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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
16章 奪われた姫君
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金髪の少年が、市場のとある店先をしげしげと見つめている。クラークのやつ、何やってんだ?あいつも買い物かな。


「ちょうどいいや。この前聞いた話も含めて、ちょっとちょっかい掛けてやろうぜ」


「桜下さんったら……」


ウィルが呆れた顔をしているが、それには気付かないふりをして、やつに声を掛ける。


「何やってんだ?ウィンドウショッピングか」


「ん?……ああ、君たちか」


クラークが顔を上げた。俺はやつが見ていた品に目を落とす。店先に並べられた長机には白い布が被せられ、その上にガラス細工のアクセサリーが並べられていた。


「アクセサリー?お前、こういうのが好きなのか?」


「いや、僕じゃなくて……」


クラークは歯切れ悪く、もごもごと言い訳している。アクセサリーはどれも精巧で、素人目に見てもいい物のようだ。特に目立つように置かれた、宝石に似せた飾りがついたブローチは、他よりも頭一つ抜けて美しい。


(ん?)


なんだかこんなものを、前にも見たような……あ、あれだ。この前のウィルとのデートの時に覗いた、質屋に並べられていたやつ。


(ひょっとして、これとあれを作ったのは、同じ職人か?)


宝石のような意匠は、ウィルのロッドともよく似ている。もしかすると……俺はこの店の主人に声を掛けてみた。


「あの、すみません。ちょっと訊きたいんだけど」


「うん?なんだ?」


太った主人は、店の奥でガラス細工を布きれで磨いていた。主人は俺を上から下まで眺めると、胡散臭そうな顔になる。


「うちの商品は、鼻たれ小僧なんかに買える値段じゃないぞ。冷やかしなら、行った行った」


は、鼻たれ……まあとても手が出せないのは事実だが、そうじゃなくて。


「あの、ここにあるアクセサリーを作った人って、どんな人なんだ?」


「ああ?どんな人だぁ?」


主人は面倒くさそうにこちらをチラっと見ると、すぐに磨く作業に戻ってしまう。


「知らないよ。俺が仕入れるのは中間業者からだからな。職人には直接会ったことも、話したこともない。さあ、商売の邪魔だ!さっさと行ってくれ!」


ちぇ、空振りか。仕方ない、店を離れよう。俺がすごすごと退散すると、なぜかクラークも一緒になってついて来た。


「あん?なんでついて来んだよ」


「君のせいだろ!なんで僕まで追い払われなくちゃならないんだ!」


ああ、そうだったっけ?職人に気をとられて、こいつのことすっかり忘れてた。


「ハハハ、ごめんごめん……」


「まったく……まあ、構わないけどね。あそこの品揃えは、たぶんコルルも気に入らないと思ってたところだから」


「コルル?ああ、あいつに贈るものを選んでたのか」


なるほど、かわいい恋人へのお土産だったんだな。俺がニヤニヤすると、クラークは慌てて誤魔化そうとする。


「べ、別に、大した意味じゃないんだ。ただ、日ごろの感謝とかもかねて……」


「そうかそうか。なんなら、俺らからもなんか贈った方がいいか?」


「は?君たちが?」


「そう。出産祝い」


「んッ!?」


クラークの顔には「何で知っているんだ!?」とありありと浮かんでいた。


「まさか、君たち……」


「知ってるよ。俺たち全員」


みんな一斉にうなずいたのを見て、クラークは顔を青くし、その後すぐに赤くなった。カメレオンみたいなやつだな。


「なんだよ、別に悪いニュースじゃないだろ?それとも、知られるとまずいことでもしたのか」


「そんなわけないだろ!はぁ……僕だって、隠したいわけじゃないさ。けどその、なんていうか……心の準備がまだというか……」


ふーん。ま、分からんでもないか。俺がもし逆の立場だったとして、クラークにそのことを知られたら、ちょっとは恥ずかしいだろうし。


「ま、気持ちは分かるな」


「そ、そうだろう!?実はまだ、きちんとした実感も湧かないんだ。バタバタしているうちに、戦争に行くことになってしまったし……」


「あー、そうだったのか。そいつはお気の毒に……」


肩を落としたクラークに、多少は同情する。コルルも大変だな。初めての妊娠で、夫が魔王との戦争に出向くことになるとは。ストレスがお腹の子に影響しなきゃいいが。


「あれ?そういやお前、コルルとは結婚したのか?」


ナチュラルに夫婦だと思ってしまったけど、まだそこを聞いていなかった。するとクラークは、やるせなさそうに首を振った。


「実は、それもまだなんだ。もちろん、今後は籍を入れるつもりだよ。コルルにもそう伝えてある。本当は今頃、親御さんに挨拶に行ったり、新居を探したりしていたはずなんだけど……はぁ。全部やりかけで置いてきてしまった」


