表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
16章 奪われた姫君
673/860

5-2

5-2


さて、フランの番は無事に終わった。次は幽霊シスター、ウィルの番だ。


「さて、じゃあウィル……の前に」


「はい?」


「あんな感じだったけど、どうだった?俺、ちゃんとできてたかな」


この面談を望んだのはウィルだ。俺は、彼女の期待通りにできていただろうか?


「なんだ、そんなこと気にしてたんですか?安心してください、とっても上手だと思いましたよ」


「そ、そう?」


「ええ。それどころか、ちょびっとだけ羨ましくなりました。桜下さんってやっぱり、フランさんのこと、よく見てるんだなぁって」


うぇ?流し目になった金色の瞳が、俺を見据える。じ、冗談なのか、本気なのか……


「えぇっと……」


「……ふふ。だから、私もよろしくお願いしますね」


「あ、う、うん」


ウィルは笑みを浮かべると、いつもの調子に戻った。よ、よし。なら俺も、普段通りに行こう。


「で、えーっと。まず、ウィルの強みからか」


「私の強み……やっぱり、誘導や攪乱でしょうか?それしかできないって意味でもありますけど」


「そんなこと言うなよ。それだって立派な長所だろ。でも、うーん……」


「違い、ますかね?」


「いや……長所は長所だけど、ウィルの一番はそこかって言われると……」


上手く言葉にできないな。なら、具体例を挙げてみようか?俺は直近の戦闘を思い返してみた。


「例えば……この前の、ゴブリンとの戦闘。あん時、ウィルは何か、攪乱や誘導をしたか?」


「え?えっと……あれ、そう言われると、とくにしてませんね……」


「そうだよな。その前の、サイクロプスとの戦闘でも」


「していません。確かに、桜下さんの言う通りです」


俺はこくりとうなずく。確かにウィルは、あまり戦闘が得意ではない。ただかと言って、何もしていないわけじゃない


「その二つの戦闘で、ウィルは攪乱や陽動をしなかった。なら、逆に何をしてたかな」


「えっと……ゴブリン戦では、フランさんをサポートしてました。ロッドで殴ったり、火花で脅かしたり。サイクロプスの時は、フレイムパインで動きを封じましたね」


「そうだったな。実際、あれはすごいいい活躍だったよ。戦闘の決め手にはならなかったけど、いいサポートだった」


「えへへ……それなら、私の強みはそれですか?サポートっていう」


「うーん……それも間違いじゃないけど、まだぼんやりしすぎてるな……」


一言にサポートといっても、いろんな方法がある。今の段階じゃ、ウィルも何を意識したらいいのか分からないだろう。


「うーん、難しいな……」


「うーん、難しいですね……ゴブリン戦でのことは、サポートというより、ちょっかいを掛けたって感じでしたし。ロッド殴りなんて、ほぼ無視されてましたよ」


「そうだったな。逆に火花は、結構ビビってたよな。いきなりだったから……あ。ひょっとして、それか?」


「それ?」


一つ、気が付いたかもしれない。ウィルはやきもきした顔で、こっちを見つめてくる。


「桜下さん、それってなんですか?」


「ああ。思うに、ウィルの強さの本質は……不意打ちだ」


「ふいうち?」


ウィルが目をぱちくりする。まさしく、不意打ちを喰らったようだ。


「ああ。ゴブリンの時、ロッドが全然効果がなかったのは、それが弱い攻撃だったからじゃない。だったら、あの火花だって同じなはずだろ?あれは、ロッドが丸見えだったからじゃないかな」


「丸見え……確かにこのロッドは、私と違って、誰の目にも見えるんでしたね」


ウィルが自分のロッドを見下ろす。


「なら、火花の方……フレーミングバルサムの魔法は、全く予期せぬところから出現したから、効果的だったと?」


「ああ。いくら屈強な体のモンスターといえど、何もない虚空からいきなり攻撃されたら、動揺しないなんて無理なんだ。ウィルは視認されないし、壁も床もすり抜けられる。敵の不意を突くから、攪乱も効果があるんじゃないかな」


