四つの影
「あぁ!あぁ!ガァァァァァァァ!」
凄まじい悲鳴と共に人だったそれは放電を行い、人の形をした雷の化身となる。
その雷は己をも苦しめるのか酷い呻き声を上げながら、救いを求め縋るように地を這う。
「あ゛あ゛ぁ゛...」
人の原型も保てなくなった怪人は地を伝い、波状の雷を激しいスパークの音共にネオンの明かりの元に向かった。知性もなく理性もない。増幅された悪心、本能に従い人を殺すだけの生物に成り果てた。
「失敗...だな。理性を保てる者を意図的に作れる方法は他に模索しなければな」
外套の男は失敗作の怪人を見る気もせずに光に満ちた街から静寂に包まれた山の方へと向かった。
熊谷神社を更に登り、潰れた山小屋の跡地。
腐敗したログハウスは白に侵食されており、所々剥げている。整えられていたであろう庭は雑草が生い茂り、破れた窓ガラスの破片が飛び散っており非常に危険だ。
辺りからは鈴の音が鳴り響くだけで人の気配など微塵も感じられない筈だった。
しかし、ある一角は円状に草が刈り取られており足の踏み場がある。オカルトマニアがそこを見ればミステリーサークルだと騒ぎ立てるような場所だが、実情は陰影の人形の幹部が連絡に使う場所であった。
本来なら遠隔の通信で事は済むのだが、近辺を統率する外套の男は面と向かって話すことに意義を感じておりこの場を設けていた。
「さて、集まっているようだな」
外套の男が連絡場に着地をすると三つの影がそこに佇んでいた。
「ええ、お待ちしておりました。我が主人、ノワール様」
一人目は一際小さな男。血色が悪く貧血気味に見えるが、それは誤りだ。彼の皮膚は青色に染まっており、怪人というよりは亜人というべき特徴を備えている。
童顔に髪は金髪、というよりは限りなく白に近い黄色の髪に尖った耳。よくファンタジー小説に出てくるエルフと同じような耳。服は燕尾服を着用しており、腰からは爬虫類の尻尾が生えていた。
「ったく、めんどくせぇな。毎回言ってるけどよ、通信魔法で済む話じゃねぇか」
「口を慎め、鬼巌。ノワール様の言葉は我らにとっては絶対だ」
「あーはいはい、わかってますよ。上司にゃぁ逆らっちゃダメだもんなぁ、緑葉」
不満を垂れ流し、小指で耳をほじる。
緑葉と呼ばれた青肌の怪人とは対照的に鬼巌は肌が真っ赤だ。筋骨隆々とした肉体であり、3m近くの身長を持つ。額からは太く、鋭いカブトムシのように雄々しいツノが生えている。
黄色の直垂を着衣しているが、上半身は脱いでおり鎖帷子を力強い胸筋で圧迫していた。帯刀をしている様子もなく、特にこれといった武器は持っていないようであった。
「煩わしい...少しは黙ってられぬか。僕はサッサと話を聞いて帰りたい」
「煩わしいだぁ?舐めた口叩いてんじゃねぇよ桃雲。ぶっ殺すぞ」
「だからやめろ!ノワール様の前で恥を晒すな!」
「うるせぇなぁ...緑葉。テメェからペシャンコにしてやろうか」
「はぁ、脳筋が...」
深くため息をついた桃雲と呼ばれた男は限りなく人に近い怪人だ。
ベネチアンペストマスクを被った不気味な男。頭は更に黒いハットで着飾っており、衣服は白衣という如何にも研究職のような姿だ。顔は仮面によって隠れておりその素顔を除くのは難しかった。
「静かにしてもらおうか、私の話が優先だ。不満があるなら拳を握ると良い、強者が絶対なのだ。我々の上下関係はな」
外套の男、改めてノワールが喋ると不満げだった鬼巌もばつが悪そうに黙った。
忠臣である緑葉は跪き、桃雲は気怠そうにステッキに体重乗せて棒立ちしていた。
「なに、長話では無い。だか、私にとって重要な話だ」
「...何か作戦を?」
「いいや、もっと私的なことさ」