表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
809/860

23-2

23-2


「嘘だろ、おい……」


暗がりの中に姿を現したのは、他でもない。


「まさか、ペトラか……?」


「よかった。二度目の自己紹介は必要なさそうだな」


ペトラはがれきに腰かけた楽な姿勢のまま、にっと笑った。驚いた、なんてもんじゃない。まさかこんな場所で、仲間たち以外の人間と出会うなんて……いや、待てよ。


「ロウラン、止まってくれ」


「ダーリン?」


「おい、お前。お前は、本物のペトラだって証明できるのか?」


ロウランが身を硬くした。俺たちはそれで騙されたばかりだから。二度もドジを踏むわけにはいかない。


「ふむ、本物の私だと証明する、か。何をもって本物と定義するか、それによって難易度が変わってきそうだが」


「あいにく、言葉遊びする気分じゃないんだ。さあ、答えてくれ」


「そうか。いいだろう、では答えよう。私は、本物の私だ。セカンドが変身しているわけでも、別の何かが成り代わっているわけでもない。なんなら、お前たちに初めて会った夜にふるまった、茶葉の名を答えてみせようか?」


お……思ったよりもはっきりとした答えが返ってきたな。俺たちの出会いの様子は、確かにペトラしか知りえない。けど、念には念を入れておくか。


「なるほどな。確か、ダージリンだったよな?」


「おや、桜下。少し見ない間にぼけが進んだか」


ぐっ……この不躾な物言い。だがやっと、肩の力を抜いてよさそうだ。


「よかった。どうやらあんたは本物みたいだ」


ロウランもほっと溜息をついた。いくらセカンドでも、ここまで完璧に他人に化けることはできないだろう……たぶん。


「おっと。てことは俺たちも、本物の俺たちだって証明したほうがいいよな」


「いらんよ、そんなことは」


「え?でも……」


「こんな掃きだめに、わざわざ偽物が訪れるものか。一体誰の目を欺くというのだ?隠れようと思えば、闇がいくらでも姿を消してくれるというのに」


あ……言われてみれば、それもそうだ。本当に俺たちを始末しに来たのなら、変装して待ち伏せなんかせずに、そのまま背後から襲い掛かれば済む話だ。どうやら、さっきの一件でそうとう気が立っていたらしい。


「あんたはそれを分かってたから、最初からずいぶん気楽そうだったのか?」


「まあな。それに、お前たちとはまた会える気がしていた。まさかこんなところでとは思わなかったが」


「それはこっちのセリフだよ。一体、何がどうしてこんなとこに?あいや、それよりもまずは、こっちを手伝ってくれないか?実は、仲間とはぐれちまって……」


「おっと、それ以上は近寄るな」


へ?俺が一歩近寄ろうとしたタイミングで、ペトラは手を上げて俺を制した。ロウランがぷくっと頬を膨らませる。


「ちょっと!失礼なの、アタシのダーリンにむかって!」


「ああ、すまん。少し事情があってな……ん?いや、まさか。その姿……」


ん、なんだなんだ?ペトラが急にジロジロと、ロウランの全身を眺めまわす。ロウランは気味悪そうに、若干後ろにのけ反った。


「やはり、見覚えがあるな……もしや、ロウラン姫か?」


「へ?あ、うん。そうだけど……」


ロウランはすっかり困惑した様子で、おずおずとうなずいた。あれ、でも待てよ。確かあの時……


「まさか、再び会うことになるとは、思いもよらなんだ。覚えていませんか?あの日、あなたのまぶたを閉じたのは、この私です」


ロウランは、ぽかーんと口を開けている。けど、俺はようやく思い出した。ロウランの過去の記憶を覗いた時、ペトラそっくりの女性が出てきていた。まさか、その時のことを言っているのか?


「なあ、ペトラ……あんたやっぱり、あの人と同一人物なのか?」


俺が口を挟むと、ペトラとロウランがこちらを向く。


「あの時。三百年前、地下の離宮の中で、ロウランに眠りの魔法をかけたのは……あんたか?」


「その通りだ」


ペトラは、実にあっさりとうなずいた。


「そうか、お前の力で、ロウラン姫を眠りから覚ましたのだな。ということは、お前がロウラン姫のつがいか?」


「そうなの」

「違う」


間髪入れずに否定したので、ロウランはむくれた。


「色々あって、今は仲間になってもらってる。だけど、あんたは……アンデッドってわけでもないよな。てことはやっぱり、あんた、人間じゃないんだな」


ペトラはとくにごまかすこともせず、静かにうなずいた。まあ当然だ、人間が三百年も生きられるはずがない。


「なら……あんたは、一体何者だ?どうして、ここにいる?この、魔王の城に」


ペトラは足を組むと、上を見上げた。そこには漆黒の闇が広がっている。


「私か。私は、魔王……」


えっ。まさか、ほんとうに……?


