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今夜、貴方とマトンシチュー Part4

 数日後、アリスト地区冒険者ギルド。

 もはやこのギルドの定番となった名物コンビのいがみ合いが、高らかに響いた。


「まったくもう!」

「そんな怒んなって」

「怒りますわ!」

「わーったわーった。ほら、これ」

「……なんですの?」

「飴玉」

「ふざけないで!」


 再びギルドに戻り、ふたりはテーブルに座る。

 給仕女がニヤニヤとした笑みで注文を聞きに来るが、プルートがひらひらと手を払って返した。


「今回もたまたま失敗しただけなんだよ! 感覚だが魔法の腕自体も、昔に比較してむしろ上がってる!」

「言い訳は聞き飽きましたわ! 使えないのならそう言ってくださいまし!」

「だから使えるんだって!」

「なら見せてくださいな!」

「ぐっ……」


 それからプルートはため息をついて、うなだれた。


「確かに……そうだ。見せてないのに使えるって信じてもらうほうが難しいよな」


 まるで頭からキノコが生えてるかのように心の底から落胆している様子は、シャルロットにも伝わり、罪悪感を助長させた。シャルロットは根が素直なので、こうした態度にはめっぽう弱く、すぐに落ち着いた。


「その……こちらこそ申し訳ありません。お辛いのは、あなたでしょう」

「いや、いいんだ……。しかし参ったな。即死魔法が使えないとなると」


 シャルロットは、両手を合わせ、ふと気が付いたことを述べた。


「あの、使えないのは即死魔法だけじゃありませんこと?」


 この数日間、西に魔物がいれば即死魔法をかけ、東に魔物がいれば即死魔法をかけ、という生活を送っていたのだが、よくよく考えれば、彼は即死魔法だけしか使っていなかった。

 そう、Sランク冒険者ともなると、炎や氷、雷や光、種々様々な属性を操れてもいいはずなのだ。

 

 プルートはその問いに気まずそうに答えた。


「あ~……俺、即死魔法以外使えないんだよな」

「え?」

「師匠にさ、即死魔法の才能しかないからって言われて……」

「そ、そんな馬鹿なことがありますか! 普通は段階を踏むものです! わたくしだって氷結魔法を主に使いますが、ほかの魔法だって少しは……」

「使えないもんは使えないんだよ……」


 実のところ、プルートは師匠に「即死魔法は強いしモテるぞ!」とそそのかされ、それしか練習しなかったからなのだが、偶然、即死魔法の才能がとびぬけていたのであった。恥ずかしい話なので、そう答えるようにしていた。


「じゃ、じゃあ……」

「今の俺、一般人」

「なんてことですの……」

 

 ふたりしてキノコの生えた頭を抱え、テーブルに突っ伏した。

 シナズはテーブルの上を鷹揚に歩き回り、シャルロットの頭に乗っかった。


「カア」

「シナズ……あなた、慰めてくれますのね」

「ハハ……ずいぶん懐いたな」

「ふふ」


 伏したままふたりは笑いあった。


「おうおふたりさん! 今日も仲がいいねェ」

「あ?」

「ありえませんわ」

「あ、そ、そうか……。でも、みんな不思議がってんだ。ふたりとも、パーティ組むようなタイプじゃないだろ、男女の仲なんじゃないかって思ってるやつも」

「あ?」

「それこそありえませんわ」

「……なんか、すまん」


 ふたりで組み始めてから、こうした風によく話しかけられるようになった。

 プルートにとっては、環境が一気に変わりすぎて、困惑している。

 一度向けられた剣先を、すっと下げられたような気分だった。


「それに」


 シャルロットはそのまま続けた。まるで、自らに宣誓するように。

 純潔を誓うように。

 厳かに……。


「わたくしには想い人がいますの」


 その視線は、どこか遠くを見つめていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それでは、また明日……」

「おい」


 夜。まだ少し冬の寒さが残る風が、冒険者たちの狂乱で火照った頬を冷ます。

 プルートとシャルロットはギルドの前で解散しようとしていた。

 別の道を行こうとするシャルロットに、プルートが声をかける。

 振り向くと、普段から暗い彼の目は、さらに暗く見えた。

 表情もうかがえないほど。


「もうやめてもいいんだぞ」

「え?」

「報酬は、いまならナシにしてもいいと言っているんだ。正直原因もわからんし、治る見込みもない。今の俺はまさしく【うらぶれた冥王】ってわけだな」


 彼は自嘲気味に俯いて笑っていた……少なくとも、肩は震えていた。

 シャルロットはその様がやけに痛々しく、見ていられなかった。


「自分を卑下するのはおやめください」

「……」

「今は確かにそうかもしれませんわ……でも、二年前にわが家の領地を救っていただいたことはウソではないでしょう?」

「まあ、な」

「きっと治ります。それまで、契約は続きますのよ」


 会話はそれで終りだと言わんばかりに、シャルロットは踵を返し、去ろうとした。


「なあ」

「はい」

「なんでそこまで俺に拘る」

「それは、父が……」

「それだけじゃないんじゃないか」

「それだけです」


 シャルロットは、振り向かず、そのまま去っていった。

 見えなくなるまで眺めて、プルートも夜の闇に溶け、消えた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 かつて、力を求めた少年がいた。

 少年は孤独だった。戦争で街を失い、頼れる人もおらず、たったひとりで生きていくことを余儀なくされた。

 少年はいつもおびえていた。彼は物を盗んで暮らしていたので、見知らぬ街の人が彼に向ける視線は『敵意』だった。

 少年は無力だった。捕まれば容赦なく殴られ、蹴られ、ゴミのように捨てられた。

 あるとき少年はある噂を耳にした。

 『森の中に死神が潜んでいる』という噂だった。


 少年は死神から鎌を盗むことにした。

 その鎌で、人をたくさん殺してやろう。そう思ったのだった。


 そして森の中で、死神と会った。

 死神は言った。


「キミにはある才能がある。私と同種の才能だ」

「鎌を……渡せ」

「世の中が憎いんだろう。でもダメだ。それじゃ死神の鎌はあげられないね」

「うるさい! よこせ!」

「やれやれ、でもここまでの才能を腐らせておくのも惜しいし……」


 死神は、彼を抱きかかえると、

「そうだ! キミを僕の弟子にしよう」

 と言った。


 


 

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