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今夜、貴方とマトンシチュー Part1
「たまには……具のあるシチューが食べたいもんだ」
ひどく気の抜けた男の声。
それに応じるように、カラスの鳴き声がした。
「お前もそう思うか……シナズ」
「カア」
その男を一言で言い表すならば『黒』。髪も黒、目も黒、纏う衣服も黒。
極めつけは、黒くよどんだ雰囲気。
まるで、暗黒が意志を持っているかのようである。
目覚めの季節、春。
そよ風が運んでくる芽吹きの対極に位置しているとでもいえばいいのか、そんな男だった。
「ホラ食えよ……」
木製の一室、ベッドと机しかないといっても過言ではない狭所。
窓から差し込む山稜を隔てた朝日は眩しく。
男は小皿に分けてあったシチューをカラスの目の前に置くと、自らの分をスプーンで掬って口に運んだ……。