32-7
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ドガァーン!
「ハァ、ハァ……ふ、ざけやがって……!」
ああっ!がれきを突き破り、セカンドが飛び出してきた!掲げた手の平の上には、黒い炎が渦巻いている。
「ヒャハハ……切り札は、最後に切った方が勝つっつっただろうが……!全部の魔力を使い切っただなんて、誰が言ったよ……!」
あいつ……!炎でがれきを消して、生き延びたのか!
(ちくしょう!どこまで立ち上がってくる気だ、セカンド……!)
不意打ちを受けたセカンドは、殺意を顔中にたぎらせている。手負いのところを刺激され、かえって危険性が増したようだ。
「カスどもが……!そんなに死にたきゃ、まずテメェらから殺してやる!」
セカンドは宙に浮かんだまま、城を見上げた。まずいぞ、いま連合軍を攻撃されたら、守るものは何もない!
(……!)
だが、そんな絶対のピンチの中で。俺は、信じられないものを目にした。セカンドの背後で、黒い大きなものが動いている……!
「……パゴラアアアァァァ!」
「なっ!?」
セカンドはびくりと振り返ったが、いま一歩遅かった。丸太のような腕が振り下ろされる。ドガッ!
「ぐぁ……!」
セカンドの黒い鎧に、大きなひびが入った。その一撃を喰らわせたのは、さっきまで死んだように動かなかった、大サソリの怪物だ。
(生きてたのか……)
いや、死んでいなかったと言うのが正確か。その体は黒く焼けただれ、ボロボロと崩れている。俺たちもろとも爆風で吹き飛ばされてから、どこに行ったのかと思っていたが……それでも、セカンドに生命力を吸われ、黒い炎に焼かれてなお動けるなんて、凄まじい生命力だ。
けれど、今はそこじゃない。奴の砕けた鎧の奥で、なにかがキラリと光っている。
それを目にした瞬間、俺の体の中を、電流が走り抜けた。ここしかない!
「すぅ……今だぁぁぁぁ!」
叫ぶ。きっとこれだけでも、“あいつ”には伝わるはず!セカンドが異変に気付くまでの、わずかな間。その間に、動くしかない……!
ひゅっ。俺の後ろから、俺の“切り札”が飛び出した。
「わああぁぁぁぁ!」
飛び出してきた影を見て、セカンドと、そしておそらくこの場にいる全員が、ぎょっとしたに違いない。
だってそれは、今の今まで全く姿を見せていなかった、アルアだったからだ。
「やあああぁぁぁぁ!」
アルアは絶叫しながら、愛用の双剣の柄からワイヤーを引き出す。仕込み双剣だ!アルアは腕を回すと、上空のセカンド目掛けて刃を投げつけた。
キィン!
双剣は、正確にセカンドの胸の真ん中を捉えていた。だが堅い金属音と共に弾き返されてしまう。見れば、セカンドの胸は、黒い鱗で覆われていた。
「クククッ……!残念だったなぁ!炎の鎧は出せなくても、こっちならまだ出せんだよ……!」
セカンドが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「不意打ちのつもりだろうが、千載一遇のチャンスを無駄にしたな……!オレの勝ちだ!」
セカンドの超人的な反射神経は、アルアの急襲をも防いだ。アルアは歯を食いしばると、ぐいと腕を引っ張る。すると弾かれた双剣が、柄から伸びたワイヤーに引かれて、彼女の手元に戻った。
「さぁて……テメェらが足掻いてくれたおかげで、こっちもちったぁ魔力が回復したぜ」
セカンドは大きく息を吸うと、ふぅっと深呼吸をする。再び黒い炎が、奴の体を覆い始めた。
「結局最後に切り札を切るのは、オレ様なんだよ。オレが!!!勝ったんだ!!!うひゃひゃひゃはははは!」
セカンドは髪を振り乱して、勝利の雄たけびの如く笑う。……ようやくか。
「ふぅー……」
俺は、深い息を吐く。
奴の底なしの魔力と、無敵の鎧。それは、あまりにも強力“だった”。
「うぬぼれたな、セカンド」
「ひゃはははは……は?」
「終わりなのはお前だ、セカンド」
「あ……?テメェ、何言って」
パリン。
乾いた、かん高い破裂音。水を打つようなその音は、騒然とした戦場を、一瞬だけ静寂に包んだ。
音は、アルアの足下から聞こえてきた。アルアがゆっくりと足を上げると、彼女の靴底から、パラパラと光る粉が落ちた。ガラスの欠片だ。
「は……?」
セカンドの目が、怪訝そうに歪められる。だが次の瞬間には、怒りと憤りに見開かれた。
そう。アルアが踏みつぶしたのは、セカンドのエゴバイブルだ。さっきの一瞬で、彼女はこれをかすめ取っていた。
「てっめ」
セカンドは最後まで言い切ることができなかった。
ボンッ!
「え」
黒い炎が爆発し、燃え上がる。
燃えているのは、セカンド自身だ。
「あ、え。なんで」
炎は、見る間に全身に広がる。奴を包んでいた黒い鎧は、今や奴を閉じ込めた窯そのものとなった。
「セカンド。お前、言ってたよな」
こうなるように仕向けた罪悪感から、俺は奴に説明してやる。つっても、聞こえているかは分からないが。
「その鎧を作るときは、エゴバイブルの力を使うって。それだけ、難しい技だったんだろ」
エゴバイブルは、勇者の能力を補助する役割も持つ。アニはそれを、補助輪のようなものだと説明した。慣れてくれば、外しても問題ないものだと。仮にそれを無理やり奪ったとしても、せいぜい一瞬混乱させるに過ぎないだろう、とも。
だが。すべてを燃やす黒い炎を、全身に纏うという高度な技を使用するときに限り、その一瞬が命取りになる。
「お前、これのことを、ただの道具だっつったよな。だから奪われても、すぐに気付かなかった。それが、お前の敗因だよ」
俺は、胸元のアニを見下ろす。もし俺がアニを奪われたとしたら、必ず気付く。なんでって、アニ自身が、それを報せてくれるからだ。
道具と見下し、自我を消去したエゴバイブルに、奴は一番依存していた。それが奴の、唯一の弱点だったんだ。
「あ……あああ。あああああ」
ふらふら揺れながら、セカンドが地面に落下する。黒く燃える炎は勢いを強め、奴の表情は見えなくなった。
「たすけて……どうして、だれも……」
それが、奴の……いや、彼の最期の言葉だった。黒い炎が消え去った後には、黒い燃え滓の山が残るのみだった。
セカンドは、そうして寂しく、死んだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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