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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
First:その身体に潜むもの:蒼き慟哭
53/92

その身に潜むもの

(頭がクラクラしやがる...戦いは...っ!)


 意識を取り戻し、地面に倒れ込んだ体を立ち上がらせる。少々目眩がするがすぐに落ち着くだろう。


(まずは現状確認を...)


 霞んだ視界のピントが徐々に合い、意識が完全に覚醒する。身体が吹き飛ばされたのか、意識が無くなる前と別の場所に寝転がっていたようで敷地の端にある崩れた塀にが直ぐそばにあった。

 

 立っているだけで凄まじい圧がかかり、草木は震え、石やビニールなどの軽いゴミがコチラに飛んでくる。

 理由は明白だ。ブルーレインと外套の男による闘いの余波。


 水刃と拳の激突。


 水刃が爆ぜ、水滴すら散らない程の威力で迎え撃っているのだ。強烈過ぎる一撃一撃の拳圧が辺りに影響を及ぼしている。

 斬りかかる度に相殺される水刃は絶えず放出を続けている。消え去った先から新たな刀身が牙を剥き、新たな流れとなる。

 変化自在の刀身は男を討つべく、あらゆる方向、形状を用いて端から有効的な技を試している。


(っ!何をやっても通じない!!)


 質も量も決して男には敵わない。

 工夫を凝らし、技を使ってもかすり傷すらつけられない。どれだけ戦っても敵わない強敵に苦戦を強いられていた。


(本気を出されたら一瞬で終わる...っく!本当にどうすれば)


「雑念が見える...それこそ隙というものだよ」


 男は疾駆する。僅かな思考の淀みを察知して、1秒もの付け入る隙を与えてしまえば距離を詰めることなど容易い。

 草をかき分け、体を屈ませて水刃の下を潜り抜ける。


「っふん!」


「っ!」


 背中へと回り込み、 足払いをかける。それを避けるべく、素早く上方へと跳躍すると足を掴まれた。


「っせい!」


「ぐ!きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 両脚をガッチリと脇で締め、ジャイアントスイングで畳みかける。ブルーレインの脚力では抑えられた腕からは解放ができない。暴れれば暴れる程にミシミシと骨が軋むように力を強く入れられる。


「っつぅ!!っく!」


 遠心力による負荷と激痛によって強大な水刃を上手くコントロールできず、下手すれば自滅する可能性があるので刀身をナイフのように小さくした。

 魔力でコーティングされた水圧カッターと同類のナイフを振りかざし、どうにか腕に突き刺そうとすると男は手を離した。


 否、廃墟に向かって投げ飛ばした。


「その手は読んでいた。仲間共々瓦礫に埋まるがいい」


  ブルーレインの衝突により、廃墟は崩れ去ると思われた。


 しかし、横からグリーンアサルトが飛び込み、その手で受け止めた。


「よっと!危なかったな、レイン」


「グリーン...ありがとう。目が覚めてくれて助かった。正直、私一人じゃ絶対に無理って絶望しそうな所だったわ」


「あぁ、その気持ちわかるぜ。アイツは強すぎる...二代目を連れてサッサと逃げることを第一目標に動いた方がいい。全然目覚めてくれねーけど」


「肉体がゴールドラッシュとはいえ魔法少女になったばかりの新人だからね」


「そりゃそうだ...一先ずは二代目が起きるまで時間を稼ぐ。アイツの近接は危険すぎるからな。二人で力を合わせて近寄らせないように立ち回るぞ」


「わかってるよ!」


 二人は銃と刃をそれぞれ構え、男へ視線を送る。



「作戦会議は終わったのかね。どんな手を使ってくるのか楽しみだよ...私の講義を無駄にしない事を祈るよ」


 嘲笑いながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。


 二人は迎撃の態勢に入り、離散する。


(コイツはその気になれば一瞬で懐に入る事ができる。二人まとめてやられたらお終いだ)


(二手に別れて全滅を防ぐように立ち回るべき!)


