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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
魔法少女:Record Red Reflection Scramble:紅雷降臨:兵器は悪意に染まる
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 時は経ち、放課後。この時間帯はいつも同じ場所に行く。

 

 総明総合病院。蒼慧理の入院する病院だ。意識は覚めないが、峠は超えている。肉体の欠損はあるが安定したバイタルを保っており面会謝絶では無くなった。医師曰く、時間が経てば時期に目覚めるらしい。


 家族以外の面会が解かれたのは約一ヶ月前の事。それからは放課後、毎日のように総合病院へと足を運んでいた。夜、魔法少女として共に戦ってきた戦友であり先輩。彼女がいなくては今も怪人として怪人を屠る悪鬼のままで在っただろう。


 一分、一秒でも早く目覚めて欲しいと願いながら病院へと向かう。彼女が傷つく前に辿り着けなかった罪悪感を抱えながら。


 自分達の誰が悪いという訳ではないと理解はしている。気絶していた幹人も歯が立たずに怯えてしまったグリーンアサルトも。蒼慧理がそれを責め立てる事もない。それでも胸に突き刺さった棘のような罪悪感は拭いきれない。



 夕刻。すっかり日の沈む時間は早くなり、17時になれば完全に辺りは真っ暗闇だ。灯りに照らされた病院前の停留所。スマホを片手に待ち人が来るのを待っている。とは言っても定刻は17時6分。いつも遅れて来る彼女の事だ、次のバスで来る事に違いない。ゆっくりと待とうと近くのベンチに座り込む。冷え込んではいるが夜の街で浴びる風はどこか気持ちが良い。イヤホンを挿して流行りの音楽のMVを聴いていると肩に手を置かれた。何事かと後ろを振り返れば待ち人がそこに立っていた。


「おいおい、待ち合わせの時間だろ?何呑気にスマホいじってんだよ」


 鎌田飾。魔法少女グリーンアサルトに変身する事ができる隣町の少女。静寂との決戦以降は隣町だった事もあり、全く会っていなかった。しかし、蒼慧理の面会が解禁されてからは示し合わせた訳でもなくお互い毎日のように病院で顔を合わせるようになり、やがて待ち合わせをしてから病室に向かうようになったのだ。


「悪い悪い。いつも遅刻して来るから時間通りに来るとは思わなかったんだよ」


 「うっせーこの野郎」と肘で腋腹を突いてくる飾はどこか楽しそうだ。


「じゃあさっさと行こうぜ。あんまり遅くなると危ないだろ?」


「誰にモノ言ってんだよ。不審者だろうが怪人だろうが一捻りだっつーの」


 飾もすっかり元の調子に戻ってきた。静寂の容赦ない猛攻にやられ、目の前で仲間が無惨な姿になるまで痛めつけられた。その光景がしばらくトラウマになっていたようで若干だが勝気な性格が鳴りを潜めていたのだが、時が経つにつれて本調子を取り戻していった。


「それにしてもいつ起きてくれんのか...オレはこのまま植物状態になっちまわねぇか心配だぜ」


「...医者の目覚めるから大丈夫とは言ってたみたいだけど起きる気配が無いもんな」


 彼女の心情に共感せざるを得ない。時間の経過でいつ目覚めてもおかしくはないと言うがそれから何も事態は好転していない。身体は問題ないが意識が戻らない。それが堪らなく不安なのだ。目覚めるのはいつになるのか。今日か、明日か一ヶ月後か。数年単位で目覚めないのかもしれない。お見舞いに行ったら既に起き上がっている彼女がいるかもしれない。そんな理想を胸に押し込めながら二人は今日も病室に向かう。他愛のない雑談をしながら。


 今日は何をしたとか、学校はどうだったとか。そんな取るに足らないもの。いずれは三人で同じように雑談をして平和な日々を過ごしたいものだ。


 彼女の病室は3階。入口を曲がって右手にあるエレベーターを使って向かう。3階につけば心臓の鼓動が少し早くなる。今日こそは目覚めていないかと期待する気持ちが先行してしまう。


「...なあ、病室んとこのネームプレート消えてんだけど」


 我先へと向かっていった飾が異変に気がついた。


「床に落ちてたりとかしてないのか?」


 言われて頭を下げて辺りを見渡してもそれらしき物は落ちていない。


「とりあえず開けてみるわ」


 そう言って部屋の中に入り込むとそこは間抜けのもぬけのからだった。部屋は綺麗に整頓されてあり、初めからそこには誰もいなかったかのように綺麗だ。


「幾ら何でも直ぐに退院できるわきゃねぇよな?」


「目が覚めたから病室の移動があったとかじゃないか?ナースステーション行ってみようぜ」


「あぁ、そうだな」


 患者の内情を知っている看護師にどうしたのか訊くために二人はナースステーションを訪れたのだがら返ってきた言葉は予想も付かないものだった。


「あー蒼慧理ちゃんね。実は昨日の夜目覚めたんだけどね、色々あって病院を移る事になったのよ」



どこまでも深く深く落ちていく。奈落の底。息詰まった苦しい感覚は抜けないまま、下は下へと引っ張られては上に戻される。一体いつになったらこの無間の地獄は終わるのだろうか。


