変身2
「さ、着いたわよ」
「生身であのスピードは怖かった...」
「これから街を回るからね、テキパキいかないと。ケルベスが見回りをしてくれてるから今のうちに変身しようか」
幹人は魔法少女に自力で変身出来たことがない。故に、人の少ない場所で変身方法を教えてくれるようだ。
但し、変身の難度は高くはないので容易くできると慧理は判断している。ただ念じるだけでいいのだ。無意識とはいえ変身してる事実はあるので全くわからない訳ではない。その感覚を思い出すだけで幹人は覚醒できる。
「...それで、どうやって変身すりゃいいんだ」
「簡単簡単、念じるだけ。夢と希望を抱いてね」
「やってみるよ」
目を瞑り念じる。自分が成るべき姿に。夢、希望なんてまだ抱くのは難しいけど。あの人の理想に近づきたい、同じように人々を明るく照らしたいという想いだけは確かにある。
それをのせて念じる。怪人になっていた黒い蛹から抜け出して、光輝く魔法少女として羽ばたくために。
「ッッ!」
光る。
体が、世界が。
光の粒子に攫われて、体が再構成していく不思議な体験。やがて光は収まり、肉体の変化に気づく。
「身体がメチャクチャ軽い」
羽のように軽い。飛び跳ねればビルの十個や二十個を軽々と通り越せるんじゃないかと思うほどだ。怪人の時とは真逆の感覚。あちらは万能感と共に重鈍な支配をされている不自由さがあった。解放的な魔法少女と縛られた怪人と心にかかる重圧が全然違った。
「やっばり、一回でキッチリと決めてくれると思っていたよ。魔法少女の姿も完璧にゴールドラッシュだね」
金系のポニーテールに重厚なガントレット。ブルーレインとは違い武装に包まれており、身体は密着した全身タイツに関節の邪魔にならないよう鎧が纏っている。特に重要な臓器のある胸から下腹部にかけては強固な赤と黄色の鎧が隙間なく守っていた。
「コレが魔法少女...すげーな」
「わかるわかるよ。私も初めて変身した時は興奮せずにはいられなかったからね。でもそれはここまで、ちょっと真面目に話そうか」
かなり興奮しているのがバレたのかブルーレインに注意をされた。
「さてと、まずは魔法少女ってバレないように気をつけてね。バレたら君以外に被害が及ぶと考えていい」
「...家族とかですか」
「御明察。だから、絶対にバレない場所で変身すること。それと、人に言わないこと。とはいえ、君は既に正体がバレちゃってるけどね」
「父さんと母さんが...危ない?」
焦って飛び出そうとするとブルーレインに肩を掴まれ静止させられる。
「まあ、待ちなさい。その辺は大丈夫。『情報屋』の手を借りて君とゴールドラッシュの家は護衛がある。今はまだ襲われてないよ、君が生きている事はバレてるはずだけどね」
幹人と香織の事件はニュースになった。その中で名前は伏せられたが、男子高校生が生きていると報道はされた。当事者である犯人はその情報を受け取っている筈だが、動き出している様子はない。
「怪人となって暴れ回ってると認識して何もしてないって可能性が高いけどね。コレから活動していったら襲われる可能性は十二分にある。けど、生活は普通にしていて大丈夫だ。さっきも言った通り護衛がいる。もし襲われた時に直ぐに迎える心の準備だけお願いって話」
「そういうことか...理解した。それで他にやるべき事は」
「変わり身を作ることかな、魔力で自分そっくりの人形を作るの。簡単な受け答えができるから、それを使えば家にいるってアリバイが成立して怪人たちに正体がバレにくく成るからね。それは後でやり方を教えるよ」
変わり身。簡単な受け答えとは言うが、本人とそっくりの声、思考でキッチリと会話ができるものだ。ある種の使い魔と思えばいい、自分の正体がバレないようにする為の手段の一つである。
「それと、変身したら魔法少女の名前で呼ぼうね。当たり前だけど名前呼んだら割とバレるから」
「それで君とかゴールドラッシュと呼んでいる訳か」
「その通り。因みに私はブルーレイン、君のことは魔法少女になったらゴールドラッシュって呼ぶからよろしくね」
「了解だブルーレイン」
「OKOK。基本的な心得はこのくらいかな。後は随時教えるとするよ。それじゃ早速行こうか、ケルベスをこれ以上待たせるのも可哀想だしね」
ゴールドラッシュとブルーレインは二人共に夜の街へと駆け出した。