 外套の男を中心に円で囲うように距離を置く。一人が距離を詰められ、襲われたら背後から強襲して逃げる隙を作る。


 常に有意な間合い意識して敵の制空外から攻撃を浴びせ続ける。勝つことは無理だと分かっていても抗わなければ生は無い。


 儀式とやらの真意はわからないが、手加減して遊んでいる間に逃げる以外に道は無い。

 

「それしかあるまい。私の徒手格闘による恐怖は二人とも身を持って味わっただろう。どれだけ抗えるか見ものだな」


 かかってこいと両者に向けて手招きで挑発する。

 

「抗いきってやるよ、ネバーギブアップが大事なんだよ」


「...勝機を掴み取る!」


  ダダダダン!とけたたましい銃声と同時に雨のように弾丸が降り注ぐ。それに合わせ、水刃は低く男に刃を突きつける。付け根から弧を描き、膝に輪となって斬り落とす刃となり締め上げると男は跳躍し回避した。


(空中で器用に弾丸を避けれるとは思えない...効果は薄くてもダメージは与えられるはず!そして!)


 避けられた輪に更に水量を増やし、ドリルを模した形で上へ突き上げる。変化自在の二段構え。並みの方法ではどうにもなるまい。意表を突ける一撃を与えなくては逃げる隙を作ることはできない。


「確かに空中での行動は制限される。だが、私を止めるには値しない」


 体の中心を軸に回転をする。それはコマのように回り、弾丸を弾いて水刃から離れた場所へと着地する。


 地に着いた直後を狙い、高密度の水刃で薙ぎ払うように振り払う。


「はぁぁぁぁぁ!」


「かぁ!」


 拳による破壊でなく両手で受け止めた。


「隙ありぃ!」


 ハンドガン...ではなく両手で持ったそれはレーザービームの砲台であった。どうにもグリーンアサルトの想像が古いので近未来的というよりはバズーカの形状に限りなく近いグレーの砲身であった。


「撃ち滅ぼす!!」


 魔力の粒子が圧縮され、青白く光光線が発射された。光よりも速く、撃ち込まれたレーザーは的確に男を捉えた。


 しかし、膝で上空へと蹴り上げた。


「まだ火力足らねぇか!こんちくしょうが!」


 その一方でブルーレインは水刃を再び変質させた。


(受け止めているなら好都合...千切りにしてあげる!)


 大きな面として受け止めていたので男にいとも簡単に受け止められた。なりふり構ってられないこの状況下で、普段は決して行うことのない方法で活路を見出すことにした。


 面を線に変える。


 圧力が掛かる部位が大きな面より、小さな線としてワイヤーと同等に細くする。


 潰すのではなく、斬り刻むのだ。それは残酷な行為であり、更生させる魔法少女としては使いたくない手立て。だが、今回は敵の幹部。ここまで闇に浸かってしまった人間は浄化が効かずに止むを得ずに殺す以外の選択肢が無い。


 できれば試したかったが、生きて捕らえる事は不可能と判断。生かし続ける方が危険だと決めて、生きる為に殺す。苦渋の決断で断罪の線と変化させた。


「ッ!」


 薄皮一枚、手のひらが切れた瞬間に両手を手放して後方へと下がった。


「これは危なかった。今までの攻撃で一番効いた。ククク、君は無為に殺す為の手段は使わなかった筈だ。だが、ここに来て必要だと理解したようだな」


 後退っただけ。線状の刃はそのまま振られ、再び男を切断しようと迫り来る。

 このチャンスを逃しはしまいとグリーンアサルトが逃げ場を封じるように厚く弾幕を張る。弾丸とレーザーが仕切りなしに撃たれ続ける。


「そうだ、コレは殺し合いだ!要約、踏ん張りがついた。今度こそ!今度こそ!()()()()、この世界に叛逆の狼煙をあげる!」


 今迄とは明らかに異質な魔力。


 コレほどまで、手を抜いていたのだと。


 絶望した。


「かぁぁぁぁぁぁぁ!」 


 魔力を周囲に暴発させ、弾丸もレーザーも消滅した。

 

