接敵
「に、二代目?」
唐突に二代目と呼ばれて困惑をする。ゴールドラッシュの後継という事で呼んできたのであろうが、ケルベスもブルーレインもそういった呼び方をしてこないし、二代目というより新人君として扱われている感じだ。
どうもその呼び方がしっくりこなかった。
「応よ。前のヤツは亡くなっちまったんだろ?なら二代目だ」
「いやーその呼び方はちょっと...」
控えめに拒否をするがどうも彼女には伝わらないようだ。
「気にすんな!その内成るさ。まあ、無駄話はこの辺にしてサッサと怪人ぶちのめそうぜ。お前もこの話題は快くないだろう」
トンと拳を胸に当てるとニッカリと笑って夜の街へ飛び出しだ。
(確かに根は良い人そうだ)
ガサツではあるが気遣いはできる姉御肌なのだろう。
グリーンアサルトより後方、ギリギリ視認できる距離感を保って先行する彼女の後を追う。既に魔力反応は0になっている為、此方側も捕捉できないのでその距離感で手一杯であった。
(...中々見つからないな。コレだから頭使う怪人はきれーなんだ)
見つからないな怪人に苛立ちを募らせること1時間、ようやく尻尾を掴んだ。
「止まれぇ!察知した、オレがぶん殴るまで近寄るな。逃げれないよう追い詰めたら合図する。そしたらこい!」
「了解!まかせましたよ」
「応!」
場所は以前、幹人が散策に向かった廃墟のホテル。そこに『スパーク』は潜んでいた。
唸る蛇の様な雷塊は青年を巻きつけ、感電死させていた。
「あぁが!ぁがががあば!」
聞き取れない程に無茶苦茶な声で荒げ、その生命を散らした。身体中は電によって焼き切れ、巻かれていた部分はボロクズの灰となり風に吹き飛ばされる。
「...胸糞悪りぃなオイ。テメェが逃げ回ってる怪人か?」
「ぎぃやぁな、ばずげで。いがぃ、んが」
「...ア?」
何かを伝えようと発声をしているが全く聞き取れない、自分自身も苦しめる雷によって常に喉が焼かれているのか普通に喋る事ができない様だ。
それに、答えなど意味はないだろう。何かを喋りつつもエンカウントしてしまった魔法少女から逃げる事しか考えていないようだ。
轟音と共にその身を光らせる。一本の唸りがとぐろを巻き四方八方へと電気の糸を張り巡らせる。高速の速さで作られた電気の系。他者を絡めとるように蜘蛛の巣が如く辺りを包囲する。
「ぎぃ!ぎゃぁ!」
奇声を上げ、大きな唸りから一転して細い針金のように体をしならせ廃墟の奥の方へと逃げ込む。大凡元人間とは思えないような構造へと変化しており、気味が悪い。
「ックソ!逃すかよ!オイ!二代目ェ、ホテルに突っ込め!裏側に回れ!逃すな!」
『直ぐ向かいます!』
振れれば感電必至のトラップを突破する手立てをグリーンアサルトは見た瞬間から思いついていた。殆どの隙間はなく通り抜けられる余地は無い。丁寧に壊していては絶対に逃げられる。
だったら!
「電撃上等ォ!あの雷野郎ぶっ飛ばすんだ、いずれにせよ痺れるだろうがよぉぉぉぉぉぉ!」
猛烈に流れる電流を気合と根性と魔力で相殺をして最短距離を駆け抜ける。既に魔力の反応は消えているがここからの経路であれば逃げ場はほぼ無い。
入口側はグリーンアサルトが抑え、裏口はゴールドラッシュが待ち構えている。
(窓からの脱出は硝子の欠片を踏み散らして音が鳴る。それさえわかれば逃がさねぇ。足も速くは無いみたいだしな)
だが、突っ走っていった先にはゴールドラッシュがいた。
「っち!オイオイどうなってやがる。派手な音もしてねぇ、裏口からも出てないってか?」
「...ここまでやって捕まえられないって相当逃げが上手いな。どうする、グリーンアサルト」
(...幾らなんでもありえねぇ。瞬間移動でも使えるってか?...違うな。何か裏がある。あの野郎しか真似できねぇ、何か...)
前提として『スパーク』は人外そのものだ。電気という物質そのものに変わっているようだが実際は魔力の塊であり、常に電気の魔法へと変換され続けている。
(だから蛇みたいになったり、網みてぇな形状に変容してこっちの撹乱を狙った...)
「抜け道だ!」
「何かわかったんですか」
「アァ、あの怪人はまだ廃墟にいる。2階だ、アイツの体は流動体だった。つまりちょっとした隙間さえ有れば通り抜けできるんだよ。あの体じゃ外に逃げれば草木を焼く音や硝子の音でオレ達に察知されちまう。だから、外に逃げたと思わせて二階に止まって交戦を避けたんだよ」
ゴールドラッシュは理解して頷き、共に道を戻って階段を駆け上がる。錆びついたドアを蹴破って二階の通路の端から部屋を覗いていく。
「俺が右側を見るんで左側をお願いします」
「オーケェ。不意を突かれんなよ」
無言で首肯をし、一部屋ずつ中をそっと見ていく。
201、203、205、207と顔を出した瞬間に雷の触手がドアを突き破って放電を開始した。
一瞬で通路は電撃が走ったが、辛うじて防御が間に合い2人とも無傷であった。
「危なかった...中、突入しましょう」
そう言ってハンドサインを出すが、今のやり口にかなり怒っているようでかなり乱暴な返事をしてきた。
「あったりめぇだ!舐めた真似しやがって!」
勢いよくドアを破壊したが、もぬけの殻だった。
「オーケェ、オーケェ。どうやらオレを馬鹿にするのがお好きなようだ。徹底的に潰してやるよ」
そこに笑顔をはなく、阿修羅の如く怒りの表情を全面に出したグリーンアサルトが部屋の天井に向かって中指を立てていた。