ドール殲滅戦3
「逃がしません!」
生物のキメラと化したドールを追う為に雷が如く走り飛ぶ。
紅き稲妻は跳躍したドールの背負ったバック目がけ紅雷を放つ。バリバリと乾燥した空を突き進み焼き尽くす寸前で旋回をした。
「っふん!」
両腕で雷を受け止めて何事もなかった様に地上へと急落下していく。直ぐに追いかけたいのだが、質量が違いすぎる。生物の重さと死体の重さで落下速度では向かうに軍配が上がり、軽いクリムゾンでは追いつけない。
それが彼の作戦であったのだが、彼女は一つ使っていない系統の魔法があった。
炎。
クリムゾンスパークが司る魔法は炎と雷である。使い勝手の良さで普段は雷ばかり目立つが炎の扱いも一級品である。
つまり、掌から噴き出された炎のブースターによって上空からトップスピードでドールに追いつけるということだ。
「っ!?しまっぐぉぉぉ!」
一足先に地上に降り立ったクリムゾンは落下による速度を利用して下から鋭い蹴りで突き上げた。遥か空の上からの落下速度によって蹴りの威力はとてつもなく高い。幾ら肉体改造をしたとはいえ生半可なダメージでは済まないだろう。
「っく!私は貴様を侮っていた様だクリムゾンスパーク。致し方が無い、逃げるのは辞めだ。貴様を殺して正面突破させてもらおう!」
バッグを適当に投げ捨て、竈馬の脚で飛ぶ。縦ではなく、横にだ。壁に脚を当て、真っ直ぐに殴りかかってきた。かなりの重量があるはずだが、並外れた跳躍力で縦横無尽に駆け回ることができる。そしてこの巨体による突進。真正面から受け止めてしまえばタダでは済まない威力となる。
それをギリギリまで見つめて紙一重で躱す。見当違いな方に吹っ飛んで行ったドールはクルリと回り、次は木の幹を利用しての突進。
「っ!!」
「グラァァァダァ!」
先程と全く同じタイミング、位置。完全に見切ったと確信したのも束の間、首が伸びて右腕へと噛み付いた。
「っぐ!かぁぁぁぁぁ!」
鰐の顎をしたドールの咬合力はコンクリートを軽々と砂に出来るほど。弱き魔法少女では一瞬で障壁を噛み砕かれ、肩から丸ごと切り落としていた所だ。クリムゾンは並じゃない。確かな実力者である彼女ですら深く、牙が刺さり込む。全身から放電させ、無事である左腕で殴りにかかるが重さでは向こうが上だ。雷撃に耐えながら、攻撃の主導権を渡さない。
デスロール。
推定400kgもある生物キメラ、ドールによる無慈悲な回転攻撃。雷撃を受けながらも腕を引き裂く為に暴れ回るが引きちぎる事は叶わない。
(っ!マズイ!何としてもここで致命的なダメージを与えなくては!)
今がドールにとって最大のチャンスなのだ。格上であるクリムゾンに報いる為には一瞬の隙をついて致命傷を負わせる。それしか考えられなかった。キメラ化して無理矢理強力なパワーを身につけているが技や戦闘センスは一日、二日でどうにかなるものではない。
研究畑であるドールが常に闘い続けるクリムゾンに練度で劣るのは言うまでもなく、そしてピンチへの切り返し方も彼女の方が優れていた。
「それなら!!!燃えてしまいなさい!!」
口内からは最大火力の火を噴き出した。燃え盛る炎で身体の内部を焼いてしまえば幾ら外殻を強くしたところで耐えられるはずもない。
あまりの激痛に口を離してしまう。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「今!!はぁぁぁぁぁ!」
紅雷を帯びた右脚で大地に蹴り落とし、そのまま遠心力で回転し今度は頭に蹴りを叩き込んだ。
「っぐ!うぐぁぁぁぁぁ!」
強烈な一撃が頭に響き、絶叫と同時に意識を失った。
「はぁ!はぁ!」
目の前の敵は恐らく幹部だ。そして、人にはもう戻れない完全に怪人になってしまった人物。つまりは、殺すしかない。
「....ッ!貴方に罪はないけれど、もう救う事はできない。ごめんなさい!」
炎雷を纏った拳が脳天を貫き、激しい血潮と共に絶命した。
*
「おやおやおやぁ?...クハハ、情けない!情けないとは正にこの惨状!Γが完全に停止し、ボクの力に頼った上で敗れるとは!情けない!情けないとしか言いようがない!」
ゴールドラッシュ相手に粘っていた転変者は戦闘の最中、突如として悪態をつけ始めた。
「...ああ。ドールの魔力反応が消えたな、同時にΓも稼働しなくなった。詰みだ、諦めとけよ仮面野郎」
「ククク、イヤイヤイヤ!ボクが諦めるのはナンセンスとしか言いようがない!この場は敗北を認め逃げさせて頂こう。しかし、しかしだ!この屈辱は忘れん、必ずや目に物を言わせてやろう。さらばだ!フハハハ!」
「逃すか!」
マントに包まった瞬間、凄まじい速度で拳を何度も叩き込んだのだが。
ただ、マントを傷つけるだけであった。そこには既に中身は無く、本体はワープでもしたのか魔力探知では追うことが出来ないくらい遠くに行ってしまったようだ。
『此方クリムゾンスパーク。無事にドールを撃破する事が出来ました。協力、ありがとうございました』
ドール殲滅戦は斯くして魔法少女達の勝利として終わった。しかし、そこに確かな手応えを感じられる事はできなかった。
(確かにドールはこの手で貫いた...けれど何かおかしい気がする。でも、その違和感の正体がわからない...)




