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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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26-3

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気が付くと俺は、真っ白な、あるいは真っ黒な空間にいた。けど、別に慌てたりしない。俺は前にもここに来たことがある。


「また、この夢か……」


そう。これはつまり、俺の夢だ。しかし、この夢を見るのも、これで何度目だ?同じ夢を、日をまたいでみるなんて。珍しいこともあるもんだが、何となく俺は、こうなるような予感もしていたんだ。


「姿を現すんじゃないかと思ってたよ」


俺がそう言うと、周囲の光が……あるいは闇が……集まって、一人の人間の形を作り出す。そいつは不貞腐れたように、鼻をふんと鳴らした。


「自覚はあったという事か。まったく、私の忠告を無駄にしてくれたな」


ちっ、うっせーな。どうしてこんなところでまで、小言を言われなきゃならねーんだ?


「で、今度は何の用だ?ファーストさんよ」


そいつは……今まで何度も夢に出てきた男。伝説の勇者、ファースト……を自称する男だ。もっとも、俺はファーストに会ったことなんてない。だから俺の前にいるのは、きわめてあやふやな、何となく男に見える輪郭だけだ。本当は人間かどうかも怪しいくらいだが、俺が彼を男であると認識しているせいで、不思議と違和感はない。

で、そのファーストは、俺にやるせなく微笑みかけてきた。


「なに、用という用もないさ。しいて言えば、激励くらいかな」


「激励ねぇ……んなことする暇があるくらいなら、敵の弱点の一つくらい教えてくれよ。あんた、伝説の勇者なんだろ?」


「それができれば、こうやって君の深層意識に潜り込むこともなかったさ」


ファーストはため息をつくと、何もない空間に腰を下ろす。まるで空気イスだが、地面に転げ落ちるようなこともなかった。ふむ、ここは夢だからな。試しに俺も腰を下ろすと、確かに座ることができた。虚空に座るなんて、何となく落ち着かないな。


「こういう言い方をするのは、不本意極まりないが……あの男は、強い」


「やっぱりあんたからしても、そうなのか」


「一時とは言え、ともに肩を並べて戦ったことがあるんだ。相手の実力くらい分かる」


「まあ、弱い相手だとは思っちゃないが……これからそいつと戦おうってのに、そんなこと聞きたくなかったぜ」


俺は不機嫌を隠さずぼやく。どうせ夢の中だ、変に遠慮することもないだろ。


「だが安心するといい。あの女性、いや魔族、ペトラと言ったか?彼女の見立ては正しい。よくあいつの能力を分析している。きっとうまくいくさ」


「じゃ、ペトラも嘘は言っていないってわけだ」


「うん?」


ファーストは意外そうに首をかしげた。


「君は、彼女を最初から肯定していたじゃないか。あれは演技か?」


「演じてたつもりじゃないよ。ただ、いくつもの可能性を考慮すれば、ペトラが実は敵の場合もあるだろ。今その線が一本消えて、ほっとしたところだ」


「ほう……」


なんだ、その感嘆符は。俺を何だと思っているんだ?ああ、でもこれは夢だから、つまり俺自身がこう思っているってことか?くそ、ややこしいな。


「君は、意外と思慮深いんだな。だが、いい心がけだ。あの男を相手にするのなら、疑い過ぎるくらいでちょうどいい」


「そりゃどーも。じゃあついでに言わせてもらうと、あんたのこともまだ疑っているんだけど?」


「なに?いまさら何を。こうして顔を合わせるのも、何度目だと思っているんだ?」


「そこだ。そもそもそれがおかしい」


俺はかねてから疑問に思っていたことを訊いてみることにした。いい機会だし、またいつこの夢を見られるか分からない。ひょっとすると、もう二度と……なんてことも、あり得るだろ。


「なあ、なんで俺なんだ?あんたが知ってるか知らないけど、この戦争にはあんたの孫娘も参加しているんだぜ。アルアってんだ」


アルアの名前を口にすると、ファーストの顔が明らかに曇った。


「それは……」


「知ってるんだな。なんでそっちじゃなくて、俺なんだよ?赤の他人よりは、知り合いの方に行くだろ普通」


「……」


黙ってしまった。痛いところを突かれたのだろうが、遠慮する気はない。


「言いにくいのか?それとも図星突かれて、言い訳を考えてるのか」


「……前者だよ」


渋々と言った様子で、ファーストが口を割る。


「あの子には、少し……会えない事情、があるんだ。いわゆる、家庭の問題だよ」


「家庭の、ねぇ」


俺はアルアの母、プリメラのことを思い出した。娘に虐待同然の躾をする、厳しさが度を越した女性だ。もしかしたら、プリメラがあんな風になったのには、その事情とやらが関係しているのか?


