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危機

 女性は、情報が確かな筋から出ていると言った。そうなると怪しいのは城の人間だろうか。ルイはなんとか詳しく聞き出そうとする。


「…そうなの?それは、どこから…「いや、いい。ありがとな。面白い話を聞かせてもらった。」


 ルイの言葉を遮ってロディが話を終わらせた。ルイは少し不満げにしながらも、ロディの様子を伺っている。


「いえいえ〜。そういえば、あなたたち何も頼んでないでしょ?このグラタンなんかオススメよ。私、ここの常連なの」


 メニュー表を指差しながら女性が言った。首元では、紋様が彫り込まれた宝石のついた首飾りが揺れている。大ぶりの宝石は薄紫色で、彼女の瞳の色によく似ていた。

 

 女性はもう食べ終えていたようで、話が終わるとルイたちに手を振り、席を立って出ていった。ルイは軽く会釈し、ロディは笑顔で手を振りかえした。女性の姿が見えなくなると、二人の顔は険しいものに変わっていく。



「何で聞くのをやめたの?…重要な情報を聞き出せそうだったのに」


「………嫌な予感がしたからな」


「嫌な予感?」


 ルイの問いかけに答えることなく、ロディは木の実が練り込まれたパンとスープを頼んだ。ルイも同じものを注文する。数分すると焼きたてのパンと温かいスープがテーブルの上に並べられた。ロディは届いた朝食を無言で早々と食べ終えてしまう。怪訝そうな表情のルイに、ロディは変わらない笑顔を見せた。しかし、声は少し固い。


「用ができた。悪いが、急げるか?」


 ロディはもう代金を用意していた。ルイは頷いて、残りのスープを掻き込んだ。



 ロディは店を出てから早歩きで人通りがない小路地まで来ると、腰に下げた袋から木製の笛を取り出して吹いた。今度は袋からペンと紙を取り出して何やら書き付けている。


「……こんなところで何してるの?」


「秘密」


「……………」


 よほど余裕がないのか、ロディはルイの問いに素気なく答えた。ルイはそっとロディの手元を覗き込むが、紙に何を書いているのかさっぱり分からなかった。少しすると、一羽の鳥が舞い降りてきた。鳩はロディの肩に止まり、顔を擦り寄せている。


「…この辺では見ない種類だね」


「だろうな」


 ロディは鳥を撫でた後、足に紙を括り付けて飛ばした。小さくなっていく鳥の姿を見送ってから、ロディはルイに振り向いた。


「行くぞ」

「え、どこに…「此処じゃない場所!」」


 ロディは戸惑っているルイの手を強引に掴んで走り出す。その顔からは笑顔が消えていた。手を引かれながらルイがあたりを見回すと、小路地の入口に人影が見えた。


「あの人から逃げてるの?」


「そんなとこ」


「…じゃあ、右には曲がったら駄目だよ。行き止まりになる」


「分かった」


 ルイも自分で走り始める。リアの地獄のような訓練のおかげで、多少体力がついていた。ルイは密かにリアに感謝する。


 二人は小路地を抜けて、中央通りに出ることを目指した。やはり謎の人影は自分達を追っているらしく、ルイたちが走り出すと走って追いかけてきた。


「あの人何なのさ!ずっと追いかけてきて…僕ら何もしてないよね!?」


「俺たちの正体が、バレたのかもな!」


「変装してたのに…」


「顔は変わってないだろ?」


「それはそうだけど! 僕、最近は人前に出てないはずだよ!?」


「ま、そういうこともあるさ」


「えぇ…」


「ほら、もう少しじゃないか?」


 前方から、馬車の音や賑やかな人々の話し声が聞こえ始める。薄暗い小路地の出口が近づいてきていたのだ。光が差す方に駆け込もうと速度を上げた瞬間、強い衝撃がルイを襲った。


「うわっ!」


「ゔっ……」


「ロディ!?」


 後方から聞こえる、苦しげなロディの呻き声。腹部を押さえてよろめいている。出血は見られないから、殴られたのだろう。どうやら出口の手前の右側に細い道があったらしく、そこから現れた男がルイを殴ろうとしたのだ。そしてルイはロディによって前方に突き飛ばされて助けられた。


 動けなくなっているロディを大柄な男が勢いよく地面に押さえつけた。再びロディが呻く。後方には、先程から追ってきている者もいる。自分が逃げられないことを悟ったロディは息も絶え絶えになりながら、声を絞り出した。


「先に、行って…くれ!俺は…平気だ!」


「でも!!」


 ルイは悲痛な表情を浮かべて、その場を動こうとしない。だが、ルイ一人で対処できる相手でもなかった。ロディが続けて叫ぶ。


「…っいいから!!」


 ルイは震える手を握りしめ、頷いた。唇が悔しげに歪んでいる。


「………ごめん。絶対、助けるから」


 そう言ったルイの蒼の眼は強い覚悟が現れており、鋭い輝きを放っているように見えた。


「…頼んだぞ、ルイ」


 小さくなっていくルイの背中を見て、ロディは弱々しく微笑んだ。


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