 そして、水刃を握り潰した。


 刃が再生するよりも速く。男は詰め寄って、持ち手の手首を握って吊し上げた。


「っぐぁあ、あぁ!」


 投げられた時よりも圧倒的に強い握力。骨が折れて、血管が破裂しそうなほどに。


「遊びの時間は終わりだ。心とは複雑怪奇なものだな、自制をするのに時間がかかってしまった。さてと、魔法少女諸君。終わりの時だ」




 長い夢を見ていた気分だ。


 あの時と同じだ。


 先輩の記憶を覗いていたんだ。


 先輩の意志を知った。


 先輩の過去を知った。


 外套の男を知った。


 エニスを知った。  


 心構えも戦い方も。


 でもどうやら今は俺の番では無いらしい。


 浮遊した意識の中。やっと理解した。


 同化、とは違う。残滓が混じっていた。


 「話すのはまた後でね」


 「窮地を脱してから、最後の時間で君と話そう」って。



 *


「やれやれ、怪人になって暴れ回った時はどうなることかと思ったけど、間に合って良かった。逃げて、ギリギリ話す時間は作れそうかな。本当はもう少し時間が欲しいけどね。贅沢を言える身じゃない。()()()()()()()()()()。全力で行くよ」


 ケルベスの考察は少し外れていた。

 確かに願いの力は捻れた形で幹人を救う力となった。魔法少女の肉体を与えて怪人化を防ぎ、金剛寺香織の肉体と合わせて命を繋ぎ止めた。

 だが、そこに同化するという余地は無かった。


 何故なら、彼女の意識が残り続けるならそれは生きている事と同じだからだ。


 ならば何故、精神が合わさるなどと言うイレギュラーが起きたのか。


 本来ならば幹人は直ぐに魔法少女の力に目覚め、正しい形で混ざる筈だった。それは幹人の人格を侵すことなく、彼女の記憶と経験を植え付ける形で。


 しかし、幹人はその正義感や疑問を払拭する為に覚醒前に死地へと赴き、封じられかけた怪人の力を解き放った。それによって歪み、魔法少女になる為のハードルが上がってしまった。


 願いの力の言う命とは魂だ。


 そこに意識があり、それを消費して不可能を可能へと導く。魂を浄化する為に香織の魂がまとわり、結果精神が入り混じる状況に陥った。


 今の幹人の身体は願いの力が侵攻している。


 故に、香織の魂は残っているのだ。


 身体は完全に馴染む目前、再度のイレギュラーが発生した。それによって魂は切り離されて、幹人と香織は二分化した。


 イレギュラーが起きた結果、完全な肉体になる迄のごく僅かな時間のみ、香織が顕現することが許された。

 

「...ちょっと起きるのが遅過ぎたみたいだね。ごめん、直ぐに行く」



 ぐちゃり、と少女の細い腕は最も容易く握り潰された。骨は粉々に血管は圧力で破裂。夥しい量の鮮血を噴きながら、地面へと倒れ込む。


 ことすら許されなかった。


 落下する少女の腹部に大きな穴が空いた。痛めつけたのか、即死する様な急所を外して。


 腕の関節より先は無い。男の手で肉団子にされた。


 身体に夜風がやけに染みる。

  

