夜明けにはまだはやい
やる事は単純明快だ。
出来うる限りにグリーンアサルトの所在がバレないように妨害を行う。
音を鳴らし、素早く移動を繰り返して監視させる余裕を無くす。
一度振り払ってしまえば容易い事だ。狩人だった怪人はもうそこにはいない。
それはもう捕食される対象だ。狩る側から狩られる獲物へと変貌したのだ。
「やっぱりここか。見つけたぜぇ!」
壊れたエレベーターの空洞。そこに『スパーク』は隠れていた。空洞を除く動作をすれば隙間から魔法少女のいない階層へと潜り込み、離れたら戻る。それの繰り返しだ。一眼見ればバレるくらい目立つが、徹底した監視を行なっていれば隙間を通れる『スパーク』にとっては適した場所であった。
しかし、見つかってしまってはもうどうしようもない。
残る手は迎撃だけだった。
「ギィヤァ、ダズゲェ!!」
奇声を発し、唸る流動の身体を細い糸状にする。上層階から飛び降りてきた敵を拘束して雷の餌食にする為だ。愚直に真っ直ぐに襲い掛かる魔法少女の対処には最適と考えたのだろう。
だが、そんな物に縛られる様な存在ではなかった。
「だから言ってんだろ、舐めんなってよぉぉぉぉぉ!」
魔力生成によって作られた2丁拳銃を両手に魔弾を射出する。僕の考えた最強の武器感覚で作られた銃なのでリロードも無しで異常な弾速を持ち、トリガーを引くだけで無尽蔵に放たれていく。
弾丸は糸に触れた瞬間に小さな爆発を起こし、凄まじい弾幕が張られた。唸る身体で壁に張りつこうとしても爆風によって無理矢理引き剥がされ、一階で止まってしまったエレベーターのケージに衝突し、一気に押し潰される。
「ィダアガァ、ダアグゲ!!」
糸状を保てなくなり、電気を纏ったゼリーと表現すべき粘土を持った液体として潰れたケージの上で蠢いている。身体そのものが魔法なので触れば痺れるのを嫌い、グリーンアサルトは壁を蹴って液体を踏まない様に入口から脱出した。
「もはや虫の息だな。...しかし、見れば見るほど奇妙だな」
その怪人の在り方に違和感を覚えた。確かに怪人は人から大きく逸脱した形状へと変貌する者もいる。
しかし、どれも自信を傷つけるような存在ではなかった。『スパーク』は常に自信を痛めつける雷の魔法で悲鳴に近い声を上げる。
そして、理性があるようでない。行動は怪人として適切な取捨選択をしている。察知すれば逃げる。策を立てて反撃を企てる。
そこだけ切り取ればかなり厄介な理性を持つ怪人といえる。
しかし、実際にやり合ってみてどうだったか。
同じことの繰り返しばかりだ。策は立てても臨機応変に対処することはない。
まるで指示通りにしか動かないロボットのようだった。確実にこれまでの怪人とは毛色が違う。
とりあえずは浄化しようと歩み寄ると後ろからゴールドラッシュが戻ってきた。
「凄い爆発音したんですけど、もう倒してしまいました?」
「だいぶ楽に倒せたぜ。なんつーか、元々弱ってたみたいな感じだったわ」
倒れ込む『スパーク』を一瞥する。
「確かに...そんな感じですね。今までの怪人と全然違うような...」
(...二代目はそんなに経験はないはずだが、ブルーレインが言ってた同化の進行が影響してるのか。元のゴールドラッシュの経験則から見てもコイツはやはり異質か...。浄化の前に『情報屋』に連絡するか)
『情報屋』は通信魔法を何故か拒む。電話をしなければ繋がらない。
「二代目、コイツを見張っててくれ。『情報屋』に見せてから浄化をする。何か知ってるかもしれねぇ」
「その必要は無い」
その声はノイズにより、正しい音声を認識できない。
只、男とだけわかる。
「失敗作だ、コイツ以外に別個体などいない」
コンクリートを蹴りで貫き、破片と瓦礫共が圧によって吹き飛ばされて此方に降り注ぐ。魔法少女2人はその場を離れず、最小限の動きでいなした。
「ッ!なんなんだテメェ!」
「...アイツは...アイツはぁぁぁ!」
電撃をものともせずに『スパーク』を踏み潰し、悠々と立ち塞がる。
外套を羽織った、男。
「やあ、久しぶりだなゴールドラッシュ。いや、贖幹人と呼ぶべきかな」