ドール殲滅戦2
休む間もなく飛び出すΓ達を倒し続けて数十分。クリムゾンスパーク達の元には何も現れる事はなく、只々報告を待つばかりであった。
異変が起きたのはゴールドラッシュのペアであった。
「っ!この異質な魔力は!?」
明らかに質の違う魔力反応が突如として顕現した。一つはΓシリーズより大きいだけの魔力。そしてもう一つは禍々しく、強大な魔力。
その質量は静寂に比べれば劣るが、並の幹部の強さでは無い。その上にその質感は嫌悪を抱く程に気持ちが悪い。ただならない相手ということだけは読み取ることができた。
「アサルト!俺が行く!!」
「了解!!雑魚共は任せなぁ!!」
大地から跳躍し、その拳で肉壁をぶち抜いて魔力の元へと向かう。
(どちらがドールかわからないが!)
「おらぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びを上げて魔力の低い方に襲い掛かる。場が荒れる前に弱い方を先に仕留め、強者との戦いになると目論んだのだ。
しかし、その攻撃は遮られた。
漆黒のマントによって腕を絡め取られ、あらぬ方向へと流されたのだ。
「ククク、フハハハ!柔よく剛を制すとは正にコレのこと!とは言えボクは戦地に赴くのは向いていないのですが...仕方ない、致し方無き転末!!部下に頼られては誰よりも!なによりも!仲間想いであるボクは断れる筈がない!!あぁ、悲しきかな。また、迷える子羊をこの手にかける事になろうとは!」
開口一番ペラペラと喋り出す仮面にシルクハットの男。転変者。今、正にこの場を掻き乱す為に投下された。
「っは!笑わせる。貴様が持ち得ない感情をさもあるように語りおって。まあいい、私は検体を回収して脱出する」
そう言って崩れたΓを幾つか回収し始めるのは桃雲。魔法少女達からの通称、ドールその人である。彼は確実にこの場面で検体を回収する為だけに転変者を呼び出し、戦線を崩壊させにかかった。
彼らの狙いは確実にゴールドラッシュを抑える事だ。静寂を倒したレベルの魔法少女を野放してしまったら他の場所で回収したところで追いつかれて終わるだろう。
故に、最も勝算のある方法を取ったのだ。ゴールドラッシュを直接足止めし、他は完全に無視。脱出にリソースを割いてこの場の勝者となる。鼻からΓは使い捨ての駒だ。データさえ手に入れば幾ら潰されても痛手では無い。
くだらない軽口を言いながらも彼の手は止まらずに回収作業を進めている。
『ドールが此方に出現した!厄介な敵に妨害を受けて仕留めきれない!応援を頼む!』
優先事項は各隊への伝達。自分自身がドールを始末する必要性は皆無。確実に奴を仕留める為に増援を呼び出し、ここで決着をつけなければならない。
(しかし、厄介極まりないな!)
転変者は分を弁えている。目の前のゴールドラッシュを格上と認識した上での立ち回り。純粋な殴り合いでは確実に勝機は無い。只、粛々と絡めてを使い妨害に徹している。
正面突破を狙えばマントにいなされてしまう。距離を詰め、インファイトを狙えばすぐに離脱して自身の間合いを保つ。
「おやおやおや!何やら苛立っているご様子!はてさて、何をそんなに苛立っていらっしゃるのか!このボクの頭脳を働かせても理解に追えませんなぁ!だがそれで良い!苛立ちは精敏さを欠くもの。深呼吸しなければ!フハハハ!」
「っ!ほんとムカつくな!」
生真面目な幹人には転変者の煽りと相性が悪い。挑発とは違い相手の神経を逆撫でするような言葉を次々と発するのが苛立ちを招く。常に冷静さを欠いてはいけないと心掛けているのだが、それはそれとしてイライラが募る。
馬鹿みたいな行動に出る訳では無い。凡ゆる行動が少しばかり粗くなり、易々と時間を稼がれてしまっている。
「っ!らぁぁぁぁぁ!」
荊を生やし、物量で押しにかかる。4本生えた荊は半分ずつ敵を捉えて潰しにかかる。両者を守る術はあるまいと双方を襲い、ドール諸共狙うが。
「ざぁんねぇん!その程度は想定済みだ。フハハハ、切り裂け!ギロチンよ!」
手を伸ばせば上空から3m程の刃が振り下ろされ、荊を真っ二つに引き裂く。転変者に差し迫る荊はマントから飛び出たナイフによって細々に切り刻まれ、その場を耐え切られた。
凌がれるのは覚悟の上であった。荊を暴れさせている間にゴールドラッシュはその姿を晦まし、敵対者へと接近をしていた。引き裂かれた荊の側面からすり抜けるように現れ、転変者へと掌底を叩き込む。
「っぐ!はぁ!!」
背後へと転がるように吹き飛びながら大袈裟に叫ぶ。
「...」
ゴールドラッシュの掌には違和感が残った。
(手応えがない)
確実に撃ち込めるタイミングで腹部に掌底を放ったが空を切るように虚に透かされた感覚。
「柔よく剛を制すとはよく言ったものだな。力を流したか」
「ククク、フハハハ!ご明察!大正解!よもや!たったの一撃で理解されようとは!まあ、大抵の実力者はわかるのだがね」
余計な一言を加えながら拍手を繰り返す。拳を強く握り、苛立ちを抑えながら正面を捉えつつドールを狙う隙を窺う。が、しかし。今の攻防で既にこの場を脱出していた。
「っーーー」
(応援が来るまで抑えておきたかったが!)
検体を回収したバッグを背中に抱えて夜の街を駆ける。怪人化した奴からすれば軽々と多量の荷物を背負いながら走り去れる。
『すまん!抑えきれなかった!北に逃げた!後は頼む!』
『問題ありません。私が捉えました』
瞬間、紅き稲妻が走る――――。
夜の暗闇は紅く照らされた。轟音と共に蹴りがドールの脇腹を突き刺さり、激しい勢いで横転する。
「っうぐぉ!ぉぉぉぉ...」
「逃がしません。貴方達は今日、この場所で終わりです」
クリムゾンスパークが到着し、ドールを見下ろす。
「っ!貴様もここまで早く来るとは...Γたちは!?」
「全て無視してイエローレッグに任せました。あの程度の傀儡では私を止めるスピードはだせません」
「っくそ!私は戦闘タイプじゃないんだがなぁ!」
怒りを大地にぶつけながら片方の手で懐から注射器を取り出す。
「まぁ良い。ムカつくが失敗後のプランを組んである。今宵の勝者は私たちだ!」
「っ!何を!」
首筋に鋭利な針が突き刺さり、液体が注入されていく。
「っぐぉぉぉぁあああ!良い!力が溢れる!実験は成功だ!最早貴様達には止められるまい!」
全身が歪に膨れ上がっていく。白衣もペストマスクも膨張に耐えられず破れ、肉が骨が肥大化し別の生物を模したように姿形が変わっていく。
顔は凶暴なクロコダイルの様に。腕はゴリラの様に太く強靭になり、身体は鉄の様に堅くなり背中は鋭い鱗がびっちりと覆っている。脚はアンバランスだ。蟲、それも竈馬。太く、しなやかではあるが上半身に反してかなり気持ち悪い。
「これを使ったからには本気だ。全力で逃げさせてもらおう」
それだけを言い残し、爆発的な跳躍力でその場から逃げ始めた。
桃雲の姿ですが初回掲載時と変わっています。登場回は既に編集済みです。
理由としてはジョーカーと見た目がかなり被ってしまったので変更させて頂きました。申し訳ありません。




