想い
「結局、先輩は何を考えて俺を生かしたんだろう」
真意を知りたい。間違いなく、自分より巻き込んでしまった幹人を生かしたいということはわかる。けれども、普通に生きていて欲しかったのか。後を継いで人々を守ることを頼みたかったのか。それがわからないから悩んでしまう。時間が経てば理解ができるかもしれないが、そんなに猶予はあるのだろうか。事件があった次の日から戦う意志はあったが、生かされた事実とその負い目でこの戦いを続けるべきか苦悩してしまう。
頭を冷やす為にベランダに出る。冷えた風が骨身に染みる。手すりに寄りかかって空を仰ぐ。空を飛ぶ鳥になりたい気分だ。何にも悩まず、苦しまずに自由に羽ばたきたい。しがらみのない解放感溢れる生き方をしたい。現実逃避をしたところで何も変わらない。
「気分転換にはちょうど良いかもな」
結局のところ代わりに戦うしかないとは思う。力があって、善良な人間達が被害に遭うなど許される行為ではない。それに幹人はそれを知って黙っていられる人間ではない。誰かが苦しみ、助けを求めるなら手を差し伸べたいと思う人間だったのだ。その過程が正しいか誤っているかは置いておいても幹人は動く。以前の出来事で形をひそめていたが人を助けたい意志に間違いはない。
だが、考え方が決定的に違う。それも継ぐのを迷ってしまう要因だ。
金剛寺香織は罪を憎み、人を憎まない。人を許す包容力を備え、誰もが救われる道を選ぶだろう。
一方贖幹人は罪も人も悪と決めつけ、人も罪も許せない。怪人化していた時が顕著だが、悪行を働いた人間は徹底的に追い詰めて無理矢理罪を償わせるのだ。ここ最近の幹人であればそこまで行わずに止めていたかもしれないが、悪心、欲望を増幅させられたが故に止まることなく私刑の実行をしていたのだ。
そういった言動もあるのでバツが悪い。
「戦いたいけど、後継として俺は違うよな」
どうしてもそのビジョンが見えなかった。昨日まであった高揚感、使命感はとうに薄れてしまった。浄化や魔法少女に一時的に変身した為、冷静に自分の行いを省みることができる。だからこそ自罰的になってしまう。あんなものは紛い物だと。彼女のような本当の優しさを自分にはないと。
そして、あの行いを間違ってないと思ってしまう自分もいる。根底は変わらない。他者と自分との違いは理解はしているため、周りに合わせているが故に正義を執行しなくなっただけだ。
ため息が止まらない。いつまでも空を眺めているとベランダにケルベスがやってきた。
「質疑/心が晴れぬのかね。幹人君」
「あぁ、ずっと悩んじまう。あの人の次に俺はふさわしくないってな。評判に泥を塗っちまうとか、心の在り方とか。考えれば考えるほど出てきちまうんだ」
「客観/なるほど。確かに怪人化していた君を見る限りは彼女とは真の意味で真逆と言えるだろう。だが、それは当然だ。人は千差万別。同じ思考、性質なんてものはあり得ない」
「そうかもしれないけど...怪人として戦うのはダメだもんな」
「肯定/その通りだ。それは君が1番わかっているはずだ。冷静になった今、己の言動を省みて後を継ぐ事に負い目を感じるのだろう」
無言で頷き返す。ケルベスの言ってることは図星だ。
「提言/ならば自身を変えるチャンスと考えれば良い。過ちを犯したのなら、それを償うチャンスは人々に平等に与えるべきだ。特に怪人化とは法では裁けない類のもの。気に病む必要はない。言うならば君も被害者だ」
「...優しいんだな」
「想起/これは香織君の言葉だ。私も彼女に感化されたものでね。救われた君がそのように苦しむ姿を望んじゃいないさ。もし、本気で人々を救いたいと願うならば共に歩んでほしい。それに、君が胸を張って生きていけるようになれば彼女も本望だろう」
罪滅ぼしとか、後継とかそういった難しい部分を排除して考えれば良い。只、新しい自分として生きていくべきだと。人は変われるんだって証明するだけでいい。自分自身を変えるために魔法少女という選択を取って欲しい。精霊はそういっているのだ、他の誰でもない金剛寺香織の言葉を借りて。
ずっとつっかえていた付き物の溜飲が下がった気持ちだ。結局自分の悩みを打ち砕くのはあの人なのかと。救われたばかりで、情けなくて思わず笑ってしまう。
「こんな俺でも変わることはできるかな」
「証明/さてな、それは自分次第だ。君が本気で変わりたいと願い、悩み足掻き続けることでしかその答えは見つからない」
「アンタの言う通りだな。俺はなるよ、魔法少女に」
変わることを恐れてはならない。行動しなければ何も得られない。失敗しても、躓いても良い。その足で前に進み、目標へと向かうことが大切なのだ。
(だから、変わってみせる。あの人のような立派な人間になれるように)
誤字脱字のご指摘ありがとうございました。
私が気づかずにそのままにしてしまったので非常に助かります。
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