 穴が空いているからだ。


「――――」


 悲鳴は無い。今にも死にそうな虫の息で辛うじて呼吸をしているだけだ。口からも静かに鮮血が垂れる。


 腕を外せばドロリと、血が流れる。腕の比では無い血液量。魔法少女は生命力は高い為、直ぐにでも運び出して適切な治療を受ければまだどうにかなる。


 しかし、この状況下でグリーンアサルトはそれが不可能だと悟った。


 顔は見えないが冷たい視線で此方を見据えている。次はお前の番だと言わんばかりに。


 本当の恐怖を知った。


 正義の為に戦い、死ぬ事はこんなに恐いことなんだって。

腰を抜かして失禁する。涙が浮かぶ。


 当然だ。男勝りで強気な彼女でもまだ少女だ。目の前で戦友がみるも無惨な方法で殺されかけているのだ。恐怖感を抱かないと言うのが無理難題。


 一歩、また一歩と死神が近寄る。もはや彼女に反撃の意思はなく、只死を待つだかの哀れな子羊だ。


 グリーンアサルトに手をかけようとした瞬間に閃光が迸った。雷撃の如く、立ち塞がったのはゴールドラッシュ。とは言い難い、魔法少女と怪人が混ざった姿だった。


「レインにはまだ息がある。グリーン、助ける為に一走りしてくれないかな。ここは僕が食い止めるから」


「...ゴールド...ラッシュ?もうダメだ、あんな怪物止められない、止められる訳がない!殺されるんだ全員!」


 ゴールドラッシュは屈み、尻餅を付いているグリーンアサルトの顔を両手で掴んだ。


「怖いのはわかるよ。僕も何度も同じ目に遭ってきた、でもね諦めたらそこで全部終わってしまう。だから、今だけでいいの。立ち上がって、生きる為に逃げて。絶対にグリーンもレインも僕が守ってみせるから」


 あぁ、本物だ。そう理解した。二代目、幹人ではない金剛寺香織。かつて共に戦ったことのある先輩の少女。時に優しく、時に厳しく鍛えてくれた人。


「わかった、わかったよ!やってやる!やってやるよ!尻込みするなんてオレらしくもねぇ!」


 前もこうやって勇気を与えてくれた。涙でくしゃくしゃな顔を拭って、震えた脚で立ち上がる。


「よし!そのいきだよ!アイツは僕に任せて病院に向かって。今ならまだ間に合う」


 アサルトは無言で頷き、ブルーレインの元まで走って背負ってこの場を離脱した。


「邪魔、しないんだね」


「したところでゴールドラッシュ、貴様が止めるだろう。無駄な事はしない主義なのでね」


「なるほどね。じゃ、僕と可愛い後輩たちを痛めつけた君には罰を与えてあげないとね」


 身体に骨とガントレットなど鉄の部位が入り混じった歪な身体でゴールドラッシュは構える。


「しかし、何故生きている。貴様は死んだ筈だ。願いの力によって完全にな」


「教えてやると思ったのかい?僕が、君に?」


「それは残念だ。だが、貴様も理解している筈だ。元の身体になった所で私には敵わないとな。今更出てきたところで何の意味がある」


 外套の男はゴールドラッシュが冷静では無かったとはいえ、一撃で屠る程の力を持つ。そして、今の男は覚悟を決めて確実に殺す方法を選ぶ。真っ向勝負では勝ち目はまずないだろう。


「守る、と言っていたが守れんよ。貴様を殺して奴らも殺す」


「浅はかだね、入り混じったこの姿を見てわからないかな。策も無しにぶつかる程に僕は馬鹿じゃないよ」


 男は全身に視線を送り、彼女の意図に気がついた。


「なるほど。確かにそれならば短期間で有れば私と同等の力を得られるだろう。肉体が耐えきる事ができればの話だがな」


「当然、耐えきるよ。僕はこの肉体の限界値も理解している。君から完全に逃げてやるよ。それが僕らの今回の勝利条件だからね」


「面白い、やってみせろ!」


「はぁぁあああ!」


 ゴールドラッシュは内なる魔力を爆発させる。


 今はスカルヘッドの力を外に、魔法少女の力を内に入れている。怪人の魔力を容器として、魔法少女の魔力を火薬だとする。火薬を内側で爆発させ、強制的に魔力の器を肥大化させて強大な力を得る。


 無論、その様な事をしては肉体が耐えきれない。爆発し続ける魔力は自己を傷つけているのだ。言うならば諸刃の剣。強力な力を得るが限界を迎えれば死という結果が待つ。

 魔法少女と怪人。二つの力が無ければ成すことはできないハイリスクハイリターンの大技。


 様々な魔法少女の末路を見聞したゴールドラッシュだからこそできる。


「凄まじい魔力だ。次は、次はないぞゴールドラッシュ。見逃すなどと甘えた事は二度としない。夜明け前に殺してみせよう」


「御託はいいよ。さあ、はじめようか!」


 夜明けは近い。


 生存を賭けた大一番が今はじまる。


ご覧頂きありがとうございます。

次話につきましても長めの予定になりますので再び2、3日ほど待って頂けると幸いです。

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