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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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魔王。今はこの呼び方も、正しいもんか怪しいところだ。サードの話では、魔王の正体はセカンド。正体が人間であるという点は、もうほぼ間違いないだろう。魔王軍との戦争の最後が、人間同士の戦いとは、なんとも皮肉な話だ。


「魔王……もし本当にセカンドだったら、いったいどんな能力を持っているんでしょうか。仮にも勇者なら、きっと強いはずですよね?」


「そうだな……この際だ、できることは何でもしておくか」


「桜下さん、何を?」


「少し、話を聞いてみようぜ」


そうなると、やっぱり行くのは、隊長殿のところか。俺たちはエドガーを探しに行った。




エドガーたちは、将校らと集まって、最後の作戦会議をするところだったようだ。なにせ、次は魔王との戦闘だものな。兵士たちも最後の休憩を取って、英気を養っている。会議までまだ少し時間があるそうなので、俺たちはその間に話を聞くことができた。


「エドガー。とりあえず、喜んでいいんだよな?あと一枚だって」


「うむ。喜ぶにはまだ早いが、あと一枚というのは正しいだろう。いよいよだ」


「で、どう見てるんだ?魔王は、セカンドなのか、それ以外なのか」


「ぬぅーん……難しいところだが」


エドガーは腕をがしっと組む。


「私たちとしても、全面的にあの男……サードの言うことを信じているわけではない。だが、標識を無視して崖に落ちるのも愚かだろうが。敵はセカンドと想定して、作戦を組むつもりだ」


「……あいつのこと、信用できるのか?」


俺が声のトーンを落として訊ねると、エドガーは太い眉毛をぴくりと動かした。だが、すぐに首を横に振る。


「言っただろう、全てを信用しているわけではない。だが現状。疑わしい点より、信じられる点の方が多いのだ。実はヘイズが、あやつを尋問したのだよ」


「え、そいつは知らなかったな……で?結果は」


「うむ。主にサードにまつわる質問をしたが、全て完璧な答えが返ってきたそうだぞ」


「さすがに、だよな……ちなみに、どんなことを訊いたんだ?」


「なんだったか、歴史というか、時系列の質問が中心だったな。サード個人にまつわることもいくつかあった。あいつがどんな性格だったかとか、どんな能力を持っていたかとか」


性格、ねえ。俺が俺自身の性格を答えろって言われても、困ってしまいそうだが。


「で、それにも完全正答?」


「うむ。サードは強い勇者ではなかったが、その点も包み隠さず打ち明けていたぞ」


ははぁ。いさぎよいというか、なんというか。俺もあいつらくらいの歳になれば、自分が弱いことも真正面から受け止められるのかな?今は……まだ無理だな。


「だが、万が一があるかもしれん。情報を訊き出した後は、あやつには退場してもらう手はずだ」


「え?……おい、まさか……」


「ふん。安心せい、言葉通りの意味だ。戦場から離れて、後方に引っ込んでもらうだけよ。戦いが終わるまで、そこで大人しくしてもらう」


ほっ。確かに、その方が安心だ。念には念をだろう。


「そうか。じゃあ、もし魔王セカンドだったとして、そうじゃなかったにしても、どうするつもりなんだ?具体的な作戦は?」


「それをこれから決めるところだ。が、少々難航しそうだな……なにせ奴は、千の技を持つとまで言われた男だ」


「千の、技?」


「ああ。チッ!思い出すだけでも薄気味悪いわ」


エドガーは悪態をつきながらも、昔のことを話してくれた。


「あやつは、とにかく様々な技能を持っていた。戦闘においても、魔術においても、それ以外にも色々な。だから対策を立てようにも、数が多すぎるのだ」


「うへ……そんなに器用な奴だったのか?」


「結果だけを見ればそうなるが、私の個人的な意見としては、違ったな。奴は魔力こそ強かったが、その割には不自然なほど弱かった」


「え?弱い?ちょっと待てよ、だってあいつは」


「歴代最強最悪の勇者。分かっているさ。だが、最初は違ったんだ。大樹もはじめは、小さな種だろう」


エドガーはふぅとため息をつく。しかし、本当か?俺の聞いてきたセカンド像と、ずいぶん印象が違うが……あ、でもキサカも言っていたっけ?最初のころは、セカンドも普通の少年に見えたって。その後に最悪の勇者と呼ばれることになるとは、夢にも思わなかったって……


