表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
821/860

26-1 本音

26-1 本音


ミカエルは一礼すると、わざわざ俺たちから離れたところに座りなおした。俺らがゆっくり眠れるようにだろうが、かえって申し訳なくなるな。こっちが眠ってしまっても、ミカエルはずっと祈祷を続けるわけだから。


「ふぅ……」


さて、横になったはいいが……正直、全く眠くならんな。ミカエルの結界のおかげで、横になっているだけでも驚くほど疲れが抜けていくのが幸いだ。


(まあさすがに……そこまで、神経図太くないよな)


これだけのビッグイベント……魔王と化したセカンドとの戦いを前にして、ぐっすり眠れるはずがない。俺はごろりと寝返りを打つと、離れたところにいる仲間たちを見つめる。みんなは声を潜めて、静かに話し合っているようだ。特にライラとウィル、ロウランは、熱心にあれこれやり取りしている。魔法についての打ち合わせだろうか。


「……ん」


ふと、気が付く。俺の隣には、デュアンが手足を折りたたんで、小さくなって寝ている。その背中が、小刻みに震えているんだ。まさか……俺は小声でささやいた。


「デュアン?大丈夫か?」


「……」


返事はないが、肩がぴくりと揺れた。


「デュアン?」


俺が再度呼びかけると、小さな声が返ってきた。


「……ぶなわけ、ないじゃないですか」


「うん?」


「僕は、君たちとは違うってことですよ」


俺たちと、違う……?


「それ、どういう意味だ?」


「だから……僕は君たちのように、強い力も、使命感も持ち合わせていません。僕は、ただの一般人なんです。ここにいることが、そもそもの場違いなんですよ」


「デュアン、お前……怖いのか?」


俺は思わず体を起こした。デュアンは背を向けたまま、こちらを見ようとはしない。


「ええ、そうです。相手は、あの恐ろしい悪魔、セカンドなんですよ?どうして怖がらずにいられるんですか。この数時間後、僕は生きていないかもしれない。もうこの世のどこにも存在せず、二度と誰かに触れることもできない。そういう存在になっているかもしれないんです。そう考えると、恐ろしくてたまらないんですよ……」


「お前……」


彼の発言は……言わせる奴に言わせれば、きっと臆病で軟弱者のセリフだ。戦いを前にして、指揮を下げるようなことを言うだなんて……けど、果たして俺は、彼を責められるだろうか。もし俺が彼と同じ立場だったら、どう感じるだろう。


「……僕だって、そうさ」


え?返事は、反対側から聞こえてきた。クラークが、やはり背を向けて寝ている。やつも眠れなかったのか。


「僕だって……本当は、怖い。怖くてたまらない」


「嘘だ。君は僕と違って、強い力をもっているじゃないですか」


「力を持っているからって、それで死なない保証はない。かつての英雄、勇者ファーストがそうだったじゃないか」


デュアンとクラークは、俺を挟んで背を向けたままで会話している。いいや、これじゃ会話というより、お互いの独り言に反応しているだけみたいだ。


「僕は……死にたくない。生きて、またコルルに会いたい。その為に、戦わなくちゃいけないことは分かってる。だけど、怖いものは怖いんだ。勇者だから?強いから?そんなの知るもんか。本当はこんなところから逃げ出してしまいたいのに……」


……まさか、本気じゃないよな?幸いクラークは、いきなり飛び起きて走り出すようなことはしなかった。


「……君でも、そうなのですか。それなら……桜下くん。君は?」


「え?俺?」


デュアンは相変わらず背中を向けたまま、ぼそぼそと言う。ふむ、俺か……こういう本音を語り合うみたいなのは、あんまり好きじゃないけどな。けど、みんな背を向けているから、幾分か気楽だ。仲間たちも遠くにいるし。俺は頭の下で手を組むと、力を抜いて話し始めた。


「俺だって、死ぬのは怖いさ。それに俺自身は、強い力を持っているわけでもない。仲間が強いんであって、俺はその辺の兵士よりザコだからな」


「……それでも桜下くんは、それでも戦うんですか?」


「ああ。戦うよ。勇者だからな」


「やっぱり……」


「なんて、言うと思ったか?」


「え?」


デュアンが身じろぎする。こんなの、当たり前のことだ。


「俺は勇者をやめたんだ。勇者の使命とか、正直どうでもいいんだよ。この戦争もな」


「なら、どうして……」


「別に。しいて言えば、成り行きだよ」


今までを振り返る。さんざん苦労して、ここまでたどり着いたっけなぁ。けど、その過程で常に意識していたこととは何だろう?


「妙な噂を聞いたから、王都に行った。そこで知り合いや友達が攫われたって聞いたから、取り返しに来た。悪いやつが世界をめちゃめちゃにしようとしてるから、今はそれを止めようとしてる」


「だからそれは、勇者の使命だからでしょう?」


「違うよ、何度も言わすな。俺は勇者じゃない。これだって、たまたまそう言う場面に出くわしただけだ。知らなかったらスルーしてただろうし、自分から首突っ込みにも行かなかっただろうよ」


ここまでの旅で意識していた事。考えてみたけど、特に無いんだよな。もちろん目標はあった。思惑もあった。譲れない意志もあったさ。けど、結局それって、全部成り行きだ。


「俺は、自分のやりたいことしかやらないって決めたんだ。だから、確固たる信念だとか、揺るぎなき使命感だとか、そんなもんはなっから持ち合わせてない。そう言う意味じゃ、お前と同じかもな。デュアン」


「な……」


初めて、デュアンがこちらに振り向きかけた。顔を中途半端な角度に向けたままで、結局振り向かなかったが。


「何を、言っているんですか。同じなわけないでしょう」


「だって、そうとしか思えないんだけど。じゃあさ、言葉を借りれば、ただの一般人のお前が、どうしてこんなところにいるんだ?」


「それは、尊さんについてきていたら、いつの間にかこんなことに……」


「だろ。俺だってそうさ。友達が連れ去られたから、取り戻そうとしてたら、こんなとこまで来ちまった」


「……大切な人のために戦うと、そう言いたいんですか?」


「ははは、そんな高尚に言うつもりはないな。けど、誰かのためっていうのも、なりゆきっていうのも、同じなんじゃないのか」


「……」


「強き意志を持った勇者が、世界を救う。賢き王子が魔女を倒して、姫を救って幸せになる。物語ってのは、だいたいそんなもんだ。けどさ、実際にそんなやつばっかりがいたら、世の中ずいぶん住みづらいはずだぜ」


ふぁ……長々話していたら、眠くなってきたな。あくびをかみ殺して、俺は話を結ぶ。


「みんながみんな、強い意志を持ってるわけじゃないってことだろ。何となくで生きて、けどそういうのが、今を作っていくんだ。だから、俺なりに足掻くつもりだよ」



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