表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
827/860

27-3

27-3


俺たちはそれぞれの武器を構えて、孤軍奮闘するアルアへじりじりと近づいていく。クラークはささやくように呼び掛けた。


「アルア……アルア!」


クラークが呼びかけても、アルアは返事をしない。聞こえていないのか……?アルアは一心不乱に、剣を振るい続けている。だがその切っ先はふらふらで、こうして近くで見ると、アルアがかなり消耗していることが分かった。一方で、セカンドは余裕しゃくしゃくだ。


「ククク……ほら、お迎えが来たみたいだぜ?」


セカンドはニヤニヤ笑いながら、軽々と剣をかわすと、人差し指でとんっとアルアの胸を突いた。たったそれだけで、アルアはフラフラとよろけながら後退し、背後にいたクラークにぶつかってしまった。


「う、く……」


「アルア!しっかりしてくれ!」


「はな、して……私は、あいつを……」


「アルア!」


アルアのやつ、消耗しきって聞こえていないのか?だがその時、クラークが何かに気付いたようにハッとした。


「アルア、その顔……」


顔?俺は彼女の顔を見つめる。息を荒げ、赤くなったアルア顔は汗でぐしゃぐしゃだ。だけど、妙だぞ。あれは汗だけじゃなくて……


「泣いて、いるのかい?」


「……」


アルアはうつむいたまま答えなかったが、それが答えみたいなものだ。

それを見ていたセカンドが、にやけ面で話しかけてくる。


「いやあ、そのお嬢さんはなかなか面白いねぇ。実に楽しい見世物だったぜ」


セカンドは心底愉快だとばかりに、笑みを深くした。

俺はそこで初めて、正面からセカンドをまじまじと見た。長い黒髪。くせっ毛なのか、うねうねと絡み合っている。髪に覆われて顔は見えづらいが、老いの兆候が見え始めているようだ。恐らく初老くらいだろう。にちゃにちゃと粘っこい笑みを浮かべる口元には、まばらに髭が生えていた。俺たちがサードだと思っていた男とは、まるで顔かたちが異なっている。おそらくこっちが、奴本来の顔なのだろう。

クラークは怒気を強めて、セカンドを睨み返す。


「貴様!この()に何をした!」


「なぁーにも?大体、そいつのほうが先に突っかかってきたんだぜ?」


「なんだって?」


「だーから、なんもしてないんだって。ほれ、怪我してないだろ?オレも、そいつもさ」


ぐっ、とクラークは言葉に詰まった。そうなのだ、アルアは疲労困憊しているが、怪我はどこにも見当たらない。フランの言った、遊ばれているってのは、こういうことなんだろう。

セカンドはひらひらと手を振る。


「ま、ぶっちゃけ言っちゃうと、ザコ過ぎて相手になんねーのよ。そいつはナントカの仇だー!とか言ってたけど、オレ全然覚えてないし。ほれ、言うだろ?今まで食ったパンの枚数なんか知らねえってさ」


「っ。き、っさまぁー!」


アルアは喉を引き裂くように叫ぶと、走り出そうとした。クラークが肩を掴んでいなかったら、絶対そうしていたはずだ。俺は舌打ちする。


「ちっ。あいつ、ああやってアルアを逆なでし続けたんだな。だからあんなに興奮してるんだ」


宿怨の相手を前にして、アルアは決死の思いだったのだろう。しかしその宿敵は、彼女をまともに相手しようともしなかった。戦いの間もずっと、ああしてからかいの言葉をかけ続けられたのだとしたら……アルアの流した涙は、やりきれない怒りや悔しさがにじみ出た物だったんだろう。


