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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
First:その身体に潜むもの:蒼き慟哭
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限界突破の超激戦!

 それは獣同士の力比べだ。ぶつかり合う力と力。魔力と魔力。両者の激しい激突が衝撃波を起こして周囲を削っていく。二人が立っている地面が消え去り、互いにバランスが崩れたのを皮切りに決戦の火蓋が切られる。


 静寂の無拍子の蹴り上げを躱して伸び切った脚を両手で掴みドロップキックを喰らわせる。顔面にモロに決まったが微動だにせず、両脚を抱きかかえて手と脚で地面へと叩きつけた。咄嗟に反応して受身を取るがそのまま上空から降り立った静寂にマウントを取られる。胸より僅か下に乗っかり、膝で両腕を塞ぎ込み頭蓋骨に覆われた顔面を殴る。


 脚で踏ん張って立ち上がろうとするもその巨体と地面に押し付ける力が強力で立ち上がることができない。骨を叩き割りながら何度も何度も顔面を殴る。鼻がへし折れて息が詰まる。このままでは殴り殺されると危機感を覚えて拳に合わせて頭突きを喰らわせる。魔力を額に集中させて振った頭突きは拳にヒビが入るように鮮血が吹き出した。

 

 ―――怯んだ。


 一瞬で荊を顕現させて分厚い胸板を巻き上げる。締め上げられる痛みに僅かな呻き声。荊は天高く持ち上げ、静寂を地面へと叩きつけた。


 素早く立ち上がり、荊で絡めとった身体に追撃に向かうが既に脱出しており離れた位置で睨む様に構えていた。


 呼吸が荒く乱れる。身体に迸るのは凄まじい熱だが外気は低い。乱れた呼吸で白い吐息が見える。だが、幹人に整えている余裕など与えぬと言わんばかりに、静寂は一手早く駆け出した。乱れた呼吸を整える、その点に関しては暗殺術を極めた静寂に一日の長があった。完全に後手に回ってしまったが、以前程の驚異的なスピードは保っていない。ダメージなど受けていないとでも言いたいような無機質な表情で迫り来るがパフォーマンスが落ちているのは誰が見ても明らかだ。落ち着いて対処すれば問題ないと思考するも束の間。


 ―――視界が遮られた。


 轟音と共にグラウンドの土が飛沫を上げた。幹人の数m手前まで走り込み、震脚が如く大地を踏み抜いた。

 

 自身の身体がどれだけ疲弊しているかなど他の誰でもない静寂が一番理解しているのだ。クレーターができるほどに衝撃を与えられた地面は砂塵を撒き散らし、安易な打ち込みを避けて奇襲に打って出た。


 人間の仕入れる情報の大半は視覚と呼ばれている。拮抗した今の状況では手による目潰しは有効ではないと判断。砂塵を撒く事によって強制的に視覚情報をカットして幹人の死角から攻撃をする算段であろう。後手に回ってしまった故にこの状況でどうにかカウンターを決めるしかあるまい。


 背後に下がってもいいのだが、その場合も静寂は計算しているはずだ。背後への離脱を念頭に置き、対処できる範囲内で隙をついてくる。視覚以外に頼りたい所だが、土の匂いで嗅覚は潰され、舞い散る砂利と埋まっていた石の音で聴覚も余り当てにならない。


 荊。


 有効な手がないのならこの盤面をひっくり返すほか無い。2本の荊を螺旋させながら砂塵を押し返す。土砂が崩れた程激しい鳴動と共に周囲を纏めて灰塵にするが、静寂はいない。


 彼は既に次の手を打っていた。死角となっていた右方から左方にかけての180度。平地にいないのであれば上。見上げれば静寂が迫っていた。


 目隠しとして砂塵を巻上げた直後、彼は一部の土塊を足場にして上空へと跳躍していた。砂塵を押し返す事も折り込み済み。前方を埋めてしまえば完全に覆われて死角となるわかりやすい方向を警戒する。ならばその穴を突いて一気にぶち抜く。


 咄嗟の判断で両腕を十字にクロスさせて受けに出る。だが、それが誤りだと気づく。今の加速と体重、魔力が上乗せさせられた踵落としを直撃してしまえば腕なんて簡単にもげてしまう。追加の荊、髪を利用して軌道をズラす事を目的として射出する。髪は一本一本の密度が足りずに質量で容易くちぎられる。骨を折る破壊音を鳴らすだけで意味をなさなかった。だが、三本の荊を捻じ曲げて力の方向性をそらす事により、僅かながら軌道修正に成功。踵落としはそのまま大地を砕き、大地を割った。


