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魔法少女:Record Blue Imagine   作者: 誰何まんじゅう
First:その身体に潜むもの:蒼き慟哭
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骨子の薔薇

 推定。金剛寺香織、贖幹人。両者の怪人化の本質を捉えた存在。

 二者一体となった存在であるが故に両方の性質を持つ。

 贖幹人の骨。

 金剛寺香織の薔薇。

 その二つの力が合わさり、最悪の権化としてブルーレインの前に立ちはだかる。

 金剛寺香織の本体を中心に薔薇の花が咲く。

 白く、固い骨の性質を持った薔薇が。

 地中からは荊棘。薔薇の茎を模した堅牢なる棘が生えたもの。植物とは思えない無機質で固い骨の質感。一定の間隔に関節ができており、その茎は背骨にも見えた。

 本体は正気を失っており、薔薇と一体化した身体は全身が白く、双眸は黒く焦点が合わない瞳をギョロギョロと動かし苦しむような叫びを上げていた。

 

 ブルーレインは本体に到達し、意識を断つ事が目的だ。浄化による弱体化も見込めない今、肉体を損傷させる。もしくは魔力切れを狙う他ない。最も確実な手段は魔力切れを引き起こさせること。先程の戦いでそれなりに魔力を使っている上、現在身体を埋め尽くす薔薇の維持に相当数使っている筈だ。合理的に動く事も出来ずに暴れ回るだけなので、身体の端から斬り落としていけば何も考えずに再生を続けて魔力が枯れ果てる。

 

「都合よく進めば良いんだけどね!」


 水刃を握る。抜かれた刀身は今迄とは形状が違い、鞭のように長く、しならせていた。

 河川に根付く骨の荊棘は唸り、津波の如く押し寄せてきた。髪による波状攻撃を遥かに上回る数の暴力。全てを粉砕しながら凄まじい勢いで迫り来る。それに対抗すべく、水刃を更に長く伸ばし、根本から一閃した。だが、予想していた魔力の泡沫となり消えた瞬間から切れ目より再生が始まった。2度、3度と斬り尽くしても獲物を捕らえるまで絶えずに再生を行う。


「再生が止まんない!!」


 やがてブルーレインを取り込むように荊棘の波に飲み込まれた。鋭い棘で取り囲み、すり潰すように回り、圧迫を行いダメージを与えようとしてくる。危機的状況ではあるが、窮地こそ冷静にならなければならない。焦って選択を誤ることは死に直結する。


「やられてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!」


 斬ッッッ!

 

 水刃の質量を膨らませ、囲ってきた荊棘を貫き、斬り伏せる。轟音と共に拘束していた荊棘は強大な威力の斬撃によって灰塵となる。その衝撃は押し入る次の荊棘の波をも押し返す。


(危なかった、出力を抑えて少しずつだと絶対に無理だった)


 荊棘の残骸の果て、白き怪物は立っていた。

 薄ら笑いを浮かべる不気味な顔に苛立ちを覚える。

 アレは彼女の存在を侮辱している。金剛寺香織は清廉で博愛精神を持ち、誰をも許す包容力を持ち合わせる完璧な人間と言っても過言ではない。特に、ブルーレインにとっては身近な人物であり、その生き様を信念を心の在り方を見届けてきた。あのような怪物なる為に産まれてきたのではないと断言できる。

 これはブルーレインにとって香織を救う為の戦いだ。だから、全身全霊で討ち取る。

 水刃を二尺程に戻し、構える。対して香織は構えなどはない、薔薇の花弁を吹雪かせながらゆったりと寄ってくる。無手であり、荊棘を再生しなくなった香織は上げた腕を斜めに振り下ろした。

 咄嗟に前方へと転がり込むと、避けた先は振り下ろした腕の形に裂けていた。もはや出鱈目な魔力の放出を行うだけであった。口、目、腕、脚と様々な部位、方向からレーザー光線のように撃ち続けるだけ。動きも単調そのものであり、決着は近づいてきた。


「そんな技じゃ魔法少女は倒せない。どれだけ私が研鑽を積んできたか、貴方が1番わかってるでしょ!!」


 光線の包囲網の隙間を軽々と掻い潜り、懐へと忍び込む。


「う、うがぁぁ」


 焦点の合わない瞳で睨みながら、何かを呻く。何かを伝えたいのか、威嚇してるのか真意はわからない。

 ブルーレインは一呼吸置き、刀で斬り裂く。身体を白くしていたのは骨の外装。バラバラになるまで刻み続け、やがて再生が止まった。

 魔力が底をつき、意識を失った金剛寺香織は地面へと無造作に倒れそうになったので、そっと腕で受け止めた。


「....終わった。ケルベス!出てきて!終わったわよ!」


 またもや避難しているケルベスに向け、安全になったことを伝え、先ほどの回答を得ようとする。


「確認/スカルヘッドの沈黙はこの目で見ていた。さて、答え合わせの時間だ」


「.....」 


「真理/結論から言おう。それは金剛寺香織であって金剛寺香織ではない。別の人間と同化を行い、主人格を譲ったもので間違いないだろう」


「どういうことよ!」


 焦燥。救ったはずの人間は、別人。正確には同一人物ではあるが、中身が別。理解したくなかった。何故なら、その方法を知っているし、信じたくない。だってそれは負けたという事だ。自身よりも熟練のゴールドラッシュが。 

 それを倒した敵がいる事も信じたくない。負けた事実も信じたくない。彼女がいない世界を信じたくないと、少女は思う。まだ未熟で幼いブルーレインにとっては辛い事実であった。


「証明/わかっているはずだ。他者の命を助ける魔法があることを。それを実行できる優しさと覚悟を持っている香織のことも」


「嘘だ!嘘だ!嘘だよぉ...、死んじゃうなんて。そんなの...」


 橋の下。少女は泣く。金剛寺香織だった、別人の肉体を抱きしめながら。


 

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