「……その事情ってのは、ろくなもんじゃなさそうだな」


「……」


再び沈黙。こうなったら、もう何も言わないな。それにまあ、あまり聞いていて楽しそうでもないし。これ以上は面倒だ。


「ま、深くは突っ込まないでやるよ。『家庭の事情』と言われたら、『もうこれ以上触れてくれるな』って言われたようなもんだからな」


「それを相手に言っちゃ意味ないだろう……まあ、そうしてくれるとありがたいよ」


ファーストは安心したように息をついた。よっぽどの事情のようだ。


「それにいくつかは、そうせざるを得ないっていうのもある。桜下くん、君はネクロマンサーだろう?」


「あ?藪から棒だな。そうだけど?」


「つまり君は、死者とのチャネリングをしやすい人間だということだよ。だから私の声が聞こえるんだ」


「はあ?あのな、俺は今まで死霊の声は聞こえても、あの世の声が聞こえたことは一度もないんだけど?」


「それは私が、かなり非正規かつ、強引な手段を用いて、君に話しかけているからだ」


「また、訳の分からないことを……」


「本当だよ。あちら側に言った魂は、一度だけ現世に帰ることを許されるんだ。君も一度、見たことがあるんじゃないか?」


なにぃ?まーた世迷言を……と斬り捨てようとしたが、あることを思い出して、俺はピタッと止まった。そう、エラゼムが成仏した時のこと。あの時、確かにそれは起きた。メアリーが、彼の前に現れたんだ。


「……それ、本当だろうな」


「目の前で起きている事象を、君は嘘だとみなすのか?だとしたら、思慮深いと言ったさっきの言葉は取り消しだな」


「これは夢の中だから、目の前でって言われてもなぁ」


「くっ、まだ夢だと思っている……本当に取り消したほうがよさそうだぞ」


失礼なことが聞こえた気もするが、それより気になる。


「でもそんなこと、ホイホイできるもんなのか?」


「普通は、無理だろうね……ただ私は、少し事情があるんだ」


「またジジョーねぇ……まあいいや。じゃ、あんたはあの世から戻ってきたと?」


「やれやれ。もう少し早く信用してくれていたなら、奴の正体にだって……いや、よそう。過ぎたことを悔やんでも仕方ない。それよりも、これからをどうするかだ。桜下、君はさっき、弱点は無いのかと訊いてきたな」


「ああ。えっ、ほんとに教えてくれるのか?」


「はっきりと明言はできない。だけど、もし私が生きていたならば、試してみようと思っていたことが一つだけある」


ごくり……俺はつばを飲み込んだ。あのセカンドの弱点、かもしれない情報だ。しかも、あの世からやって来た男が、直々に教えてくれるという。固唾くらい飲み込まないとな。


「簡単なことだ。あの男の能力が強力なのはわかっている。なら、その能力を使えなくしてしまえばいい。例えば桜下くん、君の能力は、一体どこから来ている?」


「え?」


能力が、どこから?確か前に、そんな話を聞いた様な……俺は無意識のうちに、胸元あたりへ手を伸ばしていた。だが、そこには何もない。俺の手は空を掴んだ。


「そう、そこだ。私は、そこが鍵じゃないかと思っている。試したことはないので、完全に予測でしかないんだが……あまり過信はするなよ。これはあくまで博打だ。君たちの作戦が上手くいけば、どのみち関係ないんだから。この助言が必要になる時が来ないことを、せいぜい祈るとするよ」


え?ファーストの姿が、どんどん揺らいでいく。ち、ちょっと待ってくれよ!もう少し詳しく聞かせてくれ。俺はそう言ったつもりだったが、声は出ていない。なぜだか、口を開くことができない。


「こう言うしかできないのがもどかしいけれど……頑張ってくれ。あいつを、倒すんだ」


ファーストの姿が、どんどん遠ざかっていく……俺はようやく、自分が目覚めようとしていることに気が付いた。


(くそ、どうして夢ってのはいつも、肝心なところで目が覚めちまうんだ……!)


俺の嘆きもよそに、夢が終わる……



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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