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5-3

5-3


「ソウル・カノンッ!」


俺が唱えると同時に、霊波はまっすぐ飛んでいき、亡霊騎士に直撃した。鎧はバラバラになり、あたりに壮絶な音を立てて転がる。ガランガランガラーン!


「……や、やったか?」


俺はドキドキしながらこの言葉を口にした。これをいう時は、大抵相手がむくりと起き上がってくる時だが……鎧はばらばらになったまま、動く気配を見せなかった。


『どうやら、うまくいったようですね』


アニがチリンと軽快に鈴を鳴らす。


「だ、だな……ふひゃあ、びびったぁ。あいつ、完全に“コレ”に気づいてたぜ。あと一秒でも遅かったら、真っ二つにされてたかもな」


『その割には、笑っていたじゃないですか』


「いやぁ、なんかさすがだなって思ったら笑えてきちゃって。まさかソウル・カノンにすら反応するなんて」


俺はバラバラになった鎧を改めて見つめた。とんでもない奴だぜ、まったく。


『しかし、その相手すらをなぎ倒す威力……この技がここまで強力だとは。正直、まったく想定外でした』


「ほんとにな。俺もウィルの話を聞いてまさかと思ったよ。けど、確かにヒントはあったんだよな」


『そうですね。この技は、通常の生物や物体には何ら影響を及ぼさない。けれども唯一、アンデッドに対してだけは有効になり得る……私が自分で言ったことが、結局は真実だったということですか』


「まあけど、誤解もするよな。俺が試したときは木を揺らしただけだったし、ホーントたちに撃った時も結局はカーテンがそよぐだけだった」


『いえ、見落としていました。特殊な属性とはいえ、魔力の塊を打ち出してその程度の威力しか出ないということは、それだけ(やみ)の魔力の特徴が強く出ていた、つまりは魔力の純度がそれだけ濃かったということです。裏を返せば、そのぶんアンデッドに対しては絶大な威力になりうる』


「みたいだな。けど、全然気づかなかったぜ。ウィルとフランが感じた衝撃波の話を聞いて、ようやく納得できたくらいだし」


『あれは、ソウル・カノンの余波だった、ということなんですね』


「と思うよ。近くで撃っただけで吹き飛びそうになるなんて、とんでもないパワーだよ。最初の試し撃ちの時、十分に離れてもらって正解だった。きっとホーントたちが突然いなくなったのも、衝撃波に吹っ飛ばされたからなんだろうな。直撃してたら、それこそ粉々になって消滅してたかもしれない」


これが俺の新技、ソウル・カノンの正体だ。その実態は、アンデッド特攻兵器。アンデッド以外には無力に等しいが、対アンデッドにおいてこれほど強力な攻撃はないだろう。


「なんていうか、とことんネクロマンサーだよなぁ、俺」


『まあ、その通りですね。嫌でしたか?』


「そうでもないさ。少なくとも、今はこの力があってよかったよ。おかげで、目的を果たせそうだ」


暴走する幽霊騎士を止めることはできた。だけど鎧をばらしてはいおしまいじゃ、あまりに救いがないだろ。そしてそこに希望を与えてくれるのも、ほかでもないネクロマンスの力だ。


「……あの、終わりました?もう出て行っても大丈夫ですよね?」


お?うわっ。俺の足元の床から、人の頭が生えてきたっ!


