目覚め
「っ!!」
カーテンの隙間から陽光が差し、朝を知らせる。
背中は多量の汗でぐっしょりと濡れており、まるで悪夢を見た朝のようだ。実際は自身の一部となった少女の記憶の断片である。
「はぁ、はぁ。妙にリアリティがあったな。体感したことがあるような...いや、体感したことがあるからこうなったのか」
魔法少女と相反する怪人化をやめ、元の性質であり香織の体を使う魔法少女になったことで一体化が進んだようだ。夢を見ていた時は他人事みたいに俯瞰していた筈なのに気がつけば実体験として捉え、寝てるうちに発汗する程になっている。
「僕の精神が変容していってるのか...それに体の入れ替え方もわかっちまった」
寝る前の身体は金剛寺香織であったが今の身体は贖幹人だ。魔法少女になる前は自在に変更など不可能であり、毎日入れ替わる身体を誤魔化しながら生活してきていた。
しかし、魔法少女の変身方法を理解したので願いの力に由来する肉体の変更方法が理解できるようになった事に加え、一晩が経ちまた少し同化が進み、自在に変わることが出来ることを頭の中で自然と理解した。
(これでもう普通に学校に通えるな...冷たい目で見られるかもしれねーけどな)
精神的な傷を理由にこれまで休んできたが、性別変更を自在に利用できるので休む必要はなくなった。流石に2日に一回休みは怪しまれるので休んでいたわけだ。
只、それよりも今は自分が自分じゃなくなることで頭がいっぱいである。
その感覚に違和感は無い。寧ろ正常に思えてしまう。
無くなったパズルのピースが次々と戻ってくるように金剛寺香織の記憶のカケラが海馬にはめられていく。
そこでやっと気づいた。
(僕は俺じゃない...新しい人間なんだ)
正しく言えば贖幹人という人間をベースに金剛寺香織のパーツが混ぜられていく。
その片鱗は初期からあった。
思慮深いと言うよりは衝動的だった考え方がよく考えてから突っ込むようになった。
他人の罪を決して許さない男が理解を拒んでいた幹人が、その思考を改めるようになった。
本来の幹人であれば対外的に理解したつもりで行動しても考え方だけは頑なに変えなかった。その変容を促したのは金剛寺香織のパーソナリティだ。
彼女の願いとしてはそこまで人格に影響を与えるつもりは無かった。だが、歪んだその力は確実に幹人の精神を蝕むように混じっている。
それに苦しみも葛藤もない。
自分が自分の事を思い出すことに苦痛を覚える人間はいない。
自分の精神が自分らしくなっていくことに違和感を感じることも考えるようなことも無い。
それと同じだ、自然と受け入れていく。
自分が自分らしくなることに。
気がついてしまっただけなのだ。
もう、この人格は新しく形成された二人で一人の存在という事を。




