表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
859/860

34-4

34-4


そして、その日最後にやって来たのは、全身すっぽりマントで包んだ人物だった。さすがにぎょっとしたが、フードの下から出てきた顔を見て、すぐにほっと息をつく。


「びっくりしたぁ。なんだ、あんたか……ドルトヒェン」


「すみません、驚かせてしまったようで」


フードを外したドルトヒェンは、きれいな角度でお辞儀をした。と、その拍子に見えた背中が、なぜか妙に膨らんでいる。うわっ、動いたぞ!モコモコモコ!


「ぷはっ。レーヴェもいるゾ!」


えぇ?ドルトヒェンのマントの襟元から顔を出したのは、狼そっくりの耳が頭に生えた、レーヴェだ。二人羽織していたのか。


「こら、レーヴェ。勝手に顔を出してはいけないと、あれほど言ったでしょう」


「いいじゃないカ、ドルト。どうせこいつらハ、レーヴェのこと知ってるんだシ」


「はぁ、まあそうですが……」


俺たちが困惑しているのに気付いてか、ドルトヒェンはハッとすると、またしてもお辞儀をした。


「重ね重ね、申し訳ありません。二の国の勇者様が目を覚まされたと聞きましたので、一度ご挨拶に伺えないかと」


「あ、ああ。ご挨拶ね……いちおう訊いとくけど、もう俺とやり合う気はないんだよな?」


「もちろんです。あの男がいなくなった現時点において、あなた方と敵対する理由は無くなりました。危害を加える事は一切ないことを表明しておきます」


よかった。さすがに第二ラウンドはないだろうとは思ったが、挨拶とか言って、お礼参り的な意味ってこともありうる。つい数日前まで、俺たちは敵同士だったのだから。


「この装束につきましても、さすがにわたくしたち魔族が城内をうろついていると、他の人間の方々が驚かれますので。致し方ないことだとご理解ください」


「ま、そうだよな。……ところで、あんたとレーヴェは、今どうしてるんだ?」


「ペトラ様の下で身を隠しております。わたくしたちが魔族ということは伏せ、人間の従者ということになっています」


なるほど、ペトラが匿っているのか。ならたぶん、他の無事だった魔物のことも、うまいことやってくれたのだろう。


「ペトラは、元気か?」


「命に別状はありません。四肢の再生も順調です」


「そっか……え?再生が順調?どういうことだ?」


「ペトラ様がそうおっしゃっていたのです。数週間もすれば、新しいものが生えてくるとのころで」


……魔王の娘って、カニかなにかか?


「ま、まあ元気そうなら、なによりだけど」


「はい。そのほかに、お聞きになりたいことはございませんか?」


「あ、悪い。こっちが色々質問しちゃって」


「いえ。他に無いようでしたら、わたくしの用事を済ませたいと思います。桜下様、誠にありがとうございました」


ドルトヒェンは、何度目かの礼をした。頭を上げると、背中のレーヴェにも促す。


「ほら、あなたも」


「おう。ありがとナ、おまえたチ!」


ははは……ドルトヒェンは額を押さえている。まあしかし、礼をもらっただけでも大したもんだろう。これまでのことを鑑みればな。


「でも……ならあんたたちは、これからどうするんだ?」


しかし俺は、聞き逃しちゃいなかった。さっきドルトヒェンは、“現時点では”、戦う理由がないと言ったのだ。つまり未来においては、必ずしもそうじゃないということだ。


「……まだ、なんとも言えません」


ドルトヒェンは瞳を伏せて、こちらを正面から見ようとしない。


「決めるのはわたくしではなく、ペトラ様ですから。しかし、ペトラ様がお決めになったことを、あなた方の王が受け入れるとも限りません」


「……それは、場合によってはことか?双方の同意が得られない時は……」


「いえ。それを望まれていはいないように、わたくしには見えました。ペトラ様は、話し合いたいとお考えのようです。近々、こちらにお伺いするかもしれません」


「そう、か……」


現時点では、ここらが限界か。向こうが話し合いを望んでくれているのなら、まだ潰えちゃいない。


「わかった、俺からも頼むよ。……ここから第二幕なんて、心底まっぴらごめんなんだよ、俺は」


「かしこまりました。お伝えさせていただきます」


ドルトヒェンは、再び深々と頭を下げた。


「それでは、わたくしたちはそろそろ。ご静養中に申し訳ございませんでした」


「こっちこそ。部屋、用意してくれてありがとうって、伝えといてくれよ」


「承知しました。では、失礼いたします」


「またナ!」


レーヴェが頭を引っ込めたのを確認すると、ドルトヒェンは静かに一礼して、部屋を出て行った。


「ふぅ……」


二人がいなくなると、俺はベットに沈んでため息をつく。


「結局なんだかんだ、慌ただしい一日だったな。こんなにお客が来るなんて」


窓の外に見える空は、茜色に染まりつつある。様々な国、役職、種族と、バラエティーに富んだ来客たちだったな。


「んふふふ」


と、ベッドわきの椅子に腰かけているライラが、口元を押さえて笑っている。


「ん?なんだよライラ、ニヤニヤして」


「だって、うれしーんだもん。みんな喜んでたでしょ?」


「ん?まあ、そうだったか」


今日来た全員、笑っていたからな。けどそれは当然だ、やっと戦いが終わったんだから。それの何が、ライラは嬉しいんだろう?


「みんなが、桜下にありがとーって言ってたよね。それって、桜下がすごいって、みんな分かったってことだよね?」


「へ?」


なに?それは、俺という怪我人の見舞いついでだったからじゃないか?礼を言われることも、いくつかはあったとは思うが……


「いやぁ、たぶんそんなことないぜ?」


「うーうん、きっとそう!桜下が、みんなにすごいって思ってもらえて、ライラ、すっごく嬉しい!」


ライラは花が咲いたように、ぱぁっと笑った。ここ最近戦い続きで、こんなに明るく笑うライラは久々に見た気がする……そんな顔されたら、否定しづらいじゃないか。するとウィルが、くすくす笑った。


「いいじゃありませんか。みなさん、感謝していたことは事実なんですし。今日くらい、ね?」


「う、ん……」


むずがゆいな……今までが今までだから、なかなかこういうのには慣れない。まあでも、ウィルの言う通り。一日くらいは、そんな日があってもいいよな?



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