断章 Re:彼の正義:彼の罪 中編
「あの態度、本当にわかってるのか」
「さあな、まあヤツも馬鹿じゃない。忠告さえ受ければ何もしないと思うけどな」
去っていった笹川を尻目に、土で汚れた制服を払いながら今村こちらに歩み寄ってきた。
「本当にありがとうございます...夏休み前から彼にイジメを受けていて困ってました」
「何か弱みとか握られたのか?」
「い、いえ。只僕が誰にも言えないような臆病者ってことを見抜いたみたいで...パシリとかカツアゲとか暴力とか色々やられました...」
「そうか、辛かったな...この事を先生達に話すか?」
肩に手を当てながら幹人が真剣に問いかけると今村は恐れ多いと言った表情で首を横に振った。
「そ、そんなことしなくて大丈夫です。周りの人にできれば知られたくないですし...ヤケになって復讐とかされたらと思うと怖くて...」
「...無理強いするつもりはないよ。もし、同じような事をしてきたら直ぐに俺たちに言えよ。助けに行ってやる」
「ありがとうございます...」
縮こまりながら頭を下げて何度もお礼を言ってくるので、もう良いよと言って校舎に戻るように伝える。普段つるまないメンツなので一緒にいては邪推されてるかもしれないと配慮した結果だ。
少し間を置くと上の階から声をかけられた。
「へぇーキミたち。カッコイイね、ジャパニーズニンジャ?サムライ?ヒーローみたいだ」
「アンタは、イケメン野郎!見てたのか!?」
「YES!何処の国もイジメというものはアル。残念だよ、それと同時に博愛を持った人もいる。だから君たちはスバラシイ」
「...レイモンドさんだっけ。それは嬉しいけど、今回の事は周りに言わないでくれるかな。聞いていたと思うけど広まって欲しくないみたいんなんだよね」
「OK!わかってるよ。心の中に留めておくサ、もし何かあったなら僕も協力するよ」
「ありがとう、その心遣いが嬉しいよ。じゃ、そろそろ俺らは教室に戻るから。またね」
「グッバイ」
にこやかに笑うレイモンドを激しく睨みつける恭哉を引っ張って幹人は教室に向かっていく。
「でも、君の正義感は少し危ない。コレは観察対象だネ、良くも悪くも純粋なのかな。くれぐれも利用されないようにね....」
誰もいない窓際で独り、レイモンドは呟いた。
*
一月が経ち、冬が段々と近づいてきた。何か羽織らなければ寒すぎて体が凍えてしまう程だ。ひょっとしたら今日が特別寒いのかもしれない。
幹人と恭哉はいつも通りの昼休み。教室の端っこでだべっていた。
「めっちゃ寒いな。こうも寒いと女の子たちはスカートだと大変だよな」
「オシャレも大変って事か。待てよ、学校指定だから関係ないのか」
「つまらん反応だなぁ。そこは俺が女の子達の太腿の暖を取る!さあ、一緒にスカートに突撃だ!くらい言わないと」
「キモすぎるだろ。マジでセクハラで訴えられるぞ」
「そうならないように惚れさせるのさ...」
こんなんでもモテるのが癪に障ると思いつつ便意を催してきたので席を外すことにした。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「お、ツレションでもするか」
「いや、大だから」
いってらーと見送りを受けて最寄りのトイレに向かうも洋式のトイレが埋まっていた。
(なんでこんな時に限ってだ...!)
致し方なく、教室から割と離れた特別棟に向かう。他学年のトイレに行くのは少々気恥ずかしい思いがあるので、特別教室のある棟に向かうことにしたのだ。
直ぐに男子トイレに入って、大便を済ませ手を洗う。ポケットからハンカチを出して手を拭いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「....まさかな」
釘を刺しておいて同じ事を繰り返す程の馬鹿ではないと思いたかった。恭哉も言っていたことだ、別の人間が何かをやらかしただけかもしれない。
そう、淡い期待を込めて階段を降りていく。特別棟の一階はこの時間誰も寄り付かない。授業部活以外で使う事はないからだ。3階には午後の授業の準備で時折理科の先生などがいる事はあるが、コレだけ離れていれば声は聞こえないと踏んでいるようだ。
コツコツと降りていくと足音に気づいたのか息を潜めるように静かになった。一階、降りた先の階段の裏。笹川が今村を虐めをおこなっていた。
「っふん!」
それを見た幹人は一気に怒髪天だ。無言で笹川の顔面に殴りかかった。
「ックソ!テメェ!いきなり殴ってくんじゃねぇよ!」
「黙れ!警告はしたはずだ。俺は容赦しない、今村の痛みを思い知れよ」
笹川が応戦しようとも無駄であった。体格差がある。167cmに対して181cmの屈強な肉体。腕、脚のリーチにより一方的に笹川が殴り、蹴られる。
「ま、待ってくれ、話し合おう!お、俺が悪っぐはぁ!」
無言だ。悪人に対して一切の容赦がなく、対話をする気もサラサラない。鬼に迫る様な気迫で殴り、狭い空間で端へと追い詰めて床に転がす。
あまりの恐ろしさに今村も怯えてその場を離れていった。そこからは更なる地獄だった。完全にマウントを取った幹人は上から拳を振り続けた。謝っても泣いてもその手は止まらず、無慈悲に攻撃を続けたのだ。顔を守っている腕はボロボロで骨が折れたかもしれない、痛みが止まらない。でも
こんな攻撃を顔に喰らうなら腕の方がマシだと、瀕死で耐えて、耐えて、耐え抜いた。そこでようやく猛攻は終わったのだ。今村によって呼び出された恭哉によって。
「おい、その辺にしとけ!マジでヤバいぞ!顔から血が出てるし、腕がへこんじまってねぇか!?」
振り上げた拳を抑えて、幹人に伝えるがその目は盲目だ。
「ダメだ、今村が受けた痛みを知らないとまたコイツは同じことをする」
「ここまでの被害は今村も受けてねぇよ!たしかにそいつも悪いかもしれないけど、これ以上は洒落にならねぇ!あぁ!くそ!」
笹川に乗っかった幹人を力づくで引っ剥がし、押さえつける。
「っ!離せ!まだ!」
「だから落ち着け!馬鹿野郎!こんな事でお前が退学とかになっちまったらどうするんだ!今村!救急車呼んでくれ!それと静寂先生もだ!あの人力強かったはずだし、俺らの担任なんだ。この状況をどうにかしてくれるはずだ!」
「わ、わかった!直ぐに行ってくる!」
今村は直ぐにスマホを取り出して電話をかけながら、静寂先生のいる場所へと向かっていった。
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