 夢を見続ける。終わりの先は描けないだってその先の人生を知らないから。


 外套の男に殺される為に私は友の元へ向かう。立ち向かって抗って、手を潰されて内臓を手刀で貫かれる。


「あがぁぁぁぁ!」


 変わらない。行動も言葉も。あの日の繰り返し。絶望のレールの上に立たされてそれをなぞり、同じ痛みを味わう。気が狂いそうになる程にそれは続く。


 いや、終わりはないのかもしれない。天国も地獄も死んだ後にはなくて、死後はただ、自身の苦悶を与えられる走馬灯を永遠と見せられるだけなのかもしれない。


 それでも救いが欲しくて何度も何度も生にしがみつくために手を伸ばす。()()()()()()()()()


 


「っぐはぁ!はぁ、はぁ!」


 少女は覚醒する。気がつけば全身が汗まみれでぐっしょりとしているが上手く身体を動かさない。


「あ...」


 なんとか少しだけ頭を動かしてみれば点滴やら何やらで腕や下半身から管が挿入されていた。そこでようやく気がついた自分は意識不明の重体だったと。


 身体中に違和感があるが痛みは無い。長い間眠っていた影響でかなり筋力が低下しているようだ。そして何より片腕が無くなってしまっている。嫌な現実をこれでもかと教えてくる視界に思わず涙が浮かび上がる。


(本当に私の腕なくなっちゃったんだ...)


 辛くて、情けなくて涙と嗚咽が止まらない。3、4分ほど泣けば少しばかりは心に溜まった鬱憤が晴れる。


(...呼ばないと)


 いつ起きても対応できるようにか残った左手の脇にナースコールのボタンがあった。人差し指でそれを押せば直ぐに当直の医師と看護師が駆けつけてきた。



 検査やら何やらを済ませて出た結論は脳などに障害とは残っておらず、著しく落ちてしまった筋肉を取り戻す為のリハビリをしながら経過観察する事になった。やはりこの怪我は最近起きている殺人事件の一件として処理されているらしく、明日にも警察が来て事情聴取が行われる。


(意識戻ったばっかで割と落ち込んでるんだけどな)


 だが、肉体的にも精神的にも問題ないと判断されたようで問答無用で警察は来るだろう。現在も同様の事件が続いてるが故に、生き残った被害者から解決の糸口をどうにか掴みたいのだろう。


 相手が超常の力を持った怪人の集団なので警察機関では無理だろうと思うが、彼らはそれを理解することはないだろう。


 両親にはとても心配された。当然だが娘がこんな重傷を負って心配しないで筈がない。心配したと大泣きされながら抱きつかれ、そして叱られた。深夜帯に出かけるなんて馬鹿げた事をするなと。言い返せる言葉など持ち合わせていない。幾ら魔法少女として戦うとはいえそれを正直に答えるなんて滑稽だし、仮に伝えられる立場だったとしても親からすれば猛反対の内容だ。命懸けで娘が街の平和を守るなんてたまったもんじゃないだろう。


 だからその叱りを受け入れた、自分への戒めとしても。二度とこんな状態にはならないと心に決めた。


 それらが全て片付けば、もう一匹の訪問者が朝に訪れた。


「歓喜/目覚めたようだね慧理。私は嬉しいよ」


 一般人では視認するのが不可能な存在、ケルベス。彼もまた蒼慧理を心配する者として毎朝のように病院を訪れていたのだ。


「ほとんど死にかけみたいだけどね。どうにか命を繋ぎ止めたって感じかな」


「鼓舞/そう悲観することはあるまい。死を免れただけで儲け物だ。生きていれば道は拓ける」


「そうかもしれないけど...まだ外套の男がいるでしょう?その...皆んなは無事なの?」


 彼女は知らない。少年が仇敵を倒した事を、その顛末を。


「無問題/それは既に解決した。その全てを語ろう」


 ケルベスは語る。その後の始末を。一時的に蘇ったゴールドラッシュによって窮地を脱した後、外套の男である静寂零を新たなる力でギリギリ打ち勝ったその決戦を。


「...良かった。私、またアイツと戦うなら死を覚悟していたから」


「驚愕/...そこまでの覚悟があったか。その必要はもう無いのだ。安心して養生するといい。これ以上の会話は体に障るだろう、ここいらでお暇ささてもらおう」


「そ、ありがとうねケルベス。また今度」


 ギリギリ動く左手で手を振るとケルベスはその小さな手で精一杯手を振りかえしてくれた。


 一番危惧していた強敵が死んだという報告を受けて安堵する。慧理も飾と同じくトラウマレベルで心をやられていたので、彼と相対することはなくなったと聞いて救われた気分だ。


「それなら思ってたよりもゆっくりしていられそうかな」


 急いでリハビリをして身体の感覚を取り戻し、リベンジを果たす必要は無い。あれ程の幹部なんて早々出ることはないので幹人一人に任せておけば安心だ。治療、ひいては休むことに専念してこの状態を改善と意気込むと病室のドアをノックされる。


「どうぞ」


 朝食は済んだので、おそらく警察だろう。検査等は午後に行うと聞いていたのでまず間違い無いだろう。


「どうも、失礼しマす」


 聴こえてきたのは流暢なようで何処か発音がズレた日本語を放つ男の声。日本に長く滞在した海外の人間のような喋り方。ドアをスライドして現れたのはその声から予想できた通りの外国人。高身長に金髪に青い瞳。スーツを身につけた彼は懐から名刺を取り出して話し始めた。


「はじめまシて、蒼慧理さん。僕はレイモンド・ベネリィ。IMMOの職員をやらセて頂いテマす」

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