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一周忌までさようなら

作者: エアームド

大学時代の友人Aが亡くなった、26歳だった。

 その訃報を知ったのは、まだ暖かさの残る11月末。雨が降った日で、明日から寒波がやってくると天気予報士がTVで言っていた。もうTVの言葉は入ってこなかった。

 教えてくれたのは、同じゼミの友人Nからだった。彼が言うには、AのLINEで遺族から連絡があり、亡くなって一か月ほど経った今、少しずつAの友人にも連絡を入れていたらしい。Nは大学時代Aとバンドを組んでいて親しかったこともあり、大学時代の友人数人への連絡を頼まれたようだ。

 不慮の事故でもなく、大きな事件に巻き込まれたわけでもなく、自殺だった。なぜ?何で?どうして?会っていなかったこの4年の間、彼に何があったのか。何年か前にAはSNSを消していたので、私には現在の彼を知る術はなかったが、共通の知人からの話で、来年1月に結婚式を行う、子供が1人いて奥さんのおなかには2人目がいるだとか、順風満帆な人生を送っているのだなと思っていた。それなのに何故、まだこんなに若いのに、怒りにも似た感情が沸いた。なんとなく生きていると思っていた友人が亡くなるのは初めてのことだった。

 詳細な情報はNも聞いていなかった。当然、聞けるようなことではなかった。ただ私たちに残ったのは、大学を一緒に過ごした友人が自殺したという事実だけだった。せめて事故なら、倫理的に間違っているだろうけど、せめて事故なら恨む相手ができた。せめて大きな事件なら、恨む相手が。でも現実はそうではなかった。その選択肢を取ってしまった以上、奥さんはAのSOSサインを見逃してしまったのかと悔やむだろう。両親はもっと声をかけていればと悔やむだろう。友人はもっと会っていればと悔やむだろう。文句のひとつでも言ってやりたいのに、この世にいない相手に言っても仕方ないか。このメンヘラ野郎が、思えば大学の時もそんな奴だったな。この馬鹿。

 私とAの関係は本当に特筆して語るべきことがない。大学で出会い同じ学部で男子も少なかったため、交友する機会が多かった。勿論、数人かで飲み会へ行ったこともあるし、空きコマにテニスやキャッチボールをして遊んだこともある。Aの家で飲み明かしたこともある。そういえばゼミが一緒だった、なので話をする機会はそれなりに多かった。だが、凄く仲のいい友達として紹介するには少し物足りないようにも感じる。それは、Aが自分の話をあまりしなかったからだと思う。

 初めて会った時からAは人当たりのいい自分を演じているように見えた。その後仲良くなり知ったことだが、やはり猫をかぶっていたようだ。誰に対しても優しいようで、でも本当は誰に対しても興味のないような、自身を客観視してその場にふさわしい自分を演じていた。そんな自分が嫌だとも言っていた。

大学生らしく馬鹿話もした、彼女のことだったり、ちょっとした火遊びのことだったりも話した。ただ、楽しく話しているようでも、本当の自分は出さないように、パーソナルスペースには立ち入られないように。それが気に入らない人もいるだろうが、器用にやっているなと私は感心していた。良くも悪くも周りに対して平等だったのだと感じていた。女性関係はずいぶんとヤンチャだったが、友人としての居心地は悪くなかった。

 だから本当に、人生を上手いこと生きていると思っていた。その人当たりの良さで、話しやすさで、嫌なことがあってもなんとなく乗り越えて生きているのだと思っていた。Aだけでなく、友人と呼べる人たちはみんなそうして生きているのだと思っていた。あっけなく、劇的でもない死を、私はなかなか受け入れることができなかった。

 これが映画やドラマなら、Aの経緯について調べているかもしれない。もしフィクションなら、過去に戻って止めることだってできる。人の命の尊さを説く素晴らしい映像作品にだってなるかもしれない。最も、ありきたりすぎてつまらない内容だろうが。

 そんなことを考えても、毎日出勤し、日曜日は休みだから少し遅くまで寝たり、雨の日に洗濯物を部屋干ししたりする。ワールドカップで日本代表の活躍に興奮したり、寒くなってきて暖房をつけるか思案する。そんな毎日を過ごすうちに、Aの死を考える日はなくなるし、

この駄文を見返してみれば恥ずかしくなったりもするだろう。でもそれでいいと思う。人の死を受け入れるなんて能動的にするものではない、時間に身を委ねるしかない。また一周忌の時にでも連絡があるだろう、その時に思い出してやればいいか。じゃあ、またね。



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