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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
First:その身体に潜むもの:蒼き慟哭
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外套の中身

「だぁぁぁぁぁぁあ!」


 膨張した魔力が溢れんばかりに噴出し、肉体を軋ませながら力を得る。身体にはバチバチと鳴り響く漏れ出した魔力の残滓がスパークしている。

 

「っ噴!!!」


 稲妻が如く伸びた右ストレートは空気を震撼させる程の拳圧を放つ。


 男は其れを見据え、一歩踏み込んで回避する。只、避けるよりも回避した上で反撃ができるように無駄のない動き。ガラ空きの腹部に突きをお見舞いしようと狙っていたのだが、ゴールドラッシュも一筋縄では無い。


 左手で突いてきた手を掴み、捻ってへし折ろうとする。即座に男は前方へ押し返し、緩んだ拘束から腕を抜け出した。そこからは力押しがはじまった。


「らぁぁぁぁぁぁぁ!ダダダダダダダダダ!」


 拘束が解かれた男は瞬時に距離を取ろうとするが、それを許さない。

 ゴールドラッシュと呼ばれる所以。超高速のラッシュ。

 殴る。殴る。殴る。

 ひたすらに殴り続ける。超無呼吸の連打。


 ゴールドラッシュのスタイルは圧倒的なパワーでは無く、全てを超越する手数。瞬発力の高い速筋が鍛えられており、短期間で爆発的な力を発揮する。持久力が無いのが欠点だ。

 だが、今回はそれは決してデメリットとはならない。全員が逃げられるだけの時間稼ぎが目的だ。夜明けは近く、太陽が昇るまではこの力は保つだろう。

 肉体に溢れ続ける魔力と共にその力を発揮させる。 


「っく!はぁぁぁぁ!っぐはぁ!」


 全ての攻撃を受け流すべく、雪崩のような勢いで迫り来る拳を全て弾こうと男は間合いに入る度に鶴頭や化勁と言った技を使い払おうと応戦する。 

 だが、その速さにはついていけなかった。


 眩いスパークを放ちながら、全身に降り注ぐ拳は音を超えている。殴った衝撃の後に音が鳴る。


(この盤面から抜け出さなくては!)


「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉ!」


 全身から魔力を放つ。自身の身体を中心に魔力エネルギーの障壁を球状に展開し、殴り続けるゴールドラッシュを押し返した。



「っ!このまま押し切りたかったんだけどね...贅沢だったかな」


「かなりの力を得たが、私を超えるには至らない。一方的にやられる程、低次元な存在では無いのだよ」


(...とはいえ、今のかなり喰らってしまった。強さが加速していってるのか?)


 男は距離感を考える。両者共に徒手格闘による接近した戦闘が得意だ。生半可なやり方では向かうの攻撃によって敗北は必至だ。

 

 戦闘に置いて言うならば持久戦に持ち込めば勝つ見込みはある。

 しかし、それは事実上の敗北だ。人が増え始める朝には撤退しなければならない。夜明けの近い今、持久戦に持ち込んだところで朝になってしまい、易々と逃げられるだろう。


(確実に追い込まねば)


 殺す算段を立てるために、頭をフル稼働させているとゴールドラッシュが珍しく自ら話しかけてきた。

 時間稼ぎに使われると判断し、聞く耳を持つつもりはなかった。

 それは男の確信を突く内容であった。

 外套で隠し続けてきた己の正体を明かす、時間稼ぎのショーだ。


「ところで、いつまでそんな外套で顔を隠し続けるんだい。()()


「.....」


「ダンマリ...か。別に隠し続ける理由はないと思うけど。ペラペラ喋りすぎだね」


 ノイズが消え、聴き覚えのある低い声で言葉を発した。


「気づいたか...別に構わないがな。私の正体を暴いたところで結果は何も変わらない」


 外套を脱ぎ捨て、引き締まった肉体を露わにする。


「やっぱりね。先生、いや()()()。まさか生徒会顧問がこの街の悪党の親玉とは思いもしなかったよ」


 学校でよく見る顔であった。何処までも無機質で、感情を読み取らせない顔。長い髪は束に纏められ、元々の髪色とは対照的に黒く染められていた。普段からトレーニングを行なっているその肉体は筋肉の凹凸があり、彼の強さの裏付けとなっている。

 学校では常にサングラスをかけているため、完全な素顔を見るのは初めてだ。鋭い目つきをしており、気の弱い生徒では怯んでしまうだろう。

 

「何故、私の正体に気づいた」


 純粋な疑問であった。自分の正体に気づいた事に驚きを隠せない。


「僕と贖君の記憶を照らし合わせれば簡単なことさ。まず、贖君の事を知っている。それは表面的な話じゃなくて本質的な話。そして、普段の僕と関わり合いがあるってこと。部外者が覗いたくらいで僕の正体を暴けるとは思えない」


