実力差
(...戦闘に乗り気になっちまったな。コイツを庇いながら流石にキツすぎるぜ)
グリーンアサルトの視線を追い、意識を失った幹人を危惧してる事に気づく。
「安心しろ、私は公平なのだよ。意識を失った者を襲う気も人質にする気もない。そのような狡い手を使う必要性など皆無だ」
卑怯な手を使わずとも簡単にあしらえると外套の男は挑発するように語る。
しばらくの間は無言の睨み合いが続く。
(やるしかねぇな)
男には絶対の自信があり、嘘を吐いてはいないと判断して廊下の隅に寝転ばせる。
「ようやく決心がついたか。力量差に怯えて動けなくなってしまったのかと思ったよ」
「その手にはのらねぇなぁ。安い挑発じゃオレは動かないぜ」
「それは手厳しい。では、冷静沈着な君に稽古をつけてやろう」
ダン!と床を廃墟を震わせる震脚と共に前方へと突き出した。男の手には剣も銃も槍も無い。魔法の発動も撃ち出すものは何もなく、男の武器は己の拳。無手だ。
それに対してグリーンアサルトの主要の武装は魔力生成による銃と弾丸。
強襲の名を冠する彼女は銃撃による多段攻撃がメインだ。魔力を銃へと変貌させ、それらに更に魔力を込めて弾丸として放つ。拳に魔力を込めるよりも別の魔法として変換するよりも純粋な火力は上がり、敵を穿つ。
それが彼女の固有の魔法である。
ブルーレインの水刃の様に各々には特化した固有の魔法があり、一般的な魔法を使うよりも固有魔法の方が能力が高い。
故に、サブマシンガンを象った魔法の銃を複数作り出して後方へと下がる。
無手の相手に対して近接戦は部が悪い。全てに置いて凌駕している相手であり、特技が純粋な格闘術であるのならば敵よりも間合いの広い銃を使い遠距離から攻撃するのが定石だ。
無手よりも剣。剣よりも槍。槍よりも銃。
剣道三倍段という言葉があるように空手、柔術などの無手の人間が剣を持った人間に勝つには三倍の段位が必要とされる。銃ならば何倍の段が必要になるのだろうか。
(だから徹底的に距離を取る!)
詰められてインファイト戦に持ち込まれたらお終いと脳みそにぶち込む。それにこの場から離れれば倒れている幹人に流れ弾が当たることは無い。
サブマシンガンの銃口からは絶えず凄まじい量の弾丸が放たれる。元々魔力が多い彼女には物量による押しが効く。ターゲットを狙い、複数の銃口が向けられる。それに加え、回避先を予見した先にもメインほどでは無いが弾幕が張られておりコチラの距離を一定に保つようにどうにか調整をはかっていた。
「なるほど、遠距離型の魔法か。それでは私の技を盗むのは難しいのではないかね」
不敵に笑いながら弾丸を化勁によって流し続けている。
「いやいや、これだけの弾丸をいなす術を見れるなんてこれ以上ない勉強方だっつーの!」
更に攻撃を激化させるも相変わらず涼しい顔だ。
やがて廃墟を抜け出して、広い野原へと地形が変わる。
(遮蔽物は何も無い。廃墟内の方が奴に地の利があった筈だ...)
狭い空間の中で距離を詰め、無理矢理自分の間合いで戦った方が有利な筈だ。外には遮蔽物はほとんど無い。強いて言うならば伸びた草木くらいだ。但しそれは迷彩服を着用するグリーンアサルトの方に利が傾くだけで外套の男は一方的に不利になるばかりだ。
だが、それに意味があった。
「さて、君の技はそれだけか...。もしそうならば、一瞬でかたがついてしまう」
瞬間、離した距離を詰めて掌底を腹部に喰らわせる。
「っぐはぁ!」
小さな体はその威力に踏ん張りが効かずに十数メートル転がる。
「ッ!ハァ!ハァ!」
(本当にバケモノみてぇだ。どんな脚力してんだアイツは...落ち着け、まだ殺意はない。...油断している今しか付け入る隙はできない。ヤツの隙を見出し、合流した時にそこを突いて脱出...思考を切り替えろ。呼吸を整えろ!)
混濁した胃から吐瀉物を吐きそうになるが深呼吸をして落ち着かせる。破壊力の割にはダメージが通っておらず、まだ戦うことができる。
ナイフを生成し、構えをとる。
「ナイフの心得もあるようだな。面白い...」
再び踏み込む男に対し、銃口から一斉に射出を行い通り道を制限する。さっきの一瞬の攻防ではマシンガンの弾丸がないポイントを見つけ出し間隙を縫い、掌底を浴びせた。
(なら最初から誘導するようにあえて隙を作る!)
逃げ場を此方の方で用意をしてそこを突いてきた所にカウンターを決める。持っているのはナイフではあるが、敵に刺し込み爆発させる事もできる。
近づいてきた男に対してナイフで切り裂くと思わせ、空中に置き捨てる。その瞬間に起爆させ、此方は全身を障壁で覆い、爆風で敵も自分も吹き飛ばして距離を取る。
そして、狙い通りに男は作られた安置に飛び移る。
(よし!いける!)
やがてと言うには刹那的な時間でグリーンアサルトに忍び寄り、ナイフを構えた瞬間に爪先でグリップの甘いナイフを上空に蹴り上げた。
「しまっ!っぐぁぁあ!」
蹴り上げた脚をそのまま下ろし、踵落としを脳天に突き落とした。
「浅知恵...だな。目で追いすぎている。それでは其処を狙っています。そう言っているようなものだ。相手の不意をつくには悟られないことが絶対条件だ。...意識を失っていては講義の意味はなさないがな」
気絶したグリーンアサルトの顔を拾い上げ、男は悩む。
「さて、コイツの時間稼ぎになってやるつもりだったが...拍子抜けだな。想定以上に早く決着がついてしまった」
だが、少女は繋ぐことができた。
流水の如く、刃はしなり男の手を切り裂こうと鋭く巻きつきにかかる。
男は瞬時の判断で手を離し、グリーンアサルトを地面に落とす。
「間に合ったようだな、ブルーレイン」
最初から全力全開。巨大な水刃を手に携え、現れたのは魔法少女ブルーレイン。
友の救援を聞き、即座に駆けつけたこの町の守護者。
「黙って、私は怒ってるの。ゴールドラッシュを殺した事も、仲間たちを傷つけた事も!」
今までになく強い怒気を放つ少女。
ゴールドラッシュ基、スカルヘッドが敗れ。
グリーンアサルトが敗れた。
彼女達を助けるべく、ブルーレインと外套の男による第3ラウンドが今始まる。