思考を奪われたせいで、質問や反論のタイミングを逃してしまいました。

培ってきた王子妃教育も台無し、あろうことか動揺が隠せません。

婚約破棄というより主に、意味のわからない前世の記憶への動揺ですが。


そんな間にも殿下はなんか宣っております。


「貴様は醜くも嫉妬からこのメリッサに嫌がらせを繰り返し、挙句の果てには階段から突き落とした!」

「バルハン様ァ……メリッサ、怖かったですぅ……」


明らかに冤罪をふっかけられてますが、脳内は前世のせいでもう滅茶苦茶。

迂闊に口を開こうものなら『このテンプレヘイトキャラが! 箪笥の角に足の小指を強かにぶつける呪いをかけてやる!ハゲろ!!』などと吐かしてしまいそうなので、黙るしかありません。


ああ、ハゲはこちらでも使われますわね。いえ、素敵な方はハゲても素敵ですけれど……

殿下はちょっとアレなので……見た目と血筋が御自慢の方というか……

つまりハゲたらちょっとアレな部分が更に目立ってしまうかしら、なーんて。


(ああ、また思考が他所(よそ)へいっているわ……)


前世の記憶が邪魔している今、気持ち的には【てへぺろ★(ノ≧ڡ≦)】ですが、勿論そんな場合でないのはわかっていますので、気合いで表情は崩しません。


殿下はそんな私にドヤ顔を向けています。


そう、コレはまさに【ドヤ顔】……いかにも『ドヤー』って感じですわね!

前世の語彙というのは、なかなかに趣深く表現力に満ち溢れています。


「フッ……王子自ら婚約破棄とは丁度いい」

「貴様は……」


また余計なことを考えている間に、私の後方から甘やかなハスキーヴォイス。

それは管楽器のような、非常に通りの良いお声……


(このお声は、まさか……!)





「私も言わせて貰おう」


──『すわ、【救済イケメン】か』 、と思いきや。

それは辺境伯令嬢のボニー様でした。


女性騎士であるボニー様はスラリとした長身でとても凛々しく、女生徒からの憧れの的。

今日もドレスではなく、騎士の礼服に御身を包んでらっしゃいます。


「私も、そこにいるキサック令息オズワルドとの婚約を破棄させて頂く!」

「な、なんだと?!」


彼女の一言に周囲がざわめきます。

【ざわ……ざわ……】と。


もう私は脳内で変換されるこの擬音の方に頭がいっぱいですが、当然皆様そうではありません。


「ボニー! 何故婚約破棄などと?!」


慌てふためくキサック令息オズワルド卿。


──そういえば殿下の他に取り巻き四人が後ろに控えてますね。

殿下側近騎士であるキサック令息オズワルド卿。

側近であるニール令息ホレス卿。

大商会の平民子息、アンブローズさん。

そして、私の義弟レイフ。


いずれも【将来有望イケメン】ばかり。


(これはもしや……【乙女ゲーム転生】とか【悪役令嬢転生】とかなのかしら?!)


──おっそ!

気が付くのおっそ!!


そう自らにツッコミを入れている私の前を颯爽と通り過ぎ、ボニー様はオズワルド卿に向かってこう尋ねました。


「そこの男爵令嬢メリッサとやらが階段から突き落とされたのなら、その時貴様はなにをやっていた?」

「それになんの関係が?!」


その言葉に、ボニー様は『呆れた』と言わんばかりに手を広げ、「ヤレヤレ」と溜息を吐きます。

イカニモなポーズもこの方がやると様になっていますね!


「ないとは言わせんぞ、オズワルド。 私という婚約者のいる貴様が彼女の傍にいる理由について、こう述べた筈だ。 ──『彼女が危害を加えられそうになっているから、守るよう殿下から頼まれた』と」


そして「ヤレヤレポーズ」……

からの!

なにやらカッコイイポーズ!


「ならば守れなかった時点で無能!! よって、私の婚約者に相応しくない!」


──バアアアァァーンッ!!


脳内に再生される猛猛しい擬音。

徐々にではなく突然なのに『徐々に』と感じてしまうなんて、とても奇妙ですわ!





「私も言わせて頂きますわ! ホレス様、同様の理由で婚約を破棄致します!」


なんと、エリン・プリーストリー伯爵令嬢も前へと出ていらっしゃいました。


「エリン?!」


エリン様は扇を取り出して、ホレス卿から嫌そうに目を逸らします。


「ホレス様は殿下の頼みでそちらの方に勉強を教えていたとのことでしたが、いつまで経っても彼女の成績は下位……これではなにを教えていたか疑われても仕方ありませんわねぇ? それとも教え方が下手だったのかしら。 どちらにしても家名を穢しそうな方、ウチには相応しくありませんの」


プリーストリー家は由緒正しい伯爵家であり、ご当主様は法の番人。身辺にはとても気を遣われてらっしゃいます。


「私も婚約破棄しますわ!」

「私もです!!」


更に義弟レイフの婚約者アレクシア・ヒューイット伯爵令嬢に、アンブローズさんの婚約者カーリー・コッパード子爵令嬢まで。


(──はっ?!)


