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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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ライラとアルルカの呼び出した二体の魔獣、ガーゴイルと巨大カマキリは、敵のみならず、この場にいる全員の目をくぎ付けにしていた。二体の怪物が走り、跳び、倒れるたびに、弱い地震のような揺れが起こる。

目玉のような魔導砲台は、二体の周りを高速で飛び回り、その爪や鎌を避けつつ、何発ものビームを撃ち込んだ。その度に、二体の体は着実に削れていく。


「やっぱり、あれだけじゃ倒せない……」


ライラは両手を地面についたまま、苦しそうに顔をゆがめている。小さなおでこを、玉の汗が滴り落ちている。アルルカも杖を両手で握りしめたまま、苦々し気にこぼした。


「あともって三分ね……それで仕込みが済めばいいけど」


三分……もう猶予はほとんど残っていないな。ウィルが無事に辿り着き、スクロールを炸裂させたなら、離れていても絶対に分かるはずだ。爆発するのか燃え上がるのか分からないけれど、それだけの威力の魔法を見逃すはずがない。

が、いまだヘルズニルは沈黙に包まれている。火柱も、煙も上がっていない。


「まだか、ウィル……うおっと!」


砲台の一機がこちらを向き、ビームを撃ってきた!


「メンタップ・リフレクト!」


ロウランが素早く両手を突き出す。すると、彼女の全身から合金が噴き出し、金色の盾を生成した。ビームは盾に当たって跳ね返り、別の砲台にぶち当たった。


「どう!?仲間の攻撃なら、流石に効くんじゃない!」


おお、敵のビームを逆に利用したのか!ビームに撃ち抜かれた砲台は、煙を上げながら、ふらふらと落っこちてきた。


「うまいぞロウラン!」


「待って!」


え?突然、フランが駆け込んでくる。


「様子がおかしい!伏せて!」


なに!?俺が慌てて身を投げ出すのと、砲台が地面に触れるのは、ほぼ同時だった。

ドガァーーン!


「うわ!自爆しやがった!あちちちち!」


撃墜された砲台が、最後の悪あがきに爆発したのだ。凄まじい熱波で皮膚が焼けてしまいそうだ。ロウランが盾で守ってくれなかったら、今頃黒焦げだろう。


「なんだあいつ、さっきは爆発なんてしなかっただろ!?」


「ひょっとして……あの目玉、進化してるんじゃ」


「し、進化だと?」


「最初の一機は、あんな風に高速で飛行することもなかった。ただまっすぐ飛んできて、ビームを撃つだけ。でも今は、明らかに組織立った動きをしてるし、自爆機能まで備えてる」


なんだって?だがフランの言う通り、砲台の動きは、初めと比べて洗練されている。まさか……あの砲台たちは、経験を共有しているのか?あれを統括している基地でデータを収集し、砲台たちの機能を常にアップデートしているのだとしたら……


「だとしたら……戦えば戦うほど、あいつらは強くなるじゃないか……!」


俺たちがあの手この手で砲台を撃墜しても、残りの砲台たちが、それを学習していく。そして次は、同じ手を食わないように対策を施してくる。それを繰り返していけば、じきに俺たちは手詰まりになる!


「ちいぃ!頼むウィル、急いでくれ!」


俺は祈る思いだったが、城からはまだ何の合図も出ない。くうぅ!


「うあっ!」


なんだ!?ライラが突然叫び声をあげ、後ろに吹っ飛んだ。俺は慌てて彼女を支える。


「ライラ、どうした!」


「ごめん、桜下……やられちゃった」


なに?その時、断末魔の音を立てながら、岩石カマキリが崩れ落ちた。残された氷のガーゴイルに、浮遊砲台の集中砲火が浴びせかけられる。ガーゴイルの首がばっきりと砕けて、地面に倒れて動かなくなってしまった。ああ、ついにあの二体まで……


「はぁ、はぁ……時間、ぎれよ。あのグズ、なにやってんのよ!」


肩で息をし、悪態をつくアルルカ。やっと邪魔な怪物を処理した砲台たちは、今度は、それを呼び出した魔術師を排除することに決めたらしい。なん十機もの砲台が、一斉にこっちを向いた。


「やっ……べえぞ、こりゃ」


「ダーリン!みんな、アタシの後ろに!」


ロウランが構えた盾に、漆黒のビームがぶつかる。しかし、相手の数が多すぎる!いくらロウランでも、三百六十度、全方位を完璧に守ることは……


「うおお!抜けてきたぞ!」


二機の砲台が、盾を回り込んできた!フランが最後のスピアを投げつけると、一機はそれの迎撃のために動きを止めた。だが、もう一機はどうしようもない!ビームが放たれる!


