在り方
人は良くも悪くも直ぐに心変わりはできない。悪人が善人になるように、人の心の在り方は早々変わる事はできない。何か大きなきっかけがあり、決意を胸にしたとしても元々備わっている価値観や倫理観、感情。それらは言葉で理解していたとしても元の思考に引っ張られる。変わる為の行動はできたとしても心の揺らぎは追いつかない。特に幹人は決意を新たに数時間程度。彼にとっては快楽殺人の怪人など決して赦してはならない存在であり、生かす価値がないと心の奥底に秘めている。
結果、浄化は上手くいかなかった。形だけ真似しても本質が歪んでいるそれは魔法として機能しなかったのだ。
「...許そうと思っても、許せない気持ちが強いんだ」
認めたくはないが自分の感情は思いは決して彼を赦すなと言っている。幾ら押し込んでも湧き出るそれに嘘を吐くつもりもなかった。
「コレばかりは仕方ないとしか言えないわ。その性格はすぐに変わらないだろうし、無理矢理問い詰めたところで意味はないわ」
「だけど!コレじゃあ俺は役立たずだ、倒した所で人を救えない...!」
「なら、価値観をアップデートする以外ないわ。今の貴方は怪人も人間も一緒くたに考えている。元の人間には確かに黒い感情があったかもしれない。けどね、それは決して悪じゃないわ」
「悪じゃない..」
「そう。人は誰しも他人に言えない趣味嗜好や嫉妬心、欲望と言った悪いところを持っていると思う。それ自体は外に出さなきゃ罪に問われるようなことじゃない。怪人化は心に閉まっていた出してはいけない物を無理矢理こじ開けて悪意ある形で利用されているの。だから怪人化させられた人達には罪は無い」
怪人になり、欲望の限りを尽くした行為は決して赦されざる罪と言える。
しかし、それらを巻き起こしたのは怪人化された人間ではなくそれを操る者達だ。理性を倫理を壊したのは本人の意思ではない。そこを履き違えてはいけないとブルーレインは語った。幹人は思考としても汚らわしいと考えている上に罰すべきだと思い込んでいる。かなり偏った思考であり、他者からは歪みとして認識される。その凝り固まった倫理観を打ち砕き、怪人化による罪と元の人間を切り離すことができなければ一生浄化などできないだろう。
あと少しで届きそうでその一歩一歩が余りにも遠い。歯痒さに唇を噛み締める。
「...わかった」
「今日はこの辺りで終わりましょうか、この間にケルベスが見回ってくれたみたいだけど他に怪人は見なかったようだしね」
元の人間は警察署の前に置いて、現地解散となった。また明日の夜に駅周辺で落ちあうことを決めて家へと直帰する。帰り際に「余り思い詰めないでいいからね」とアドバイスを受けたがずっと失敗した事実が頭の中で引っかかっていた。今日も親にバレぬようにと二階の窓から自室に戻り、察せられぬように着替えて眠りについた。




