暗がりの研究室にて
(全くもってムカつく娘だ)
地上における魔法少女の偵察を担う人造人間、Android:Δ=Ⅱ。左眼にはカメラが搭載されており、彼女の見る景色はそのまま桃雲のモニターに映し出される。
常日頃から町を徘徊し、異常があれば桃雲に知らせる役目のある彼女は魔法少女達の会合を遠くから見つめていた。
(...元より今日は奴らの襲撃がある事は理解していたが、こうも堂々とするとはな。挑発のつもりか?)
魔法少女はこの事実は伏せての襲撃を予測していた桃雲だがどうやら外れたようだ。いつもと同様に二人でΓシリーズの排除、その後に現れた桃雲を複数の魔法少女で襲撃。それが奴らにとって最効率だと考えていた訳だが。
(在庫もまとめて処分するつもりか...その方が都合が良いのだがな)
Δ=2の瞳はクリムゾンスパークと視線がぶつかっている。明らかに彼女はコチラの偵察を承知の上で堂々と作戦を話している。全てを引き摺り出す算段だ。
桃雲の性格をよく理解していると言えよう。桃雲は根っからの研究者であり、Γシリーズは研究対象だ。常日頃からデータを撮り、態々身の危険を冒してまで戦闘後の街に回収する程に。
(俺と言う人間の行動を見抜いての選択、本当に苛立つ)
これはクリムゾンスパークからの宣戦布告。複数人の魔法少女を呼び出し、見せつける事で何よりも研究データを求める桃雲は確実に多量のΓシリーズを送り出すと理解した上での挑発行為。用はデータが欲しいんだろ?かかってこいよ纏めて返り討ちにしてやると喧嘩を売ってるのだ。
桃雲にとってその上からものを言う自信も己の浅い底を見抜かれた事も不快だ。
(だがそれは愚策だ。私が打つべき次の一手に対するリスクが軽減する...奢った小娘には手痛い目に遭ってもらおうか)
額に青筋を浮かべながら薄暗い研究室でモニターを眺め次の手に進む指示をしていると、背後から一際大きな影がぬるりと這い寄った。
「おやおやおや。思わぬ展開ですが...順調そうですねぇ。桃雲」
暗室に溶け込むような黒一色のファッションの男転変者。銀の仮面は僅かな光源を反射しこの部屋では眩しく感じる。
「...ああ。ムカつく事に計画通りに進めそうだ」
「クク、フハハハ!それはいい!実に良い!このボクへの負担が減ってくれると助かるんですがねぇ。あの魔法少女を相手にするのは少々、いやいやいや!かなり骨が折れる!」
相変わらず妙に高いテンションでの会話に辟易し、思わず溜息を吐く。
「はぁ、我らが上司とは言えこれは仕事の内だ。協力すると言ったのだ、最後まで役立ってもらうぞ」
「ええ、ええ、ええ!任せなさい!それに...上質な種子もいる。クハハハハ!これは甘露な悦びへと変わるでしょう!!転変者としての良き仕事ができそうですねぇ。その時には桃雲。君の力も添えてもらいましょうか!」
「...わかっている。仕事上の関係だ、必要ならば私も行動をするさ」
「それが!よろしいかと!ではでは、ボクは優雅なティータイムをしてから暗夜の戦場へと向かうとしましょう!」
マグカップに注がれた冷めたコーヒーを一口啜る。
「喧しい上司がようやく帰ったか...しかし、条件はもはや完璧と言えよう。今宵の勝者は君たちだ...後悔するほどのしっぺ返しが待っているがな」