23-1 闇の底
23-1 闇の底
「……生きてるか」
「うーん、死んでるの」
「そうか……ならなによりだ」
そんな意味の分からない会話をして、俺と、それからロウランは、くすっと笑った。とりあえず、お互い無事だってわけだ。俺はあたりを見回す。
「ここは、どこだろ?」
「わかんない。落っこちてきたってことだけは、わかるけど」
そうだな。あの最中で、分かったことと言えばその程度だ。
俺たちは、真っ暗で埃っぽい、地下室のような場所にいた。つっても、ここが本当に地下なのかは分からない。がれきといっしょに、深く、深く落下して、その果てに辿り着いた場所だ。まさか、そのまま地獄まで落ちてきた、なんてことないだろうな?
「よく無事ですんだな……ロウラン、お前のしわざか?」
「むぅー。しわざってなに、しわざって。アタシのおかげでしょ?」
ロウランはむうっと頬を膨らませた。彼女の周りには、ばねのような形にした合金と、ぐるぐる丸まって玉になっている包帯が、無数に散らばっていた。あれを体中に張り巡らさせて、衝撃を和らげたらしい。そういえば確かに、ここに落ちるまでに何度もバウンドしたような気もする。よくとっさにこんな方法を思いついたな。
「助かったよ。ありがとう、ロウラン」
「ふえ。珍しい、ほんとに褒めてくれるなんて」
「命を救われた時くらい、俺だって素直になるさ……」
正直、もうダメかと思った。おちゃらけてはいるが、ロウランだって怖い思いをしたはずだ。本当の彼女は、繊細で臆病だから。
「でも、ここにいるのは俺たちだけか……みんなが心配だな」
「うん……ごめんね。ダーリンを守るので精いっぱいだったの」
「いや、それを言うなら俺もだ。正直、周りを気にしてる余裕はなかったよ。情けないよな……よし、ちょっと待ってくれ。みんなの気配を探してみる」
俺は目を閉じて、意識を集中した。ロウランが固唾をのんで見守る。他の雑多なアンデッドならともかく、長く一緒にいた仲間たちの魂を見紛うことはない。みんなが無事なら、きっと魂の気配を感じられるはずだ。
「……いたぞ!みんな無事だ」
「ほんと!よかった……」
「あっちはあっちで、うまいことやったみたいだ。場所も、こっからそう遠くないよ」
気配を辿るに、仲間たちは二組に分かれているらしい。
「これは……アルルカとフラン。ウィルとライラが、一緒にいるみたいだ。合流にも、それほど時間は掛からないはずだ」
「そうなんだ。なら、よかった……けど」
「ああ……それで万事解決とは、ならないけどな」
みんなが無事なのは、いうなれば、スタートラインに無事に立つことができたというだけに過ぎない。
「魔王を……セカンドを、どうにかして倒さねえと」
口ではそう言ったものの、俺の言葉に勢いはなかった。つられて、ロウランも肩を落とす。
「まさか、あのサードって人の正体が、セカンドだったなんてね」
「ああ……正確には、セカンドがサードのふりをしていたんだな。くそっ!あいつが怪しいって分かってたのに!もっと注意しておけば……」
「ダーリン、仕方ないよ。誰だってあの状況で、後ろから襲われるだなんて思わないもん。それに……」
ロウランは言葉尻を濁したが、俺はじっと彼女を見つめて、続きを促した。今はただ、事実を粛々と受け入れるしかない。
「……すっごく、強かった。アタシ、金も、包帯も、少しも動かせなかった。もし床が砕けてなかったら。きっとアタシ、ダーリンを守れなかったの……」
ロウランの瞳が潤む。髪の色がさぁっと変わり、緑とピンクが行ったり来たりした。いかん、また例の“故障”の兆候だ。俺は急いで、ロウランの手を握った。
「ロウラン、お前のせいじゃない。油断した俺がいけなかったんだ。それに、指一本動かせなかったのは、俺も同じだし。あん中で動けたのは、フランくらいだよ」
「うん……フランちゃん、だいじょうぶかな。腕が……」
「……今は、よそう。とりあえず、本人は無事なんだし」
そう、無事なはず……それでも、黒い消し炭と化していくフランの腕は、俺の脳裏に焼き付いていた。それに、尊が……
「……」
「ダーリン……」
「……いや。いまは、とにかく前に進もう」
「……だいじょうぶ?」
「……正直、かなりきつい。けど、前に進まないと、そのまま倒れて動けなくなっちまいそうなんだ」
「……わかったの。じゃあ、まずはどうする?」
「ひとまず、このへんを調べてみようぜ。ここがどこかも分からないと、上に戻るにも戻れないし」
「ダーリン、大丈夫なの?歩けそう?」
「あったり前だ。この通り、ピンピンだよ」
ロウランは無言で体を寄せ、背中を支えてきた。……やせ我慢だっていうの、バレバレのようだ。
俺はロウランに支えられながら、探索を開始した。アニの青白い光に照らし出されるのは、ほこりをかぶって真っ白になったがれきと、そうでない黒いがれきのどちらかだ。そうでないやつは、さっき崩れた床の一部だろう。これだけほこりが積もっているから、よく使われる部屋とかではないらしい。上を見上げても、光は見えない。まっすぐ落ちてきたなら出口が見えるはずだから、曲がりくねって落っこちたみたいだ。
「がれき、がれき。それ以外は何にもないの」
「ああ。廃材置き場かなにか、なのかな」
「うーん。それよりもっとストレートに、ごみ置き場ってカンジなの」
「ごみ、ねえ。それにしちゃ、物が少なすぎる気もするけどな」
「確かに、吹き溜まりという意味では、間違ってはいない」
俺とロウランは、飛び上がるほど驚いた。前方から、声が聞こえてくる。俺は緊張しながら、そいつに呼びかける。
「だ、誰だ!」
「ふむ。一度見知った相手に再度自己紹介するときは、なんと言うべきかな」
はぁ?なんだ、この人を食ったような返事は……俺はアニの明かりを、その声のした方へと向けた。浮かび上がったのは、黒い服を纏った女の姿だ……あっ!こいつって!
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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