「とにかく、あやつはそんな男だった。何をするにしてもびくびくと怯えていてな。そのせいか、魔法もうまく使えんかった。本来なら突風を起こすはずが、そよ風ほどの威力しか出んかったりな」


その場面を想像したのか、ライラがくすくす笑った。エドガーもにやりと笑う。確かにそこだけ聞くと普通の、いや、むしろ少し気弱な男の子だ。


「王都で集めた仲間も、屈強な連中ばかりだったよ。よほど旅に自信がなかったんだろう。女王陛下も心配しておられた。これは長続きせんのではと、誰もが思っていたが……」


屈強な仲間、か。アンブレラの宿の店主、ジルも、かつてはセカンドのパーティーに所属していた。彼がスカウトされたのも、こん時か?


「だが、奇妙なことが起こり始めた。奴は城に戻ってくるたびに、様々な力を身に付けていったのだ」


「へ?それはつまり、厳しい旅の果て、新たな技を習得し……ってやつ?」


「まあ、私たちも最初はそう思っていたのだが……」


するとエドガーは、手で何かを弾くような仕草をした。


「ある時、城に帰ってきた奴は、陛下の前で吟遊詩人(バード)顔負けの音色でハープを奏でて見せた」


「楽器をってことだよな?でも、別にあり得る話じゃ……?」


「うむ。腕前は見事だったが、それ自体は普通だった。誰もが思っただろう、この勇者はどこをほっつき歩いて、楽器なぞを習得したのだろうと。陛下も落胆を隠せない様子だったな。半ば冗談交じりに、ハープには歌が付きものだろう、どうせなら歌も練習したらどうだとおっしゃった」


「皮肉だなぁ……それで?」


「そして次に帰って来た時、奴はオペラ歌手顔負けの美声で歌をうたったのだ」


ううん……?女王の皮肉を真に受けたのか?エドガーは続ける。


「実に見事な歌声だった。私が知る限り、セカンドは一度も歌を披露したことなど無かったのだが。そして、その習得にかかった日数は、たった三日だった」


「え?み、三日?」


「そうだ。どこかにふらりと消えたかと思ったら、戻って来た時にはそうなっていた。そしてそれ以降、同じようなことが度々起こるようになった。主に、セカンドに対して欠点や弱所の指摘をした直後にな」


「なんだ、そりゃ……」


さすがに異常だ。文句を言われるたびに、ふらりとどこかに消え、帰ってきたらそれを克服している……陰で努力をした結果だとは、とても思えない。


「なんで、そんなことができたの」


フランが固い声で訊ねると、エドガーは目をつぶって首を横に振った。


「わからん。何度問いただしても、はぐらかすばかりでな」


「それで、追及しなかったの?」


「あの時点では、誰も奴の本性には気付かなんだ。奇妙ではあったが、能力を得ることは望ましいとさえ考えていた者がほとんどだった。頼りなかった勇者が、目に見えて力を付け始めたのだからな」


弱くなるわけでもないのだし、口うるさく言う必要はなかったのか。その当時は、だが。


「今になってみれば、悔やまれる。あの時無理にでも吐かせておけばと考えもするが……詮無きことだ。とにかく、私達の持ちうる限りの知識を動員して、奴への対策を練るつもりだ。当然、おぬしらにも期待していいのだろうな?」


エドガーの試すような視線を、フランはふんと鼻を鳴らして受け流した。俺もうなずく。


「もうここまで来たら、第三勢力とかは言いっこなしだ。あんたらの作戦に従うよ」


「ほう?ずいぶんと殊勝じゃないか」


「じゃなくて、さすがに俺たちだけじゃ手に負えないだろ。おたくらの手も借りないとな」


次の戦いは、今までの敵とはわけが違う……俺たちが一丸とならないと、太刀打ちできない。そんな予感がするんだ。エドガーも同じ考えなのか、神妙な顔でうなずいた。


「そうだな。国も、身分も、能力も関係ない。皆が力を尽くすのだ。今度こそ、人類が勝利するためにな。頼んだぞ、桜下」


そう言って、右手を差し出してくる。俺は鼻の頭をこすったあと、その手を握った。


「おう。負けるよりは、勝つ方が気分いいからな」


俺の捻くれた答えに、エドガーはがくっと肩を落とし、ウィルは口元を押さえて笑った。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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