記憶
夢を見た。
自分自身と関わりのない事だと理解できる夢だ。
何故ならそれは金剛寺香織。
彼女にある一片の記憶
「えっと...なんて?」
「契約/私は精霊ケルベス。君には魔法少女になる素質がある。故に私と契約し、魔法少女となってほしいのだ」
どっからどうみてもぬいぐるみにしか見えない犬のマスコットが宙に浮きながら契約を迫ってきた。
時刻は夕方18時過ぎ。バスケットの部活を終えて家に向かう帰路での出来事であった。日は落ち始め、夕焼けと蝉の鳴き声に挟まれながら香織は混乱していた。
「えっと、魔法少女ってあの?アニメとか漫画ーみたいな。ていうかドッキリとかじゃないよね...糸で吊るされたりして...ない」
怪しさ全開のぬいぐるみをドッキリだと思いケルベスの上部を手のひらで撫でてみたが、糸などの吊り下げる類いの物はなかった。
「真/ドッキリ...?よくわからぬが私は嘘をついてはいない。真実である。この世界を救う力となって欲しい。それだけだ」
「それって悪い人と戦うーみたいな?」
「肯定/その通りだ。悪意に蝕まれた人間が怪人となり人々を襲う。それらを抑え、悪の根源である帝国からの使者を打ち倒すことが最終目標だ」
「怪人に帝国...戦うって事は危ないよね」
戦闘を行う。わかってはいるが危険性について聞かずにはいられなかった。
「肯定/命のやりとりをすることになるだろう。無理強いをする訳ではない、一先ずは考えて欲しい。だが魔法少女の素質を持つ者は稀だ。できれば協力をしてくれると助かる」
「そんなこと急に言われても...」
「謝罪/申し訳ない。少女に託すには重たい運命であろう。本来ならば庇護される立場である君達に頼み込む事は情けなく思う。しかし、現実として君達に少女に頼ることしか我々にはできぬのだ」
深々と頭を下げるケルベスを尻目に頭を悩ます。彼の目をみれば誠心誠意で頼み込んでいることがわかる。それを無碍にする気にはなれないが、まだ14の少女である香織にとっては荷が重い。助け合う事は大切だと両親から教えを受け、常々実行してきたが今回ばかりは頭を悩ませる。即決する気にはならないので色々と事情を伺う事にした。
「とりあえず話だけ聞いてもいいかな。魔法少女になったとしてするべき事やその...戦いとか被害とか」
ケルベスは頷き、それに答えた。
怪人によって今も人々が襲われている事。それらは自分の意思ではなく帝国によって植え付けられた悪意の種であること。そしてその人間達を魔法少女が元の姿に戻す事。今の分隊を倒し、本隊を完全に制圧する事でこの世界を守る事ができるということ。懇切丁寧に説明し、香織は首肯した。
「..事情はわかったよ。お試しで魔法少女になるってことはできるかな。お父さんやお母さんに友達にも危険が及ぶのは嫌だ。でも僕は戦うことが怖い...だから実際に見て決めたいんだ」
「肯定/問題ない。今までも同じ選択をした少女達はいる。それを行い恐怖に負けて去る者もいれば使命感に駆られて立ち向かう者もいた。今日の夜は空いているか」
「空いてるよ」
「承認/了解した。であれば今夜、他の魔法少女と共に君の元に向かおう。そこで契約を果たし、実践を行う。そして、最後に君の名前を訊いていいかな。最後に訊いてしまう形ですまない」
「僕は金剛寺香織、宜しくね」
そう言って右手を差し出すとケルベスは小さな手で握り返してきた。
「歓喜/ありがとう、宜しく頼む。では、夜分にまた会おう。心の準備はしておいておくれ」
そう言い残すとケルベスは光の泡沫となりその場から立ち去っていった。
(魔法少女...怖いけど、誰かが立ち上がらなきゃもっと酷いことが増える...これが僕の運命なのかな)
空を仰ぎ、家へと帰るのであった。
追記
明日の更新分(2/24)を誤って本日に投稿してしまいました...申し訳ありませんが書き溜めがありませんので明日更新の予定はないです。
申し訳ございません。




