乖凛の過去 後編
「IMMO...ですか?」
聞いたこともない...というよりかそこまで学も無いので国際機関などの略称を聞いても全くピンとこない。
「SO/その通り!YOUは全く知らないだろうから説明してあげよう」
そう言ってどこからともなくホワイトボードを引っ張り出してリニーは説明を始めた。IMMOの理念や発足した理由。彼らの主な仕事やIMMOの庇護下に入るメリット、デメリット。要点をまとめた簡潔な紹介に乖凛は辟易していた。あまり乗り気ではない事をやらされた上、長々と興味のない企業説明を受けているようなものだ。どこか上の空で適当に頷いて返事をしているとそれを感じ取ったラニーは別の方向でアプローチをしていく。
「UN/うーん、そうだね。いっそのこと、IMMOに入るのでは無く彼等に情報を与えたり、偵察などの任務を委託して受けるというのはどうだろうか」
「...どういうことでしょうか」
「KI/金銭を貰う事を条件に業務を請け負うんだ。君が様々な街を偵察しているドローン魔法は非常に有益な情報を得ることに適している」
ホワイトボードを裏返し、純白の面に簡単な図を描いてわかりやすく説明していく。
(KA/乖凛は現状を憂いている。学校にも行かずに引きこもる事が親に対して負い目を持ち、劣等感に繋がっている。余り良くない行動ではある。が、魔法少女として活動して社会奉仕や金銭を受け取った仕事を通すことによって彼女の社会復帰の一助にもなるだろう)
乖凛は何もしない。
出会った当初に行っていたネットサーフィンも今はしておらず、罪悪感だけを募らせてベッドの片隅に座って魔法でドローンを操るだけだ。
ラニーは彼女を一目見た時から何かやるべき事を与えなくては自殺してしまう危うさを秘めている事に気づいていた。何もしない事に重圧を感じ、日々を過ごさない様に魔法少女の力を媒介に他者と関わるきっかけと街を救うという目的を与えた。
しかし、それだけでは積極的に人と関わらないし、与えられただけの目的で生きていけるほど強い心も持ち合わせていなかった。ならばと、IMMOに入らせて社交性を磨かせて学校とは別である社会に身を置いて短期的な目的を自身で見つけられる環境を用意する準備をしたのだが、興味を示さなかった。IMMOに入れば給料は勿論出るのだが、誰かの下で働く事で再び虐められるのではないかと危惧して社会から遠ざかっているように感じた。実際、彼女は何度か外に出ることを決心して外出したが直ぐに嘔吐をして家に戻ってしまっている。それらの状況を鑑みての在宅勤務体制が案として上がったがそれらを破棄。
彼女を一歩先に進める為には魅力的な提案をする必要があるのだ。そこから捻り出したのが業務委託という形態をとることだ。
組織に属する事なく、対等な関係で他者との接点を作り社交性を得る機会が手に入る。また、情報の販売や偵察の任務を受けることで金銭が貰える歩合制で整えるので何もできない自分から働けば働いただけお金が貰える環境に変わる。将来の展望に絶望を抱いている彼女としてはこの環境でしっかり稼ぐ事で未来の金銭的不安を払拭できる。そんな夢を抱かせ、魔法少女を辞めるまでの間にどれだけ稼げるかという目的を得ることができる。
故に、彼女は食い付いてきた。
今迄のやる気のない表情から一変して真剣な表情に変わっている。
「DA/だから、君が安全圏からドローンを用いて敵の情報収集をするビジネスが成立するわけだ」
「な、なるほど。それなら私にもできる...かも」
それが乖凛の『情報屋』としての本格的な活動のスタートになった。
結論として、中途半端に社交性を得たが故に内弁慶となった。電話越しでは普通に話せるが、対面すると緊張してろくに話せない。しっかりと金を稼いでいるので親に対する負目が減った。それが今、アメリアとの交渉の場で最悪の形で発露してしまったのであった。
大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。就活からの就職で余裕が無く書いている時間がほぼありませんでした。
正直、今も結構キツイので以前と比べて格段にペースは落ちますが続けていくので気長にお待ち頂けると幸いです。




