表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

第5話 母と姉、遭遇す


「ぎ、ぎ、銀くん……!? これはどういうことなのぉ!? どうして銀くんの部屋に、生徒会の青藤さんがぁ……!?」


 衣緒莉先生は顔を赤くし、両手で顔を覆う。

 その割にはバッチリと指を開き、俺たちを目視しているが。

 マズい――これは非常にマズい。

 今の衣緒莉先生、絶対に勘違いしている。


「……それはこちらの台詞ですよ、桜江衣緒莉先生? 教師であるあなたが、どうして銀次くんの家にいるのですか?」


 だが衣緒莉先生とは別の意味でヤバい雰囲気を放っているのは菫先輩の方だ。

 さっきまでの慈愛はどこへやら、まるで親の仇を見る目で先生を見ている。

 こっちも明らかに勘違いしているというか、放っておいたら惨劇が起こる未来しか見えない。


「す、菫先輩! それに衣緒莉先生も、まずは俺の話を聞いて――!」

「わ、私は銀くんの母親になるって決めたからここにいるんです! 銀くんにはお母さんの愛情が必要なのよぉ! と、とにかく大事な息子から離れてぇ!」

「母親の愛情? くすくす……笑わせないでください。銀次くんに必要なのは母親などではなくお姉ちゃんです。それに教師が生徒の家で母親面するなど、教育委員会が知ったら大変な不祥事になるのではないですか?」

「先輩、それ完全にブーメランになってますよ」

「ううぅ……私はどうなってもいいのぉ! 銀くんが幸せならそれでいいんだからぁ! 私はママになるのぉ!」

「いいえ、先生は母にはなれません。私が銀次くんのお姉ちゃんになるのですから」


 いよいよ泣きが入る衣緒莉先生と、そんな彼女を見下すように見つめる菫先輩。

 もはや言っていることが支離滅裂極まっているが、もうそんなことを突っ込んでも無意味なんだろうな……。

 自称母と自称姉が立場を主張し合うとか、この世の終わりだろ……。

 どうしてこんなことになってしまったんだ……。

 俺はただ姫子の奴を見返したかっただけなのに……。


「さあ、今からこの家は姉弟の二人きりで過ごすんです。部外者は出て行ってくださいな」

「あ、諦めないもん! 私は銀くんと母子仲良く暮らすんだから! 出て行くのは青藤さんの方です!」


 一歩も引かない姿勢を見せる両者。

 もはや一触即発。

 このままじゃ埒が明かない……。

 ああもう、やりたくはないが最悪の事態になるよりマシか。


「お……女の人が喧嘩するのは嫌だな……」

「え?」

「銀くん……?」

「一緒に暮らすなら、優しくて喧嘩しない女性がいいよ。俺が憧れてたのは、優しい母親とか優しい姉さんだったんだ。衣緒莉先生や菫先輩は、そういう人になってくれないのか……?」


 できるだけ甘えるような声で言う。

 我ながら気持ち悪いと思うが――効果は絶大だった。


「なる! なるよぉ勿論! そうだよね、銀くんは優しくて怒らないママがいいに決まってるもんね!」

「そ、そうね、私としたことが浅はかだったわ。もう喧嘩しないから、お姉ちゃんのことを嫌いにならないで? ね?」


 一瞬にして睨み合いを止め、俺に抱き着く二人。

 とりあえず最悪の展開は回避できた……。

 俺にとってこれはこれで悪夢と言えなくもないが。


「仕方ないわ、可愛い弟のためだもの。ここは一旦休戦としましょう、桜江先生」

「うん、賛成! ごめんねぇ~怖かったねぇ~よちよち♪」

「でも――桜江先生、私は諦めないわ。銀次くんのお姉ちゃんは私だけよ」

「わ、私だって諦めません! 母は強しってところを見せるんだから!」


 結局またいがみ合う自称母と自称姉。

 さっきと比べたら遥かにマシな雰囲気だけれども。

 やれやれ、これから俺はどうしたらいいんだ……。



   ※



「はぁ……昨日は全然眠れなかった……」


 翌朝、俺はげっそりとやつれたまま学校へ登校していた。

 昨晩はなんとか大事にならずに済んだものの、結果的に衣緒莉先生と菫先輩を家に住まわせることになってしまった。

 オマケに互いが俺を取られないか警戒したために、三人で川の字になって就寝。

 電気を消した後も右耳からは自称母の子守歌、左耳からは自称姉の愛の囁きを聞かされるという地獄のASMR状態でほぼ寝られなかった。

 二人は早朝から学校の用事があると俺より早く出たため、ようやく一人になれた次第である。


「はぁ……これから俺の生活はどうなっちまうんだ……もう不安しかない……」


 そんな独り言を呟きながら学校に到着し、校門を潜った時、


「くふふ、朝からため息なんてなっさけな~い。幸薄そうな人生送ってそうで可哀想~♡」


 神経を苛立たせるような少女の声が背後から聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