「さすがにあたしでも分かるわ。あいつ、下衆野郎ね」


アルルカが冷ややかに言う。この時ばかりは、フランも同調した。


「今なら、おばあちゃんの気持ちが分かる。……殺してやりたいよ」


俺はぞくりと震えた。フランの言葉が、こんなに冷たく、そして煮えたぎるほど熱いのは初めてだ。俺はフランのばあちゃんと話した時の、あの暗い目を思い出した。


「さーてと!座興はこれくらいでいいだろ。主役もお揃いみたいだし」


セカンドがパンパンと手を叩く。クラークはアルアの肩を掴んだまま、ゆっくりと後ろに下がった。当然、目はセカンドから離さない。そうやってやつが俺たちと並ぶと、セカンド対俺たちの構図が出来上がる。


「待ってたぜぇ、勇者諸君。よく無事でいてくれたな。まずは及第点だ」


セカンドは満足げに、再び手を叩く。今度は拍手のように。


「あれで死なれちゃ、さすがにあっけなさ過ぎたからなぁ。やっぱ魔王と勇者の戦いっつったら、こういう大観衆の前ってもんだろ?」


「ふざけるな!」


クラークが一喝する。


「あんな卑怯な不意打ちをしておいて、何を抜かすか!自分を魔王と称すなら、せめて堂々と向かい合え!それすらできない貴様は、三下の悪党以下だ!」


「へぇー、お前にとっちゃ、あれが不意打ちになんの?あの程度で?あんなのも見破れないなんて、オレの時代に比べて、後輩くんは弱っちくなったもんだなぁ。嘆かわしいぜ」


「おっ、お前!どこまでも……!」


クラークは顔を真っ赤にして言い返そうとしたが、それを静かに、ペトラが遮った。


「悪いな。少し抑えてくれんか」


「なにをっ!」


「ここに口喧嘩をしに来たわけではないだろう。少し血を下げろ。思うつぼだ」


冷静に諭されて、クラークはいくらか落ち着きを取り戻したらしい。つっても、ぶるぶる震えながら、必死に堪えている感じだけど。ともかく、クラークに変わって、ペトラがセカンドの前に立った。


「すまんが、勇者以外にも混ざらせてもらうぞ。構わんな?」


「……ちっ。やっぱてめえも生きてたか。ちったぁ骨のある奴もいるみたいで、安心したぜ」


「そうか」


次の瞬間、ペトラは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、そのままセカンドに斬りかかった!俺もクラークも度肝を抜かれて、とても反応できない。

バチィーン!奴の体を貫く直前、ペトラの剣は、見えない壁にぶつかったようにはじけ飛んだ。その数瞬あとには、ペトラ自身も後ろに吹き飛ぶ。


「おーいおいおい!不意打ちが卑怯だなんだって言ってたのはそっちだろ?ったく、がっかりさせないでくれよ」


セカンドは急襲されたことにも全く動じず、さっきまでと同じ調子を続けていた。突然の連続に、俺もクラークもどぎまぎしながら、ペトラを見つめる。


「え、えっと、ペトラ?やるなら、一声くらい掛けてくれよ」


「今から奇襲するぞと言ってから襲い掛かるのか?それでは意味がないだろう」


「う……でも、急だと驚くぜ。動きも合わせられないし」


「急襲に連携は不要だ。魔物は目が合った瞬間から戦いが始まる。お前たちはそうでもないようだが」


む、それじゃまるで、俺たちとセカンドが仲良くおしゃべりしていたみたいじゃないか。ペトラにはそういう風に見えていたのか?心外もいいところだぞ。誰があんな奴と!


「あーあー、これだから魔物女は嫌だねぇ。人間の情緒ってもんが分かってねえ。なあ?」


セカンドが「そうだよなお前ら?」という顔でこっちを見てくるが、うなずいてなんかやるもんか。くそ、馴れ馴れしいな。ノリも軽いし、いちいち癪に障る。


「ま、そう焦んなよ。魔王との対決の前っつったら、だいたい趣深い会話があるもんだろが。セオリー通りに行くとしようぜ?」


ニヤニヤ笑うセカンド。くそ、いちいち癪に障る男だ!



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