契約
「謝罪/契約には一滴、血が必要だ少々痛むが我慢して欲しい」
無言で頷くとケルベスは小さな指から針のような直線状の爪を尖らせて指先を突く。ほんの少し痛み、血が出てきた。ケルベスは素早く液体を採取し、何処からともなく現れたスクロールに血を垂らす。
スクロールは怪しげな赤い霧が霧散し、赤い魔法陣を形成した。日本語でも英語でもない、この世界の法則にはない文字によって編まれた魔法陣は極彩色の光でケルベスを照らす。それは夜の街を照らす怪しげなネオンの様にも見える。
ケルベスはその魔法陣をなぞり、文字と同様に聞き慣れない...のではなく理解のできない言葉を紡ぐ。口の動きから音の振動、耳に響くそれは常識外の言霊。
スクロールに浮かぶ魔法陣はそれに呼応するように踊り出す。一つ一つの文字が宙へと飛び出し、香織を囲うように舞う。やがて其れらは起立を生み、二重の円となり地面と頭の上に固まる。上下で互いに反響しあう陣はやがて紫色で透過性のある膜を張る。
「...なにこれ」
思わず息を呑んでしまう。それもそうだ側から見ても危険な儀式にしか見えないのだ。当の本人であれば不安な気持ちが出るのも無理はない。膜に触れるのが怖いので思わず後退りをするが円柱状に囲われているので背後にも当然膜がある。大きく動くことは出来ずに首を動かして辺りを見渡すことぐらいしかできなかった。
「最初は不安かもしれない。けど大丈夫。なんともないよ」
平坦な声で精一杯のアドバイスを送るエニス。だけどそれで不安を拭うことなどできなかった。
(僕もあんな感じになっちゃうのか...?)
顔に浮かぶ感情と比べて言葉には一切の気持ちがこもらない不気味な少女。アレは魔法少女の成れの果てなのではないかと邪推してしまう。
「ae#&ah/dtw4@53zvc4jkdtp.ade@23/mx5&&quj」
そして理解の外側の言葉。
怪しい要素100点満点の状況で魔法陣が上と下から中心、香織の腹部に向けて動き出した。
「嘘でしょ...」
再び極彩色に発光し、魔法陣が通り抜けた体は金色に眩く輝いた。中央に至った魔法陣は消え去り、金色に輝く香織だけが残った。
それは繭と呼ぶのが正しいのだろうか。
金色の香織は光の繭を破る。蛹から蝶に羽ばたくように。契約によって生み出された新たなる姿を顕現させた。
誰もを魅了する金系の髪を一つに束ねたポニーテール。
戦隊モノの主人公が付けるような金色のガントレット。
身体は金と赤色の装飾の鎧。
魔法少女ゴールドラッシュの誕生した瞬間であった。
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