 衝撃によりノックバックした幹人は髪をフェンスに巻き付けて離脱。それを追いかける形で飛び出してきた静寂の拳を逆手に腕を締める。巻き付けた髪で重力を無視してフェンスに立ち、背負い投げを行う。フェンスに背中を思いっきりめり込ませ、重力に従い地面へと自由落下する。


 静寂は腕を使って着地。着地点で腕の関節を曲げてバネのように飛び跳ね、両脚が深く腹部に突き刺さる。踏ん張りが効かずに空へと投げ出される。


 猛烈なスピードで弾かれた幹人は校舎を軽く超え、雲を突き抜ける。雲は一瞬でかき消され、月の明かりが差し込む。先程の攻撃で刹那にも満たない時間、意識が途切れており成層圏で血反吐を吐きながら覚醒する。息が苦しい、呼吸が荒れて腹部の痛みが伝わってくる。それでも立ち向かわなければならない。どれだけ苦しくて逃げたくなっても前に進む。ヤツを静寂を倒さなければ明日を迎えることなんてできはしない。踏ん張り所だと喝をいれて気合を入れ直す。


 大地へと視線を向ける。足場代わりに荊を生成し、総雲高校めがけて隕石の如く落ちていく。猛スピードで落ちゆく幹人に対し、静寂はカウンターを構える。金の装甲が月明かりを反射して位置を特定する。


 幹人は奇襲など考えていない。ただ、この一撃は静寂の力を大きく削ぐチャンスと考えて聞いたこともないほどの絶叫を上げて拳を振るう。それは海を山を空を割る絶大な拳。化勁によって受け流すことを想定していた静寂だが、想像を絶する威力に力の受け流しが完璧にはできなかった。


 肉が爆ぜる。


 受け損ねた右腕の関節から下が枝葉を折るように簡単に割れた。綺麗な断面とも言えず、患部からは凹凸のある骨とズタズタになった筋繊維と血管が垂れており血が噴出していた。


 しかし、それほどの大ダメージを受けた上で静寂は冷静に冷徹に次の一手を出す。まともに受け身が取れずに地面に転がり込んだ幹人の太腿に拳を突き刺して直接骨を砕いた。


 2度の絶叫。だがそれは先程の己を鼓舞するとは違う、苦痛から吐き出される痛みの叫び。静寂はその状態のまま、持ち上げて何度も!何度も!地面に叩きつけた。金属と骨と肉が潰される不協和音。肉団子になるまで繰り返してやるつもりだったが先に太腿の肉と骨が削げ落ちて腕からすっぽ抜けてしまった。


 脚はくっついているのが不思議なくらいの大きな空洞ができてしまった。立とうとすれば今にも折れる、というか千切れてしまいそうなので髪と骨を伸ばして補強する。自分の患部から生えてくるわけではない。応急処置で無理矢理穴を埋めているのだ。離れた肉と肉に骨を突き刺して繋ぎ、髪で結う作業は激痛を伴った。


 全身から血を垂れ流しながら立ち上がる。今にも意識が飛びそうで朦朧としている。身体を覆っていた鎧も骨も砕けちり、ほぼ裸体の状態で生傷を外気に晒している。へし折れた鼻を力づくで戻して血を吹く。


 血は無理やり止めたがこれ以上血を流しては死んでしまう。もう間も無く決着をつけなければ危うい。だが、それは敵も同じ筈だ。


 本来なら、幹人が体制を立て直している間に襲撃すれば勝っていたのだが。静寂は意識が飛んでいた。幹人を地面に叩き続けていたのは執念であった。腕を失った段階で静寂も幹人と同じ危険域に達しており、倒れ込んでいた幹人を殺さねば敗北があり得る。それだけで意識が飛びながら攻撃を続けていたのだ。


 そして、目を覚ます。幹人が立て直し、立ち上がったタイミングと同時期に。修羅場を潜ってきた男だ、ここが正念場だと理解する。何度醜態を晒したかわからないが最後に立っていた者こそ勝者なのだ。世界を破滅させる。それが目的ならば目の前の少年一人殺さなくて何ができると言うのか。復讐を果たす、それだけだ。闘志を燃やす、この世界に抗う為に。完全に乱れてしまった呼吸を整えてたったの一本になってしまった腕を構える。


 幹人は血と汗で霞んだ視界を見開き、怨敵を見据える。



 静寂は血と怨念で歪んだ視界を見開き、呪縛を解いた先の未来を見据える。


 既に二人は肉体が負えるダメージの限界を超えた。それでも止まることを知らない超激戦。


 決着は近い。


 己の血肉を滾らせて、全身全霊でぶつかり、勝利に対する執念で相手の命を奪い取れ。



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