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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
魔法少女:Record Red Reflection Scramble:紅雷降臨:兵器は悪意に染まる
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幕間 干渉

 丑三つ時。木々も寝静まる夜の住宅街に黒い影が軽い足取りで目的地へと向かっていく。


 その姿は日本で見た者がいれば誰もが注目する程の大男だ。明らかに頭一つ抜けた背の高さをしており、隠密行動には向いていないと言えよう。


 しかし、誰も男に気がつくことはない。夜の帳を纏うていれば人々は寝静まりその姿を見る機会を失うからだ。服装も暗い色だ。この真夜中に光源も蛍光色でもない黒に染まった服で出歩くのは車に轢かれたい自殺志願者とでも言ってやりたいが、男の目的は人目に付かない事だ。行き先では保護色になりはしないが道中では黒に溶け込むことができよう。


 男はある家の前で立ち止まった。何の変哲もない只の住居。強いて他の家との違いを上げるのならばそう、「魔力が色濃く滲み出ている」。異界の技術の限界...などではない。音も魔力も外部に漏れないように徹底している。この男が規格外過ぎた。それだけの理由で彼らの隠れ蓑を暴いて見せた。


「...確かに酷ではある。しかし、私は大変残念に思う。私と同じ領域の者が治める世界の施設にしては貧弱という他あるまい」


 施錠された玄関を容易く解錠し、土足で中に踏み入れる。廊下を通り過ぎ、迷う事なく一目散にキッチンに向かい隠し通路を発見した。実にくだらない細工だと鼻で嗤いながら地下へと降り立つ。


 指先で明かりを灯し、岩盤に埋められた異質な白の壁を見つめる。怪人共の根城でもある、研究所(ラボ)。地下深くに転移された異界の研究所は男にとっても初めて見るもので興味深い。


 観察をしながら出入り口へとまっすぐ向かい、ディスプレイに認証を求められる。


「...ふむ、この波長かな?」


 その場に僅かに滞留した魔力の残滓を手繰り寄せ、真似て見せる。魔力によって認証される機械を騙せる程にその擬態は正確であった。ディスプレイには『照合完了致しました』の文字が浮かび、白き門は開かれた。研究所(ラボ)の電灯は人感センサーによって明かりが点くようで開いた直後は足元の電灯のみが照らしていたが、天井の電球が一気に光を放ち暗闇になれた視界を刺激する。思わず目を瞑ってしまったが直ぐに目は慣れていつも通りの視界に治った。


「さて、ここからは実験道具を探す時間だな。位置はわかるが壁をぶち抜いて一直線が楽なのだがな」


 ()()()()()()()()()()男は無意識か否か、独り言を喋り続ける癖があるようだ。その後も何かを見る度に己な見解や干渉に浸っては譫言のように喋り続けていた。


 彼にとってこの区画は興味深い物ばかりだった。常に自身の身に()()()()()()を追求し続けた故、異界の技術にうつつを抜かす暇も無かった。


 時間が無いなど分かりきっており、短な時間で目的の装置のある場へ辿り着き細工をする必要があった。男は永く生き過ぎた事に起因する時間の感覚の欠落と絶対に負けないという矜恃があった。のらりくらりと敵対する世界の研究所を歩いていれば見つかるのも時間の問題であった。


 ふらふらと迷い込んだ研究室から出た先の出来事だ。異人がいた。青い皮膚に尖った耳。腰から伸びる尻尾を渦巻かせ、開いた瞳孔は瞬く間に鋭い目付きへと変わる。


「しんにゅ...っぐぶ...」


 緑葉。静寂零に心酔する幹部候補の彼は戦闘力が低い。()()()()()()()()()()()()()()()研究所(ラボ)で突如として現れた異物に気圧された。間違いなく自分が敵う格の敵ではない。否、ここにいる誰もが敵わないと脳が理解する程に眼前の敵は強かった。


 しかし、叫びは届かず。流れるような速さで緑葉の背後を取り、口腔に指を突っ込み魔術を発動させた。緑葉は何も出来ずに只、その場に眠り込んだ。



「お遊びが過ぎたね。感知を忘れるほどに興味深い内容だったものでね。やはり他者の研究の成果は見るべきだ。私にインスピレーションを与えてくれる」


 緑葉を片手に引き摺って最奥へと向かう。着いた先には仰々しい程に大きな扉とハンドルが用意されていた。


「またもや魔力認証ならコイツを使ったほうが楽だと思ったのだが...」


 扉をじっくりと観察し、怪しげな箇所を探す。ハンドルを回すだけなどこの施設に対して警備が甘すぎる。すると他の壁面とは少し違った部位があり押し込んでみると小さな液晶画面が現れ、パスワードを求められた。


「持ってきて正確だったな」


 男はそういうと緑葉の頭に手を当てて、術を唱えた。辺りを青白い光が照らした。緑葉の記憶を抽出し、パスワードを読み込んだ。直ぐに8桁を打ち込み、鉄扉を開けると眼前に彼らの兵器が現れた。


「A・D...遠く及ばんな。負の感情から抽出されたエネルギーを使うからと言ってつけたようだが...理を超える兵器にはなりはしない」


 姿形は真似ているようだが機能や能力がまるで足りていない。日本の国土を焦土に変えるくらいは出来るだろうがその程度だ。根源となる力がまるで足りていない。 


「根源としての代替はできているか...負の感情とは悪をも指す。問題はそれ以外、搭載されている魔術が余りに少ない。そして傷口からは魔力が零れ落ちるだけ。このままでは鉄の竜にしかならん」


 拝火教においてそれは悪の根源である。三ヶ首、三ヶ頭に六ヶ目の竜。


「足りん魔術は私が搭載し、書き換えてやろう。我が匣庭には理を超える人間が必要だ。エニス一人ではまだ足りんのだ」


 千の魔術を行使して、傷口からは邪悪な爬虫類の怪物が湧き出したという。


「犠牲は必要だ。敵に塩を送ってでも作らねばならんのだよ」


 アジ・ダハーカ。ゾロアスター教の絶対悪によって生み出された悪の根源にして竜。それをモデルに()()で作られた世界を滅ぼす兵器。


「私の求める結果の為ならば幾らでも干渉しよう」

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