「キャメル・キャメロット!」


やられた!今に目の前が爆発し、俺たちは吹き飛ばされ……ない。爆発は起きないし、俺たちも無傷だ。ど、どうなっているんだ?


「よ、よかったぁ。間に合ったね」


「え……み、(みこと)!」


尊が両手を地面について、顔だけを俺たちの方へ振り向かせていた。その前には、巨大な砂の防壁が見える。


「尊の魔法で、防いでくれたのか?」


「うん、ギリギリだったけどね」


た、助かった!尊が立ち上がってはにかむと、俺は思わずその手を握った。


「ありがとう、尊!」


「あはは、そんな大したことじゃないよぉ」


と、その時、地面の下からするりと、白い腕が生えてきた。


「うわっ!って、ウィルか……ウィル!?」


土の中から現れたのは、なんとウィルだった。驚いた、帰りも地面の下を通ってきたのか。いやそれより、彼女が戻ってきたということは。


「ウィル、うまくいったのか!?」


「……ええ。まあ、いちおうは」


ん?なんだろう、ウィルの顔が固い。彼女の視線を辿ると、俺が掴んだ尊の手に注がれている。わっちゃっちゃ、まずい。妙なタイミングで、妙なものを見られてしまった。ぱっと尊の手を放すと、俺は急いで訊ねた。


「で、ウィル。うまくいったって、まだ何にも起こってないけど……?」


「えっと、はい。みなさん、いちおう念のため、姿勢を低くしてもらえますか?」


え?よく分からないけど、とりあえず屈んで、言われた通りにした。ウィルはヘルズニルを見つめながら、小さな声で数を数えている。


「もうすぐです。あと十秒……五秒……」


ごくり。俺は固唾を飲んで城を見る。ヘルズニルには、今のところ変わった様子はない。本当に大丈夫なのか?もしこれが失敗したら……いや。ウィルを信じよう!


「三、二ぃ……いちっ!」


……。

なにも、起こらない。まさか……失敗……

ん。いや、まて。何かが、おかしい。


「なんだ、この音……?」


それは初め、小さな地鳴りのようだった。それが次第に、太鼓を叩くような、大きな音に代わっていく。ズーン……ドーン。ドドーン!


ズガガガーン!


「うおぉ!」


「きゃあ!」


尊がびっくりして、尻もちをついている。突然ヘルズニルの塔の一つから、オレンジ色の閃光が放たれたのだ。それを皮切りにして、爆発音が次々と、連鎖のように轟いていく。ドドン、ドガーン、ドドドオーン!


「こ、これは……」


壁が吹っ飛び、窓が粉々に砕け散る。爆発は塔の根元から、上へ上へと伸びていく。嵐のような絨毯爆撃に耐えかねた塔は、不吉にぐらりと傾いた。そして……

ガラガラガラ……グワッシャァーン!


「塔が……」


「倒れちゃった……」


俺も尊も、ぽかんと口を開けることしかできない。さっきまで天を衝くようだった塔が、今や跡形もない。


「ウィル……一体、何をしたんだ……?」


「スクロール同士を、連鎖反応するように仕掛けてきたんです。一つ一つは大した威力ではないんですが、連続させることで、威力を高めることができるんですよ。共振効果って言って、魔力の固定指数座標におけるQ点を……」


「い、いや。原理の説明はいいんだけど。それにしても、か、数が多すぎないか?城ごと吹き飛んじまいそうだぞ……」


「あ、そっちですか。あはは、さすがにそこまでの威力はありませんよ。実を言うと、あまりにも時間が無くて、私、あの砲台の基地を見つけられなかったんです。なので、怪しい所全部に置いてきちゃいました」


「お、置いてきちゃったの……」


ウィルは照れ臭そうにはにかんでいる。その彼女を透かして、ヘルズニルの塔の残骸が、恨めしそうに土煙を上げているのが見えた。お、恐ろしい……ウィルに攻撃力がないって言ったの、どこの誰だ?彼女に対する根本的な認識を、改めたほうがいいかもしれない……



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


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