 それは幹人が襲われた時のこと。悪を正義と吹聴する愚者と言った。

 彼の表面上の評価は一方的に他者に暴力を振るった暴漢という評価だ。本来ならば正義といった言葉は決して出てこない。

 しかし、外套の男は躊躇いなく言い放った。考えられる理由はこの件の真相を知る者以外にいない。この段階では複数人おり、ある程度絞る事はできても正体に辿り着きはしない。更に絞るならば、外套の男は金剛寺香織がゴールドラッシュだと気づける人物。


 金剛寺香織に魔法少女であることを隠していた。それも完璧と言えるほどに。並みの人間では暴きようのない事実に踏み入ることができるのは密接に関わっている事が前提だ。


 贖幹人の正体と事件の真相を知り、金剛寺香織と関わり合いをもてたのは静寂零以外にはいなかった。


「納得した。確かに私以外に両者を知る者はいないな。身から出た錆だ、次からは喋りすぎないように気をつけよう」


「ついでに聞いておきたいんだけど、静寂。なんで僕が魔法少女だと突き止めた」


「ッフ、それこそ簡単な事だ。幾度か貴様と戦っただろう。その時の口調や癖を覚えていた。それと同じ者が偶々学校内にいた。それだけだ」


「へぇ、ご丁寧にどうも!」


 十二分に時間は稼げたと判断して、即座に大地を叩き割った。


(思ってたより反動がヤバいね...もう何度か休憩入れたいくらい)


 想定よりも遥かに大きな力が出力されている。立っているだけでもどんどん体力を消耗していく。静寂との問答も特に行うつもりは無かった。が、そうも言ってられない。幾ら瞬発力が桁違いに上がって、静寂と同格になったとしてもヤツを一方的に殴れるのはおかしいのだ。

 両者共に勘違いをしていた、同格ではない。もはやゴールドラッシュが格上になった。

 故に、負担が大きくなる。戦えば戦う程に魔力の大きさが加速していく。無論、このめちゃくちゃなやり方では制御など不可能。0か100しか行えない技なのだ。


(このまま倒す事を視野に入れたいレベル...でもそこまでいくと身体が壊れちゃうかな)


 砕かれた大地から飛び立ち、ゴールドラッシュに目を向ける。


(やはり、魔力が上がっている。悍ましい程に才能の塊だったようだな、贖幹人。だが、強すぎる力は身を滅ぼす。夜明け前に自壊するだろう)


 静寂は上空から蹴りを放つ。かなりの高さから落下してきた為、加速も重さも十分な一撃だ。

 腕を十字にして受け止めるが、地盤が沈み小さなクレーターとなった。


「完璧に受け止めるか。だが、その調子だ!」


 受け止められた静寂はムーンサルトのように空中で回り、地面へと降り立った。クレーターの発生により、身体の重心がズレてしまった隙を見逃さずに即座に攻撃を仕掛ける。


「そこだ!」


「ッ!」


 激しい震脚と共に下腹部に浸透勁の衝撃を与える。


(ゴールドラッシュの障壁は今や強固だ。外部より内部に伝達させるのが有効的だろう)


 静寂は闘い方をシフトした。徹底的に殴り合う。それが今、ゴールドラッシュが最もやられたかない戦法だ。

 先程は猪突猛進の勢いで殴りかかり、強烈なパンチを浴びせにかかってきた。


 しかし、現在では会話や地面を砕いて距離を取るなど彼女らしからぬ戦法を取ってきた。本来ならばインファイトで均衡を取りつつ、朝まで粘るつもりだったのだろうが、その想定を上回る幹人の魔力があった。その結果、破綻してしまった。


 軽く戦っただけで爆発的に増えていく魔力は危険域へと向かっていく。元々まとな方法ではないが、静寂の力を上回る程とは思うまい。


 戦えば戦う程に強くなり、壊れる。それが現状。


 ならば、壊れるまで殴り合う。


 攻撃をしても、攻撃を受けてもその身にダメージが蓄積されていく。その性質を利用し、ひたすらに攻撃を続ける。肉を切らせて骨を断つ。自身のダメージも大きいだろうが、ゴールドラッシュの方が致命的なダメージを背負う。


 浸透頸を喰らった、ゴールドラッシュは退く。攻撃そのものは問題なく耐えれたが、このまま接近戦に持ち込まれるのはまずい。既に弱点が露見して、直ぐにそれを突く為の行動を起こす静寂から離れなければならない。


「ほう、以前のように内臓に与える技は効くと思ったのだがな」


 退避する彼女を追いかけながら語る。


「以前それで()()()()()()からね。鍛えたに決まってるだろ!」


 

 

1章完結までは数日に一回のペースで更新させて頂きます。

執筆にかなり時間を要してしまい、以前のペースが保てなくなり申し訳ありません。

2章プロローグ以降は元のペースで投稿予定ですのでよろしくお願いします。

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