「……の、娘だ」


「へ?む、娘?」


ど、どういう意味だ?いや、意味は分かるけど、意味分からないと言うか……ロウランがあんぐりと口を開ける。


「ま、魔王にも、奥さんがいるの?」


「いや、いない」


「へ?じゃあ、旦那さんが?」


「それも違う。そもそも、お前たち人間における生殖と、私たち魔族のそれは、根本から異なる。特に魔王ともなると、特異中の特異だ」


そ、そういうものなんだろうか。


「じゃあ、娘って、一体なんなんだよ?」


「私たち魔王は、お前たちで言う血縁関係では結ばれていない。血のつながりで見れば、完全に他者ということになる」


「他者?」


「そう。そして三百年前は、私はまだ、魔王の娘ではなかった。そうなったのは、それから少し後のことだ」


「……は?」


あ、頭が痛くなってきた……娘に、なった?途中から?うぅーん、訊きたいことは山ほどあったが、俺はそれをぐっとこらえて、ペトラの説明を待った。どうせ今、何を訊いたところで、的外れにしかならないだろう。


「お前たち人間には、理解しづらいだろうな。魔王というのは、誰かに決められてなるものではない。それは、誰にも分からない。だがある時、その者は理解するのだ。春に花が芽吹くように、秋に落ち葉が散るように。自分が魔王になるのだと、そう悟ることになる」


「……自然の摂理に近いってことか?」


「そうだ。それはあらかじめ定まっている。だが誰にも知ることはできない。ある春には、一輪も花が開かないかもしれない。ある秋には、一枚も落ち葉が舞うことはないかもしれない。いつになるのかは分からない。だがいつか、必ずその時は来る。少し陳腐かもしれないが、運命という言葉を使ってもいいだろう」


運命……そうなる星の下に生まれた、そういう事なのだろうか。先代の魔王も、そしてペトラも?


「なら、セカンドは……」


「あれは単に、多くの魔物を手中に収めただけに過ぎない。現に奴は、魔王としての働きは、何一つ行っていない」


当然だな。もとは人間なんだし。


「ん……?なあ、魔王の働きって、そもそもなんだ?軍を動かすとか、仲間を従えるとかか?」


「違う。それは、人間の王の役割だろう。魔王は、そう言ったことは何一つ行わない」


「なら、何を?」


「自然との調和を成す」


ペトラは短く告げた。調和だって?


「魔王の役割は、春に花が咲き、秋には落ち葉が舞うようにしむけることにある」


「……それだと、まるで神様みたいに聞こえるけど」


「ふふ、神か。あいにくと、そこまで万能ではない。むしろ、もっと単純だ。花が咲かないようであれば、陽を遮る木々を焼き払う。落ち葉が舞わないようであれば、氷河を砕いて森に撒く。魔王はそういう風に、調和を維持する」


「ず、ずいぶん乱暴だな……」


「そうだ。だから、神などではないのさ。そして、お前たち人間を大陸の端に押しとどめたのも、その目的のためだ。お前たちはその力を持って、自然の調和を跡形もなく破壊してしまう存在だから」


俺はぞくりと震えた。ロウランは「そんなことない」とばかりに不満げだが、あっちの世界からやってきた俺には、ペトラの言っている意味が分かる。地球中に人類が広がった結果、自然環境が深刻なダメージを受けたことを、俺は知っているから。


「それなら……人類を滅ぼそうとは、思わなかったのか?」


俺は恐る恐る訊ねる。すると幸いなことに、ペトラは首を横に振った。


「それはしない。お前たちもまた、自然の一部だ。それを消してしまえば、調和を乱すことになる」


ほっ。でもそうか、そういう理由があったんだな。魔王が、人類に積極的な攻撃をせず、自治を認めてきた理由。

それが良いのか悪いのかは、俺には分からない。けど、人類の多くは、それを悪だと考えた。そして、新たに得た力が……


「それじゃあ、勇者は……」


「ああ。お前たちは、魔王を殺した。それはすなわち、調和の裁定者を失ったことを意味する」


「え……じゃあ、それって」


ペトラは、小さくうなずいた。


「調和は失われる。自然は、緩やかに崩壊していくだろう」



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