「あ、お、おう、ウィル。無事完了だぜ」


と思ったら、それは隠れていてもらっていたウィルだった。もしもの時に備えて、待機してもらっていたんだった。


「……桜下さん、忘れてましたね?」


「ばっ、な、なにをだ?それより、フランはどこ行った?」


「ここにいる」


うおっ!フランは俺のすぐ後ろにいた。


「び、びっくりさせんなよお前ら。まあけど、うまくいったぜ。二人の手を借りずに済んだな」


「まったく、一対一で勝負したいなんて言い出した時は正気を疑いましたよ。無事に済んでよかったです」


「そっちのほうがやつも油断してくれるかと思ってさ。もしソウル・カノンが効かなかったら、そん時は全力で助けてもらうつもりだったし」


「まあでも、効果バツグンでしたね……下に隠れてても、思わず踏ん張っちゃいました。そのエラゼムさんは、もう消えてしまったのですか?」


「いや、威力を調整したから、魂まで消し飛んではいないはずだ。これから、話をしようと思ってる」


俺はバラバラになった鎧の、胴体の部分に近づいて行った。ここから一番強く魂を感じる。


「よお。エラゼムさん、目はさめてるか?」


「……アマリ、気持チノイイ目覚メデハナイナ」


やっぱり、胴体から声が返ってきた。こうしてみると、少し気味悪いけどな。手足もなくなって、ただの鉄の塊から声がするなんて。


「吾輩モ焼キガ回ッタカ。コンナゴミ虫フゼイニ、シテヤラレルトハ」


「まあ、相手が悪かったな。俺はあんたらみたいなのにだけは強いんだ」


「フン。シカシ、ココガ年貢ノ納メ時ナノデアロウ。サア、吾輩ヲ消スガイイ」


「消す?」


「浄化セヨト言ッテイルノダ。モシモ吾輩ヲ配下ニシヨウト考エテイルノナラ、ヤメテオケ。モシ再ビ手足ヲツケテミロ、次コソ必ズ、ソノ首落トシテクレル」


「あ~……いつでも俺を殺せるっていうなら、別に今消えなくてもいいんじゃないか?」


「タトエ一時デモ、貴様ラノヨウナゴミ虫ノ仲間ニナルナド、ゴメンダ」


ちっちっち、聞く耳なしだな。だけど、フランのときを思えば、会話ができるだけまだましだ。このくらいでへこたれる俺ではない。


「けどよ、エラゼムさん。俺の言うことは聞きたくないかもしれないが、あんたの知り合いの頼みは聞いてやってもいいんじゃないか?」


「ナニ?」


「あんたには、もう見えなくなっちまってるかもしれないけどさ。あんたのことをずーっと心配して、何年もここに縛られてる人がいるんだ。その人の頼みなんだよ。もうこんなことはやめてくれってさ」


「……マサカ。ナニヲ、言ッテイル?」


「さっきも言ったろ、わからないか。あの人は、自分をここの城主代理だって言ってたぜ。名前を、バークレイ・ルエーガー。ここの城主さまの弟さんだ」


「バークレイ様ガ……?」


「そうだ。あの人はあんたが恐ろしい怨霊になっていくのを見て、ずっと心を痛めていたんだ。もう、こんなことはやめろよ。あんたが捕らえてる人たちのこと、自由にしてやったらどうだ?」


「……」


エラゼムはふっつりと黙り込んでしまった。彼の主だったバークレイの言葉なら、エラゼムの空っぽの鎧にも響いてくれるだろうか。


「……戯言ヲ、ヌカスナ」


なに?ちっ、これだけ言ってもダメか。


「嘘じゃない。ほんとにあんたの主から……」


「知ッタ風ナ(くち)ヲ、キクナト言ッテイル!」


うわっ!いきなりエラゼムの鎧から、どす黒い瘴気が炎のように噴き出した!噴き出した瘴気は渦を巻き、まるで黒い手足が鎧から生えたみたいだ。まさかこれ、今まで捕らえられていた人たちの魂か?


「桜下さん、危ないです!」


ウィルが叫ぶ。フランが爪を抜いて駆けだそうとしたが、俺はそれを手で制した。


「待ってくれ!まだ話は終わってない!」


「っ!まだそんなこと言ってるの!早くこの化け物を潰さないと!」


「今を逃したら、こいつを一生救えなくなる!頼む、もう少し待ってくれ!」


フランは唇をかんでなおも反論しようとしたが、そのとき、黒い瘴気に包まれたエラゼムが怒鳴り散らすように叫んだ。


「知ッタ(くち)ヲ!貴様ニ何ガワカル!我ガ幾年ノ恨ミヲ、誰ガ理解デキヨウカ!」


「ああ、んなもん俺にはわからない!けどな、恨みとか憎しみとか、そんなもの一人で抱えてたってどうにもならないんだよ!そういうもんは、人に打ち明けて初めて癒されるものなんだ!」


「黙レッ!貴様ゴトキガッ!貴様ゴトキガ、吾輩ヲ理解シヨウナドトッ!」


黒い瘴気が俺を包むように迫ってくる。ウィルが悲鳴を上げた。


「桜下さん!」


「大丈夫だ!俺に任せてくれ!」


俺は叫ぶと、ぎゅっと右手のこぶしを握り締めた。


「来い、エラゼム!俺がお前を受け止めてやる!」


意を決して、瘴気の中に飛び込んだ!ものすごい数の声が、耳元で叫んでいる。男、女、大人、子供。いくつもの声が、何かを訴えている。だが悪いな、今はあんたたちにかまっていられない。もっと大きい、親玉を叩かなきゃな。俺は呪文を唱えた。


「我が手に掲げしは、魂の灯火(カロン)!」


ヴン。俺の右手が輪郭を失う。


「汝の悔恨を我が命運に託せ。対価は我が魂!」


手をまっすぐ伸ばす。瘴気の渦を突っ切り、陽炎となった右手が、エラゼムの鎧の中心―――すなわち、魂の位置に重なった。


「響け!ディストーション・ハンド!」


ブワー!俺の右手が、魂までもが震え、エラゼムの魂と共鳴する。それだけじゃない、あたりに漂う、無数の魂とも響きあっている。憎しみと悲しみに閉じ込められていたこの城が、ようやく息を吹き返したようだ……


(……っ?なんだ、これ?)


共鳴する魂から、なにかイメージが伝わってくる。俺の頭の中に、見たこともない風景が浮かんでは消えていく……


(これは……)


誰かの……この城の、記憶……?




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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