これから
「....質問いいか?」
無言でケルベスは頷く。
「この身体は金剛寺香織に返せるのか?」
俺なんかよりも金剛寺香織に身体を返したい。悟ったのだ、自分よりも正しくあり続けたあの人に生きてほしいと。怪人になるような人間より、魔法少女だった彼女の方が世界を担う人間として相応しいと。
「否定/それは叶わぬ。既に死んだ人間故、元に戻ることは無い。君と混ざり合う心と記憶、半身が彼女の遺物だ」
既に死者になったのだ。生きて欲しいと願っても、死人まではどうにもならない。願いの力を持ってしても無理だ。死の淵から救うことはできるが、死者は救うことはできない。そもそも同化しているので命を担保にすることができないので願いの力を使うことは叶わない。
「後は...怪人にやられた後、街を彷徨っていると時々デジャヴを感じたんだ...知らない感覚や場所とか。後は自分じゃ行動しなかった様な事も選択の一つとして出たらとか。色々変わった気がするんだ」
「推定/記憶や精神の同化もありえる。精神に関しては少々意外だが、十二分にあり得る。いずれは完全に馴染むだろう」
そこまで影響が出ていたのかと手を顎に当て、思考する。それならば先輩の記憶をアテに仇である外套の男に辿り着く為のピースがあるかもしれない。着々と前に進んでいることが実感でき、結果としてこの敗北に意味はあったのかもしれない。
「質疑/以上で質問は終わりかね」
「ああ、はい。とりあえずはその辺りかな。ちょっと難しくて追いつかないけど、先輩の記憶が馴染むなら問題ないと思う」
「警鐘/なるほど。であれば良いが、彼女との同化を進めるのであれば怪人化はこれ以上しないことだ」
「怪人化...今まで俺がやってきた変身のことだよな」
「肯定/その通りだ、アレは願いの力とは対のモノ。本来ならば剥がれたのかもしれんが、君に根深くついて周り魔法少女の性質と合わせることで緩和を目指したのだろう。だが、君はその力を振るい続けた故、同化は遅れている」
身体の同化はかなり進んではいるが、精神の方はかなり遅れがあった。それ故に幹人は魔法少女や怪人に無知であったのだ。未だに事件の記憶を引っ張り出そうとすると激痛が走る。こればかりは時間をかけていくしかない。
「質疑/それらに関して私からも君に聞きたいことがある」
「なんだ」
「質疑/君は魔法少女として戦うつもりはあるかね。ここ数日の間君は怪人として街を守ろうとしてきた。しかし、そのプロセスは誤ったものであり、正しいおこないができる力を君は持っている」
「俺が魔法少女...?」
唖然とした。自分のガラではないことを頼まれた。確かに金剛寺香織の身体を使ってはいるが、そんなファンシーな存在に自分がなるというのは少しこそばゆい。それに自身が魔法少女になんてなれるのかと行って良いのかと疑問をぶつける。
「それは俺がやって良い事なのか?俺は多分同じ過ちを繰り返してた。なんでかわからないけど...。いや、それは言い訳か。だからさ自信を持ってやるって言い切れない。俺が継ぐべきなら、使命というなら全うする気はある」
「希望/そうだね、私としては君にやって欲しい。今のままではブルーレイン一人でやることになる。それに、君はこれまでの行動に負い目を感じているのだろう。ならば、やるべきではないかね。罪の償いであり、彼女の遺志を継ぐ形で良い。強制という訳ではないが、一考してほしい」
「ああ、そうするよ。またちょっと考えさせてもらう」
「肯定/それが良い、それで君が最善の選択をする事を祈るよ」