虚な雷
「あ゛がじ、ごろず。い゛や...」
呻くだけの雷の怪人は本能だけで動く、訳ではない。
その電塊には痛覚も意識もあり、永遠に苦しみ続けている。
知性も理性もなくし、悪心に突き動かされて人を殺すだけの失敗作。と、外套の男は結論を出したが誤りがある。
簡単に例えるならコレはロボットだ。
命令された通りにしか動くことができず、そこに本人の意思は無い。故に判断を誤った。
『スパーク』は怪人のとるべき行動をインプットされた。魔法少女に近づくな、人間を殺せ、魔力の探知方法、敵味方の識別、命令系統。
怪人化したさいに刷り込まれる情報を元に殺す、逃げるを繰り返すのだ。正にマニュアル通りに動くロボットそのもの
だ。
朝が訪れれば活動をやめ、人里離れた場所で夜を待つ。
夜の帳が下りたならば、人目につかぬように影に隠れ他者の命を狙う。
初日こそは余った自我の謀反があり、理想通りには動けなかったが、苦痛によって身体の主導権を握られてからは完全なる怪人として暗躍をする。
特に厄介なのが『スパーク』には拠点という概念が無い。
もはや人としての振る舞いを行う必要がないので人目を憚ることが出来れば何処にでも潜伏をする。
マンホール下の下水道。
薄汚れた廃墟のホテル。
山奥の森。
崩れかけた小学校の旧校舎。
人の気配さえなければどこにでも滞在する。
その特異性が魔法少女たちにとっては厄介な習性だ。彼女達は怪人を人としての生活ありきで行動パターンで生活圏の割り当てを行い、どういった人間を狙うかのか。怪人にとって満たしたい欲望とは何か。精査した上で追い詰めるのだが、『スパーク』には当てはまらない。
人を捨て完全なる怪人、というよりは人外の化け物として活動する存在が捜査の邪魔になる。
特にマニュアルを徹底しており、交戦を避けることに注意をしている。魔法少女と対峙するのは幹部の役目であり、下級の怪人程度では決して敵わないからだ。理性を持つ怪人や本能的に行動を起こす最下級は慢心をして魔法少女に挑むことがある。
だが、この生物には闘争心は無い。着実に人を減らすことだけを目的として蠢く。
それ故に魔法少女が相手する怪人としては最悪の部類だ。
欲張らない化け物と相対する為に必要な要素は場所を決め打ちして無理矢理追い込む他無かった。
感知すれば逃げるを繰り返す相手に手間取り、既に3日が経とうとしていた。




