表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

今夜、貴方とマトンシチュー Part2

「おい……『プルート』だぜ」

「ハハッまたきてやんの」

「一生アレで食っていくつもりなのかね」


 冒険者ギルド。つまるところ冒険者の斡旋所であり、依頼主と請負人を繋ぐ結合部である。

 基本的に冒険者はここで依頼を探し、窓口で受注する。

 酒場を兼ねているところも多く、ここ『アリスト地区冒険者ギルド』でもそうしている。

 そのためか、昼から酒浸りの、赤ら顔の中年四人衆が、テーブルに腰掛け、ひとりの青年を脂下がった眼をして嘲っていた。

 『プルート』とは人の名。黒づくめの男のことを指していた。

 彼は今日も肩にカラスを乗っけて歩いていた。

 

「さてさて……Fランクモンスターはっと……お、グレムリンか。どうだろうな、シナズ」

「カア」


 プルートは無造作に依頼書が貼られている掲示板に近づくと、念入りに見まわした。

 低ランクモンスターを探しているのだ。


「アイツももう駄目だな……【うらぶれた冥王】」

「もう二年近くああしていやがる。目障りなんだよな」


 その言葉が聞こえているのかいないのか、平然として、依頼書を三つほどむしり取ると、備え付けのテーブルに腰を下ろした。


「グレムリンにスライムにミニゴブリン……か」


 この三種族は、最弱に数えられ、初心者の冒険者はおろか、少し腕に自信のある町民でも倒せてしまうようなモンスターである。

 だがそれらを前にして、プルートは渋面を作り、悩みこんでしまった……。


「キツイな……」

「ちょっとよろしくて?」


 女の声だった。鈴のような、涼やかな女の。


「え? いま考え事してるんだよ。他を当たってくれ」


 プルートは依頼書から目を離さずに返答をした。

 大方、やっかみを言ったりからかったりするんだろうと分っていた。

 今までに数えきれないほどいたし、この手の輩は慣れっこだった。


「……」


 女の声は止んだが、気配は去っていない。

 それに、刺すような視線を感じる。

 その圧力にしびれを切らし、

「しつこい奴だな! 冷やかしなら……」

 と言うが早いか、持っていたはずの依頼書が散り散りになり、枯れ葉のように空を舞った。

 驚いて椅子から転がり落ちると、目の前には銀色に光るレイピアが突き付けられていた。


「わたくし、気が長いほうではありませんの」

「……なんなんだ、一体?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 白い……少女であった。

 歳は一五を過ぎたばかりだろうか。すらりと伸びた肢体にやや幼い顔をしている。

 雪のように白い肌。真っ白で長く、少しだけカールした髪をサイドでまとめ、虚空に流している。

 着ている服もまた、白を基調とした、ドレスのような。

 どこもかしこも白い。

 まるで彼と正反対のように。


 プルートと少女は、テーブルに向かい合って座っている。

 その雰囲気は……お世辞にもいいとは言えなかった。

 お互いにらみ合って、火花でも散るような様子。

 カラスだけがどこ吹く風で、テーブルの上に寝そべっている。


「おい」

「おい。じゃありませんわ」

「なあ」

「なあ。でもありません」

「じゃあなんなんだよ?」

「いいでしょう……教えて差し上げます。わたくしの名はシャルロット・エドワルダ。エドワルダ家の第三子女ですわ」

「へえ」

「反応が薄いですわね……もっとこう『わっ!』とか『ぎゃっ!』とかありませんの?」

「面倒くさい奴だな」


 エドワルダ……その姓名をどこかで聞いた覚えがある、とプルートは記憶を探った。


「……そうか、二年前の」

「ええ、その節は父上がお世話になりました」


 二年前、彼が請け負ったクエストの依頼主が『カポネ・エドワルダ卿』。領地にモンスターが出没したから退治していただきたい、という旨の依頼だった。人当たりがよく、報酬も弾んでもらえたため、覚えていた。


「それで、その、エドワルダ卿のご子息がなんだってこんなところに?」

「……単刀直入に言います」

「はあ」

「わたくしとパーティを組みなさい」

「イヤです」

「そうですわよね。わたくしとパーティを組めるってこと、光栄に思うといいですわって、えぇ!?」

「レイピア突き付けるような危ない女と組むわけないじゃん」

「なっ、正論を……」


 シャルロットは、断られるとは思っていなかったのか、動揺を隠しきれていなかった。


「じゃ、また別を当たってよ。シナズ、行くぞ」


 シナズはテーブルの上から動こうとしなかった。そしてあろうことか、プルートとは反対の方向、つまりシャルロットのほうへ歩を進め、彼女の太ももにすっぽりと収まってしまった。


「なっ!?」

「カラスさんは、わたくしを選んだようですわね」

「嘘だろコイツ……使い魔のくせに!」


 シャルロットはシナズを撫でながら、ニヤニヤと笑みを浮かべる。プルートはそれが気に食わず、シナズを睨みつけた。そこで彼はあることに気づく。カラス特有の暗い双眸。なにかを訴えているように見えた。

 

「なあミス・シャルロット……報酬はあるのか?」

「あら、お金に困っていらして? いいでしょう。すぐ用意できるのは……一〇枚でどうですか」

「銀貨一〇枚!? いくらなんでもナメすぎだろうよ! こちとら命賭けてやってんだ!」


 ちなみに、プルートとシナズの食費は月に銀貨一枚である。


「銀貨? いえ、金貨十枚ですわ」

「お受けいたしましょう。この命に代えても貴方をお守り通します」

「現金な方ね……」


 シナズはようやく羽ばたき、プルートの肩に乗ると、くちばしと拳を突き合せた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