心強いひと
玉座の間を去ったルイは、ひとまず自室に戻っていた。ロディを攫った犯人の手がかりは少ない。情報を得るために自分自身があの場に再び向かうことも考えたが、それはあまりにも危険に思えた。
「……あの男たちの目的は何だろう」
ルイは窓から王都を眺めながら、ぽつりと呟いた。部屋には、ロディの荷物が物寂しく残されている。
(金銭なら、身代金を要求されるはず……そもそも彼らは本当に僕らが王族であることを知っていたのか?)
王族は日常的に国民に姿を見せることはない。あるとしても、記念式典などの時に遠く離れた場所に立つくらいだろうか。そのため、王城で働く者以外は王族の顔を把握していないことも多い。
(どこかで接点があったのか……調べるべきかな)
ルイは口元に手を当てて、斜め下に目線をやっている。それは、何かを考えるときのルイの癖だった。
(あの周辺で不審者目撃報告は上がっていたか?悪人の根城となりうる場所はあるか?あの男たちの身元は?……やっぱり現場に行くのが一番早そうだけど)
思考の沼に沈んでいると、後ろから肩を軽く叩かれた。ルイは弾かれるように振り返る。真後ろに立っていたのは、騎士団の制服に身を包んだリアだった。リアは驚いた表情のルイを見て、きょとんとしていた。
「…………!?リア、なんで?」
「父上からの呼び出しがあった」
「いや、うん。なんで僕の部屋に……」
「何度もノックはした。反応が無かったから入ったんだ。すまなかった」
リアはルイの問いに僅かに眉を顰めて答えた。ルイとしては、なぜ部屋に勝手に入っているのかではなく、なぜ部屋を訪れたのかを聞きたかったのだが、うまく伝わらなかったのかもしれない。
「いや、いいよ。もしかして、心配して来てくれたの?」
「………そんなところ。大丈夫か?人攫いに追われたと聞いたが」
「僕は平気……でも、ロディが」
そう呟き、部屋の隅に置かれたリアには見覚えのない鞄____ロディの荷物____を見つめるルイの様子に、リアは軽くため息をついた。
「何故第二王子が王都に居たのかは触れないでおくが……私たちも、全力で捜索任務にあたる」
「……心強いな」
真正面からルイを見つめ、力強く言い切ったリアを見て、ルイの顔に僅かな笑みが浮かんだ。緩んだルイの顔を見て、リアもふっと微笑んだ。
「やっと笑ったな」
「え」
唐突なリアの言葉に呆気に取られたルイ。リアはそんな様子のルイを優しく見つめている。双子ということもあり、ルイがリアを姉のように感じることは滅多にない。しかし、この時は彼女がとても姉らしく思えた。
「ずっと顔が強張ってた」
「……そう、だったんだ」
「彼が心配なのは分かるけれど、ずっと気を張っていたら疲れてしまうからな。抱え込みすぎないように」
どうやらリアに心配されるほど、ずっと険しい表情をしていたらしい。リアの言葉を聞いて、ルイは少しだけ肩の力が抜けたような気がした。
「……うん。ありがとう、リア」
ルイの返事に無言で頷いたリアは、部屋を立ち去ろうとドアに手をかけた。その背中を見たルイはもう一つ気がかりなことを思い出す。
「リア!」
「?」
呼び止められたリアはルイの方に振り返った。表情にも疑問の色が現れている。ルイは視線を彷徨わせながら遠慮がちに尋ねた。
「リアは、大丈夫?騎士団で何かあったりしなかった?」
「……何か?」
リアは遠回しな言い方を好まないし、そういう言い方は伝わらない。昔はそうでもなかった気がするのだが、騎士団での生活が影響しているのだろうか。やはり人は変わるものらしい。
「僕らの入れ替わりについて問い詰められたり、とか」
「ああ、そうか。先程兵士にバレたんだったな。父上が仰っていた」
「……うん、ごめん」
直接的な例を出すと、リアは質問の意図を理解したようだった。ルイは申し訳なさそうに目線を下げた。
「別に気にしなくていい。それに今のところ問題ない。捜索命令が下って皆忙しいのだろう」
「ならいいんだけど……」
リアは平然とした様子で全く問題ないと答えたが、ルイは不安が拭えないまま煮え切らない返事をする。リアはそんな様子のルイに釘を刺した後、穏やかな声で話しかけた。その声色はルイを安心させようとしているかのようだった。
「今は第二王子のことだ。……入れ替わりの件は、問題が起きたらまた報告する」
「……そうだね。お願いするよ」
はっきりとしたルイの返事を聞いたリアは頷き、今度こそルイの部屋を立ち去った。
(本当にありがとう、リア。僕も、しっかりしないと)
部屋に残ったルイは両手で自分の頬を挟むように叩く。そうして気持ちを切り替えた。問題が一つ増えてしまったが、リアの言った通り一刻も早くロディを助け出さなくてはならないことには変わりないのだ。
(城で調べれることは……過去にあの辺で不審な者が報告されているか、とかだな。あとは…)
王族や高官のみが入ることを許されている資料室に向かうため、ルイも自室を後にした。城の廊下を歩くルイの表情は、凛々しいものだった。




