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第5話

   

 五重塔(ごじゅうのとう)の精霊との遭遇。それは大興奮の体験だったけれど、田舎の家に帰っても誰にも話さず、自分一人の胸に(とど)めることにした。「人に見られちゃいけない存在」であるならば、秘密にしておいてあげよう、と考えたのだ。

 その後、また毎日のように「五重塔(ごじゅうのとう)の神社」まで足を運んだが、二度と彼女に会うことはなく……。


 翌年の夏。

 いつも通り北陸の田舎を訪れて「五重塔(ごじゅうのとう)の神社」にも行ってみたが、既に五重塔(ごじゅうのとう)はなくなっていた。

 驚いて田舎の家の人に尋ねてみると、

「あの塔なら、地元の悪ガキが中で悪さするようになってね。もう使われてない施設だから、安全のため、この機会に取り壊そう、って話になったのさ」

 と説明される。

 わかったようなわからないような、少しモヤモヤした気持ちだったが……。「壊してしまった」と言われたら、それ以上どうすることも出来なかった。

 当時まだ二重表現という言葉は知らなかったものの、それでも「悪ガキが悪さ」という言い方は、まるで「頭痛が痛い」とか「馬から落馬」みたいに聞こえて、妙に心に残るのだった。


 その後。

 小学生の高学年になると、中学受験のために進学塾へ通うようになり、夏休みも夏期講習。もう田舎へ行く機会もなくなり、そのまま私は成長したので、田舎の思い出もすっかり忘れていたのだが……。

 先日、出張で京都を訪れた際、五重塔(ごじゅうのとう)を目にしてハッとする。田舎にあった「五重塔(ごじゅうのとう)の神社」を思い出し、あの時の女性についての記憶が蘇ってきたのだ。

 当時は子供だったから想像も出来なかったけれど、大人になった今ならばわかる気がする。翌年に聞いた「悪ガキが悪さ」という話と合わせて考えれば、あの女の人が泣いていた理由は、おそらく……。




(「五重塔の涙」完)

   

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