コレ知ってるー!!!!

【俺が俺が】ですわ!!


皆が揃いも揃って同じことをやるって言い出すヤツー!!


「カーリー?!」

「アンブローズ、貴方がついていてあの御令嬢はどうしてあんなに下品なドレスを? 明らかに場にそぐわないでしょう。 ここで選択すべきはデイドレスだし、イブニングドレスにしても露出が過ぎるわ……最先端をいくにせよ、購買層が憧れて買いたい、と思うモノではない。 これでは商会との取引も考え直すべきね」


コッパード子爵家の領地は、先々代の奥方の名にちなんだパメラ織という技法を使い、美しい幾何学模様の織物を製造することで有名です。

経済的に言えば婚約がフイになってもおそらくそこまでの痛手は互いにありませんが、パメラ織に魅せられた商会長が頼み込んでの婚約と聞いております。


「アレクシア! どうして?!」

「どうしてもこうしても……私とレイフ様の婚約は政略的なモノですわ。 フリーダお姉様が公爵家に戻られるなら、私がレイフ様に嫁ぐ意味はありませんもの」


これはもう、語るまでもありませんね。

強いて言うなら「何故予想できんのか」……と。


ですが、しっかりとアレクシア様はトドメを刺していきます。


「大体にしてフリーダお姉様の苦労を間近で見ておいて、殿下をお止めしないような薄情な方に嫁ぐなんて……大事な時に味方になってくれない夫になるに違いないもの」

「そんな!! 愛してるんだ、アレクシア!」


アレクシア様とレイフは幼馴染みです。

私と殿下との婚約が早くに決まったことで、公爵家の後継ぎとして養子に来た彼の婚約も早くに決まりました。

妖精のようなアレクシア様が婚約者になったことを最も喜んだのは、間違いなくレイフでしょう。


必死で追い縋るレイフから距離を取り、アレクシア様は冷たく言い放ちました。


「正直に申しますわ……レイフ様。 気持ち悪いのです」

「えっ……」


レイフは贈り物や手紙を以前と同様に贈っていましたが、何度かメリッサ嬢のことを理由に会う約束をすっぽかしています。


これが【乙女ゲーム転生】ならば、レイフの攻略期間中だったのでしょう。

その後一定値までで好感度が止まり、攻略期間後アレクシア様にフォローをしたにせよ……やられた方は覚えているものです。

たとえ【友人ポジ】としてだとしても、いつまでも他の女(ヒロイン)のところに臆面なく侍っている男を『気持ち悪い』と思うのは当然ですわね。


「あ、わかる~」

「やっぱり皆様も?」

「なんで彼等が不思議そうな顔をしているか、逆に不思議だな!」

「「「ですよね~」」」


取り巻き男性陣は、よくは知らねど皆様それなりに婚約なり婚約者なりへの気持ちがあったらしく、一様に膝から崩れ落ちました。

盛大な【コントオチ】ですね!





ですが、残念ながらまだオチてません。

【俺が俺が】の中、いつの間にやら残るは私のみ。

これは私も一言、言わねばなりません。

オチ的に。


「ええと、殿下……婚約破棄、ですわよね?」

「あ、ああ……」


勿論私が言ったのはこの台詞です。


──【どうぞどうぞ~】





✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


卒業パーティーを使った、第一王子の盛大な婚約破棄劇は、公爵令嬢に冤罪をふっかけたにも関わらず何故か有耶無耶になって終わった。


第一王子バルハス殿下は子種を無くす処置をされ男爵令嬢メリッサと結婚、一代限りの伯爵として僻地へ。


他の四人については、冤罪がなんだか有耶無耶になったせいで王家からのお咎めはなく、家に処遇を一任された。


当然、親達は激怒。

それぞれ婚約は破棄された上で、厳しい処遇が待っていた。


しかし彼等が一番堪えたのは、元婚約者達の『気持ち悪い』発言だったという。


フリーダはその後、同情心からレイフを婿に迎えてやり、公爵夫人として完全にかつての義弟を尻に敷き元気で過ごしたものの、前世の記憶が役に立ったことは特に無かったらしい。


敢えて言うならば、婚約破棄された卒業パーティーに特に傷付くこともなく、非常に思い出深いモノとなったことだろうか。


めでたしめでたし。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 役に立たない記憶保持者、良きですね。 面白かったです。 ボニーさま最高です。 徐々にではなく突然なのに『徐々に』と感じてしまうなんて、とても奇妙ですわ! ↑この一文に吹きました。徐々に…
[良い点] コント、楽しかったです♪ フリーダのその後はちょっと意外でした。優しい、心が広いなぁと。一応は身内だし……というところかしら。ボニー様がかっこよかったです! ボニー様がフリーダを口説く場面…
[良い点] とても好き! 女性騎士であるボニー様が最高に惚れる! いい、好き! はあ、とっても楽しかったです♡
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