あーあー。本当にいきなりのことだったんだな。ずいぶん大変な時におめでたっちまったもんだ。


「……ん?するとつまり、この戦争が終わったら結婚する、と」


「うん?ああ、そうなるね」


「……ちなみに聞いときたいんだけど、コルルの出産予定日は?」


「さあ、まだそこまでは……けど、最後に会った時は、まだそこまでお腹は大きくなっていなかったから。産まれるのは戦争が終わってからだろう。よかったよ、出産には立ち会えそうだ」


「……」


クラークはほっとしているようだったが……

この戦争が終わったら、結婚するんだ!アンド、子どもが産まれるんだ!


(こいつ、大丈夫かな?)


まあクラークは、俺の何倍も強い。心配無用だとは思うが。


「……無事に行くといいな。俺も祈ってるからな」


「ん?ああ、ありがとう……君にそう言われると、なんだか調子狂うな……」


フラグびんびんの男、クラーク。これだけあからさまだと、一周回って絶対死なない気がしてきた。そうであってもらわないと困るけど。

クラークとは、市場を出たところで分かれた。やつはもう少し残って、コルルへのお土産を見ていくそうだ。邪魔者は退散して、一人で存分にノロケてもらおう。


「あれでおとーさんかぁ。改めて見ると、ぜんぜんそんな感じじゃなかったね」


ライラのクラークに対する感想。ま、おおむね同意見だ。


「まあ、誰しもが子どもから始まるってことか」


「うん?子どもからって、どーいうこと?」


小首をかしげるライラ。そうだな、彼女に置き換えてみるか。


「例えばライラは、お母さんの子どもだろ?でもライラに子どもができたら、ライラはその子のお母さんになる」


「うん。そーだね」


「最初から親のやつなんていないってことさ。あいつは、これから親になってくんだよ」


クラークはこれから、父親になっていく。それはとても当たり前のことで、だけどなんだか、とても偉大なことのように思えた。俺自身がまだ子どもだから、余計にそう感じるのかもしれない。

ライラは俺の話に、考えるように上を向いた後、今度は下を向いて、それから自分のお腹を撫でた。


「……ライラ、赤ちゃんできるのかな」


んっ?おっと、そいつは……ライラの生い立ちは、かなり特殊だ。それに、そもそも半アンデッドでもある。あまり軽々しくものを言うと、彼女を傷つけてしまいかねないか。


「えっと……ライラ、子どもが欲しいのか?」


「よくわかんない。考えたこともなかったけど、おかーさんになら、なってみたいかも。ライラのおかーさんは、とっても優しかったから」


ライラの中では、まだ憧れでしかないみたいだ。それなら、わざわざ現実的なことを言って、夢を壊すこともないな。


「いいんじゃないか。きっと優しい母さんになれるよ」


「へへへ。もしそれなら、おとーさんは桜下だね」


「え?」


それも、あくまでもしもの話だよな?特に深い意味はないと思う……よな?


「……それなら、私もお父さんは桜下さんにやってもらいたいですね」


ずいっと、ウィルが肩を寄せてきた。するとそれを見たロウランも、いらん対抗意識を燃やしてくる。


「ならアタシもー!そもそも、一番初めに結婚を申し込んだのはアタシなの。アタシが先でいいよね?」


「ロウランさん、これは早い者勝ちじゃなくて、気持ちの問題ですよ!」


「気持ちだって負けないもん!」


なんだなんだ、なんでそうなるんだ。狼狽えていると、ぼすっと、背中が軽く殴られた。振り返ると、フランが何か言いたげな目で、じっと睨んでいる。


「わ。わかった。わかったから、続きは戻ってからにしてくれ!」


さっきから、行きかう人がジロジロ見ていくんだってば!



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


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