29 人の心
そんな国王がミラナリアの元を訪れたのには理由がある。それは、メロロ王国が滅亡したことに関係しているのだ。
「そういえばここに来た目的を忘れていたな。ミラナリアの結界は魔物を通さないのは分かったんだが、人間に関してはどうなんだ?」
「えっ、人間ですか?それは普通に通りますけど?もしも人間を通さないなら,どこぞの国王の周りを囲ってから、徐々に狭めてミンチにしてますよ。私以外には見えないんですから私の犯行と分かりませんし。完全犯罪ですね!」
何やら物騒なことを言ってはいるが、国王の聞きたかったことは聞けたようだ。何やら考えこんでしまっている。今の話を聞いていったいどうなるのか、ミラナリアにはよく分からなかった。それは公爵も同じなのだ。
「陛下、人間が通るかの確認が何になるのですか?」
「あぁ、じつはな、元メロロ王国の国民が隣国に何人も訪れていて、無理やり国境を超えようとしているらしいんだよ。そこまで多くないのであれば難民として受け入れるんだけど、かなりの人数がいるだろ。それに、魔物のせいで家を失ったから財産もなくて治安が悪化しているんだ。
そんなこともあって、うちの国にミラナリアがいるんだから何とかしろって言い出した国があってな。流石に鬼畜過ぎるって断ったんだけど、聞くだけでもいいからって言われたから一応聞いたんだよ。」
そう、メロロ王国の隣国がサクラ国王に提案したこととはミラナリアの結界によってメロロ国を囲ってしまい、難民が自国に押し寄せてこないようにするということだったのだ。
もちろん、現在も魔物はメロロ王国にいるため、国という守りを失った彼らがどうなるかなど、分かり切っていることだ。しかし、他国の国民がどうなろうと気にしないのだ。むしろ、そんな彼らが自国にやってくることにより、治安が悪化することこそが問題と考えるものが多い。
国王のまさかの発言にミラナリアでさえ固まってしまっている。いくら辛辣の代表のような彼女でも人の心は少しだけ残っていたようだ。
「ちょっと待ってください!そんなの酷いじゃないですか!」
ミラナリアと同様にあまりのショックで固まっていた公爵はその言葉でようやく正気を取り戻す。彼もまさか、ミラナリアがここで怒るほど純粋な人間の心を持っているとは思わず、彼女を一度でも信じることが出来なかった自分を恥じていた。
「どうして私が働く前提になっているんですか!私はそんな、どこぞの国のために働く気は一切ありません!働くなら正当な報酬を要求します。どうせ、私のせいで国が滅んだんだから,ただで働けとか言っていたのではないですか?」
違った、やはり、ミラナリアはミラナリアなのだ。容赦なんて言葉は彼女の辞書には存在していない。
もちろん、先ほどまでは自分のことを恥じていた公爵はやはりというような表情で彼女をジト目で見るのであった。
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