VS鳥人 3
3、4、5と次々と襲いかかってくる足技を躱しつつ、思考を止めることなく策を模索する。
今の自分はハンターに追い詰められた獲物なのだ。一瞬の油断で命が散る。最初はスタミナが尽きるのを待つ作戦を考えたが一向に速さが落ちる気配はなく別の方法での突破口を見出す。
(一定間隔じゃない...俺が少しでも隙を見せた瞬間に襲いかかってきている)
緊張の糸は張りつつも、どこから来るか分からない。一箇所に注意を向けた瞬間に鳥人は飛び出してくる。馬鹿の一つ覚えのように全く同じシチュエーションを繰り返しているので敵の行動が理解できるようになってきた。僅かな隙や他方に注意を向けた瞬間に現れる。何度か繰り返すうちに鳥人の行動がパターン化されている事に気づいた。
(つまり...)
意図的に隙を作ればヤツはそれに釣られて襲いかかってくるはずだ。それを試す為に僅かに長く、一点を見つめると考えていた通りだった。五時方から脚による襲撃。直ぐに身体を丸めてその技をやり過ごす。
(やはり同じ行動だ。確実に隙をついて死角から足技を使ってくる。そして...)
立ち上がり、右方を見渡していると七時方向からの猛襲。
(決まりだな)
行動は適切に処理ができるようにパターン化している。であれば、カウンターが有効打になり得る。超スピードによる襲撃も此方が用意したタイミングで同じ行動を取ってくるのであれば合わせることも可能だ。腹を括って構える。自然体で相手に悟られることが無いような死角となる方角に神経を集中させる。
そして、鳥人が向かってくるシチュエーションを作り出す。
(コレでやつを倒せる)
と、魔法少女は考えている筈だ。
(馬鹿め、ボクの作り出したパターンに囚われているな)
鳥人は気づいていた。魔法少女が己の意思で隙を生み出し、此方の攻撃を誘っている事を。あからさまな上に通り抜け様に目が合った。今まで目が合うことはなく、必死の形相で逃げていた人間だ。それが突如としてゆとりを持っているような動きをするのであれば、何か策ができたということだ。追い詰められた獲物が牙を剥く、その瞬間を待っていた。
(ボクをコケにした罰だぁ。勝利を確信したその顔を絶望に叩き込んで無惨な肉団子にしてやるよ)
下品に顔をニヤつかせて舌をなめずる。
ゴールドラッシュは正面を向いてはいるが、今迄の行動に準じて警戒をしている筈だ。
(つまり、今最も警戒心が薄いのは正面)
誘い出しの行動はフェイクであり、死角からの一撃を待っている。故に正面から全力で蹴りを喰らわせてやれば反応できずにキツい一撃をお見舞いできる。
予想通りの行動をゴールドラッシュが選択して勝利を確信する。
「コレで終いだ!」
勢いよく茂みから飛び出して強烈な音と共に空中へと鳥人が吹き飛んだ。
「ガバァ!?」
思考が追いつかなかった。
気がつけば自分は空へと浮かんでおり、下から敵が飛来する。空気を破裂させるような爆音と共に無数の拳が背中に浴びせられる。
「オラァァァァァァァァ!!」
ゴールドラッシュが得意とする音を超える拳の連打。最早、鳥人に為す術はなかった。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
止まる事を知らない拳、拳、拳。
血肉を砕き、思考をさせない。苦痛だけが脳味噌に伝達をして叫ぶだけ。いつまでも止まらない無呼吸連打にようやく静止が入る頃には身体はズタボロになり、重力に逆らえずに下へと落ちていった。




