憂鬱な登校
元の身体に戻ることができたので登校する事を決めた。幹人にとって心底憂鬱ではあるがこればかりは仕方がない。
高校生の本業は勉学だ。留年するわけにもいかないし、いつまでも家に篭っていられる訳でもない。
今はまだ、両親も寄り添ってくれるだろうがいつかは外に出る事を促してくるだろう。
登校が憂鬱になる理由は金剛時香織が死んだ時に立ち会っていたのは幹人だからだ。
直接的な原因は幹人にないとはいえ一緒にいたのにも関わらず、幹人だけが生き残った事を邪推されるのではないかと不安になっているのだ。幹人自身、嫌われ者の自覚がある為、其れが助長してしまう事を恐れている。
事件が起きる前であったなら同情もされたんじゃないかと思いながら、鉛のように重い足を引きずって学校に向かう。
天気は晴れであるが、心は曇っている。この青空のように清々しい気分で登校したいものだとしみじみ思う。
校舎に入り、億劫に廊下を歩いていると一人の男が声をかけてきた。
「ヨッ!休みは終わりかい兄弟」
茶髪で物言いの軽い男、篝恭哉だ。相変わらずの明るいノリで肩を組んできた。
「聞いてくれよ、オメーが休んでる間に彼女できちまったんだわ!まあ、俺の魅力が100%伝わって堕ちない女なんていないんだけどな」
ガハハと豪快に笑う。
「...ありがとう。優しいんだな」
「何のことだかわかんねぇよ。それより俺の彼女の話を聞け」
恭哉は気遣いのできる男だ。
俯いていた幹人の様子を見て、下手に気遣うような言葉は使わないようにした。
優しく寄り添う言葉よりも普段行う当たり前の会話の方が気持ちを和らげると思ったからだ。
無理にことの経緯を聞いて、優しい言葉をかけるのはトラウマをこじ開けることになってしまうのではないかと考えたのだ。
恭哉は語る。
取り止めのない話を。
例えば彼女と惚気たこと。
例えば小テストの結果が悪かったこと。
例えば頭髪を再び注意されたこと。
どれもくだらなく笑えるようなもので深い傷を負ってきたであろう人間に話すべきことではないかもしれない。
けれど、それが幹人にとっては何よりも癒しに感じられたのだ。




