根腐れ
僕の家族は父、母、兄、自分と四人家族です。
ですが、三人には認知されていませんが、かつてもう一人家族がいたのです。
自分はそんな過去と決別するためにこの場をお借りして綴らせていただきます。
僕は昔から周りとは考えとは一致しない普通ではない思考を持っていました。故に周りとも家族とも同調せずにいつも一人で遊んでいた気がします。
そんな自分でもふとした時に孤独を感じたりするもので、そんな時によく遊んだのが自分で描いた物語に入り込むことでした。
数々の強敵と戦い、多くの仲間と和気藹々と暮らす物語の中で僕はいつしか兄と妹の関係を深く描いていました。
親が見る洋画や日本のドラマなどで生まれたところが同じじゃないヒロインと繋がっていざこざして最後にキスをする。そんな恋愛が汚く不完全のように見え、比べて兄と妹の関係は幼い頃から一緒で互いを慕って理解してくれる綺麗で完全な恋愛でした。
小学生の僕はマザーコンプレックスでしたが、妹のいる家庭に憧れて夜な夜な寝付いた母のベットに入り込んではワンピースをめくって腹部に耳を当てて眠っていました。
そんな時代を過ぎ、日々妄想に明け暮れていた中学生の頃に箱から出てきた少女と出逢います。
名前は水月。小柄で大人しくいつも愛想よく笑っていて、母が自分の誕生日のプレゼントとして与えてくれた僕の妹でした。
この時の僕は大いに喜びました。自分もこれで兄妹になれるんだって歓喜していたのを覚えています。
それからというもの僕の私生活は一変し、1日の半分が水月の世話で埋まりました。何せ、彼女は一言も喋ってはくれず、一人では動こうともしなかったんです。
でも、それが愛おしくて毎朝顔を見合わせて挨拶をして、学校行く前に愛でて、授業中にも水月で頭いっぱいになって帰りの時間になれば、急いで駆けて家に入って妹にただいまと言って夕食と入浴以外はいつも一緒で休日には色んな所へ出掛けました。
水月はいつも変わらない表情をしてますが、いつもそばにいて何より自分のことを深く理解してくれる。自分が思い描いていた兄妹がそこにありました。
でも、そんな僕を母は許してはくれず、水月は乱暴に連れ去られて泣き叫ぶ声を聞いて必死に抵抗するも、母の前では無力で僕の前から姿を消しました。
そうして空白の数年を暮らす中で、母が久しぶりに水月に会わせてくれました。
僕は呆気に取られた様子を見せるも、母が去ってからすぐに抱きしめて再会を喜んだのですが、水月は何か言いたげで僕は話を急かさずに万全の体制で聞きに入りました。
守りたい人ができた。
そう僕に言いました。一瞬、何のことだろうかと思ったのも束の間、要約すると彼氏ができたと言ったのです。
打ち明けてくれたことに対してありがとうと呟き、同時に良かったねと妹に初めての他人事を言ったと思います。
水月はごめんねと言いながらも、彼氏の良いところと思い出について語り出し、僕は確実に心が折れるのを感じていました。
それからというもの僕の私生活は一変し、1日の2時間は水月からの話を聞いていました。何せ、彼女は輝いていて、僕は妹といればそれで十分だったんです。
水月は彼氏に夢中でした。それでも愛おしくて朝は別々に起きて、学校に行く前に彼氏が水月を愛でて、授業中は水月のことで心配になって帰りの時間になれば、水月が彼氏と駆けていっていくのを見つめて夕食と入浴以外は少し一緒になれました。
水月はいつもと変わらずに今日あったことを話し、僕は水月のことを深く理解していたつもりでした。自分が思い描いていたものからかけ離れていく。
最後には僕は水月と交わることさえもできなくなりました。一緒にいてもどこか違くて、触れても彼女は喜んではくれなかった。
そして目の前から消えた時、僕はいつからかあの汚く不完全な恋愛を望んでいたのです。
一度汚れてしまえば、後は腐るだけでした。