骨の怪人
それが過ちであることはわかっている。
彼女が望んだ姿でないことも。
でも、この時の俺はそんな冷静さを持ち合わせていない。
怒りと憎悪。スパイスに正義感。
間違えまくった行いを繰り返していた。
彼女は只、生きて欲しくて行った行為なんだ。
彼女は託した訳では無い。健やかに過ごして欲しいと願った。
それだけの話。
でも、俺は違う。
彼女の願いではなかったとしても。
俺は同じ道を歩む。
誰のためでも無い、自分の為に。
勝手に託されてやる。
*
身体には骨子が形成され、身体の部位を守る為に包み込む。関節部には骨の刃。腕からは太く鋭い骨の杭。顔は山羊に似た頭蓋に覆われ、禍々しいツノが威圧感を放っている。
美しかった絹のような金髪は白骨のように白くなり、ワイヤーのような強度、鋭さを得ていた。頭蓋の後ろから垂れる白糸は自在に操る事ができ、波打つ如く唸っていた。
「な、なんだ。同業者かよ。気づかずに襲ったことは謝る。何か手伝うからよ、それで手打ちにしてくれねぇか」
蛇頭は先程とは態度を一変し、友好的に交渉をしてきた。どうやら仲間意識を持っているようで互いに争うつもりはないらしい。
「それは違うよな」
手に風穴を開けられ、うずくまった蛇頭を蹴り飛ばす。幹人は交渉に乗る気など無い。目の前にある悪を罰する。その衝動に駆られて動いている。
無様にも転がった蛇頭は怒りを露わにして吠える。
「テメェ!こっちが大人しく下手に出てやったのに舐めたことやりやがって」
「それで、どうするんだ」
「ぶち殺すとはいわねぇよ。永遠に苦しみを味わう人形にしてやるよ」
「やってみろよ」
蛇頭が大きく一歩踏み出す。それに合わせ、幹人は沈むように腰を下げて蛇頭の懐に潜り込む。人離れしたスピードに蛇頭は息を呑む。
拳を振り上げ、骨杭を腹部に捩じ込もうとするも跳躍により回避する。さながら映画のアクションシーンのようだ。それを皮切りに更に戦闘は加速していく。
白い髪を変化自在に操る。幾千、幾万と束ねて拘束回転させる。10の束を作り上げ、射出する。一つ一つがドリルのように削り、槍のように穿つ凶器となる。縦横無尽に駆け巡り、あらゆる方向から標的を狙い打つ。
1本、2本、3本と次々と襲いかかる攻撃に壁を駆使して避ける。だが、避けた所で軌道を変えてまた追従をする。やがて四方八方を囲まれて束の一つが肩を貫く。
「ギャァァァァ!」
その大きさに相応しい大声で悲鳴をあげる。肩には穿孔ができ、血肉は一瞬で抉り取られていた。強靭な鱗ですら一秒ともたなかった。貫いた髪は束を解き、無数の線となり蛇頭を拘束する。
「オイオイ、思ったより一方的に終わったな。確か、苦しむ顔が好きなんだったよな」
九つの束の回転を止め、一つの束へと収束させる。髪を更に伸ばし、ぐにゃぐにゃと手の形へと変貌していく。やがて、2、3m程の巨大な拳となり蛇頭を握る。
「なぁ、なぁ、嘘だよなぁ!?オレたちは仲間だろぉ!」
「ぶち殺すって吠えてた野郎が何言ってるんだ。お前は罪を償ってもらわないとな」
完全に戦意は喪失し、助けてもらおうと懇願するもアッサリと切捨てられる。気持ち悪い笑顔は影も形もなく、恐怖の表情へと染められていた。
立場は完全に逆転した。今や蛇頭が怯え、死を感じ取っている。対照的に幹人は圧倒的な力を持って制圧した。頭蓋に埋もれ表情は読み取れないが、悪い顔で笑みを浮かべているのだろうと想像ができる。
「償うってなんだよ、オレに何をするつもりだよぉ!」
「簡単だ、お前が彼女にやったことをそのまま体験してもらうだけだ」
「っな!ばっぐぉぉ....」
全身を握っていた指の位置を変える。親指と人差し指で首を摘み、他の指で体を握っている。ジワジワと力を強めていき、地獄の苦しみを味わう。気管が圧迫され、酸素が足りなくなっていく。
「ぐぉ...お...」
最早喚くこともできなくなり、微かな呻き声が風の音に消される。死にたくない、その一心で四肢を動かして抵抗するも、骨で編み上げられた掌はビクともしない。抵抗するだけ無駄であった。
「さて、終わらせようか。怪人には人権なんてもの、ねぇよな」
「っひぎゅ」
瞬間、破裂する音がした。女性とは逆、体に圧力をかけて破裂させるように握り潰した。無事なのはすり抜けていた四肢と頭部。水風船のように飛び散り、路地裏の壁を赤に塗りつぶした、臓物は爆ぜた。骨は粉々になり、血を吸収して気持ち悪い塊になっていた。最早路地裏は凄惨な地獄の場へと変わり果てた。
それに対し幹人は昂揚感を覚えていた。
「あぁ、なるほど。殺人事件ってのはこういう事だったのか」
最近増えてきた無数の殺人事件。日本に留まらず、海外でもここ数年増えてきている現象。それら全ては怪人の仕業だったのかと、一人納得する。それならば納得ができる。何せ全く犯人が捕まらずに各方面から無能と言われるほどに証拠が上がらなかったのだ。当然だ、人でない存在が日夜事件を起こしているのだ解明するはずも無い。
それと同時に理解した。金剛寺香織はこの一件を解決しようと動き回り、怪人達から目をつけられたのだ。その時に偶然いた幹人が当て馬にされた。
幹人は自分の体を見つめ、ニタニタと笑う。
「この姿が金剛寺先輩の力って訳か」
的外れだが先日の記憶が完全ではないが為、勘違いをする。正しくは幹人の怪人化の影響であるが、それに気づく事はまだ先だ。
(だとしても、なんで先輩の力と姿が俺に成り代わっているんだ)
力がある事はわかった。しかし、今回の目的である姿を元に戻す事やそうなった原因は不明のままだ。だが、幹人はそのままグズグス止まっていられる男ではなかった。
「決めた、先輩の遺志を継いでやる。こんな悪党共が他人を喰い物にして弄ぶなんて事は許せない」
この世界に住まう大半の人間が知らない事実。それを知り、力を持ったなら抗う以外に何をするというのか。善を行い、悪を正し平和へと導く。それが使命だと、心が訴える。
そして、戦っていけば真相も判明するはずだ。一連の謎を解く為に幹人は夜の街を歩き出す。
「パトロール開始だ。悪い怪人共は俺が片っ端から罰してやるよ」