優しさ
男にとって今必要なものは優しさではなかった。例え、相手を傷つけたとしても得なければならないものがある。
端的に言えば使命。
それに突き動かされて彼は行動する。
とはいえ、余りに嫌われてしまうとそれ以上のモノは彼には及ばなくなる。
それだけは気をつけて...ね。
*
四時限を終えた意味を表すチャイムが鳴る。
しかし、小太りの社会科教師はどうしても区切り良く終わらせたいのでチャイムなんて気にせずに話を続ける。進めている感じだと3、4分はオーバーしてしまいそうだ。
貴重な休み時間が潰れてしまう為、他の生徒たちからあからさまに不満のオーラが漏れ出ている。生徒たちによる不満の視線を背中の一点に浴びながらも悪気なく授業を進め約4分に渡る延長戦は終わりを告げた。
先生がいなくなると最悪だのクソだの教師に対しての罵詈雑言が溢れかえっていた。勿論幹人も不満はあるが、喋る相手もいないのでそそくさと廊下に向かった。
(...おかしいな。いつもなら恭哉がこのくらいの時間に来るんだけど)
珍しいこともあるものだ。仕方ないので学食に向かい歩み始めると鬱陶しいくらいにつるんでくる親友は廊下の奥で悪目立ちしていた。
「お前!今日という今日は諦めてその髪をどうにかしろ!」
「先生、これは地毛なんです!実は僕の真の親はオーストラリア人で...」
「バカ言うな!親御さんに失礼だろ!さっさと指導室にこい!」
「ッ!36計なんとかってね!」
大口を叩いて生徒指導の教師とアホみたいな言い訳をした後にその場から逃走し始めた。側から見ていても迷惑極まりない。
「どいてどいてっー!お、幹人!今こんな感じだから、じゃあな!」
「待たんか!」と怒号を浴びながら一瞬だけ立ち止まって幹人に別れを伝え、階段の手すりを器用に滑り降りていった。
このレベルの攻防は久しぶりであった。以前は結局恭哉が最終の授業を終えた後に待ち伏せを食らって指導室送りであった。今回も前回と同様の手で捕まって一時的に黒髪に戻るだろう。
「しゃーないか」
ため息を吐いて一人寂しく学食に向かった。
(しかし、思ったより突っかかってこないな)
生徒会長と一緒に帰って嫌われ者の幹人だけ生き残った事を揶揄されるつもりで登校したがそんなことはなかった。
流石に他の生徒たちも分別を弁えており、真横で殺された現場を見ていたと思われる幹人を責めるものは誰一人としていなかった。ネガティブに考えすぎていただけなのだ。
(今日は炒飯にでもするかな)
券売機で300円のチャーハンを押して食券をおばさんに渡す。ちょうどできていたのか直ぐに熱々のチャーハンがお盆と一緒に手渡される。
できるだけ人のいない方に座ろうと窓側の端の席にすわる。
「いただきます」
手渡されていた蓮華で米をすくって咀嚼する。程よく火の通ったチャーハンに大粒な焼豚にネギ、卵。様々な食材の食感とそれらが合わさった味は唸るほどに美味しかった。
(マジでこの学食美味いよな)
いつも思うことだが学食のレベルが高い、なのに安い。コスパも良いので連日賑わっている。以前のスペシャルメニューがあった日程では無いが、今日も活気付いている。
チャーハンを半分ほど食べた頃、他の席が空いているのにも関わらず真横に座ってくる人物がいた。
「隣、いいかナ」
隣に座ったのは蒼い瞳に地毛が金色のイケメン男子、レイモンド・ベネリィであった。牛の丼を片手に口角を上げて笑う彼の表情は無邪気であった。
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