「なるほど……あ、けど。私って、人には見えませんが、モンスターには見られることが多くないですか?魔王の軍勢にも、私の姿は見えるんじゃ……」


ふむ、確かに。フランたちアンデッドを始め、人間以外の存在には、ウィルは知覚されることが多い。


「けど、それなら真っ当に姿を隠せばいいだけだ。ウィルには、最高の隠れ蓑があるじゃないか」


「え?な、なんですか、それって」


「下。地面だよ」


俺は馬車の床を指さす。


「地面に潜れば、ほとんどのやつは気付かないだろ。壁や床もな」


「あ、そっか。つい肉体がある基準で考えちゃいますけど、私、幽霊なんですもんね」


「感知されないのもそうだけど、どこでもすり抜けられるってのも、ウィルの強さじゃないかな」


ただ突っ立っているだけの幽霊より、壁や床からにゅっと出てくる幽霊の方が怖い。それだけでも効果があるんだから、やっぱり強力な特性だ。


「そっか、不意打ちか……なるほど、納得です。ただ、そうなると……」


「ん?まだなにか、引っかかるか?」


「ええ……桜下さんの言った通り、不意打ちはそれだけで強力だと思います。ただやっぱり、あんまりにも弱い攻撃だと、不意を突いた意味がなくなっちゃうじゃないですか」


「ああー、なるほど」


つまりウィルは、より根本的な問題を見ているわけだ。


「私に足りていないのは、何よりもまず、強力な攻撃手段なんですよね……」


うーむ。普通の人間相手ならともかく、モンスターの軍勢相手だと、確かに威力不足感は否めないかもしれないな。


「でもウィルだって、いくつか強力な魔法を持ってるじゃないか。あの赤い粉とか、ハザールとの戦いで撃った火の玉とか」


「トリコデルマと、ファイアアントですか?確かに私のなかでは高火力な方ですが、ライラさんとかと比べると……ファイアアントは、詠唱に時間がかかり過ぎて、使える場面はかなり限定されてしまうでしょうし」


「そっか……でも、じゃあいきなり強い魔法を覚えろってのもな」


「はい……努力はしてみますが、魔法はどうしても、生まれ持ったものに左右されるところもありますので」


そうだった。扱える魔法の属性などは、その人の魂に由来する。魔王の大陸に着くまでの間に、電撃魔法や竜巻魔法を習得しろと言っても、土台無理だ。


「ぬーん……うーん……でもさぁ、ウィル」


「はい?」


「俺、やっぱり魔法が使えるってだけでも、十分凄いと思うんだ。それに、炎魔法つっても、ただ大爆発させるだけじゃないだろ?」


「え?ええ、まあ、そうかもですが……」


「例えばだぜ?ありったけの熱で、鉄をドロッドロに溶かして、そいつをぶっかけてやるとかさ」


「て、鉄ですか?」


「前にどっかで見たんだけど、あれって結構派手な火花が出るんだ。それにこれなら、炎が効かない相手も無視できないだろ。鉄が冷えて固まったら、えらいことになるからな」


「……」


ウィルは、ぽかんと口を開けている。つっても、呆れているわけじゃないだろう。俺も、自分がそこまで荒唐無稽な話をしているわけじゃない自信がある。


「それに、魔法に拘らなくてもいいじゃんか。うんと高いところから石を落っことしてやるのだって、かなり強烈だぜ。何が言いたいかっていうと、ライラみたいにやる必要はないってことだよ」


「ライラさんみたく……」


「ライラにはライラの、ウィルにはウィルの強み、戦い方がある。もっと、お前にしかできないことに目を向けてやれよ」


「私にしか、できないこと……」


「ああ。何かになろうとするより、今の自分を伸ばしてやる方が、いいんじゃないかな」


ライラのような格上を、長期的な目標にするのはいいと思う。けど今回は、そこまでの時間はない。短期的なら、自分の強みに磨きをかけるほうがいいんじゃないだろうか。

ウィルは自分の胸に手を置きながら、言葉を飲み込むように、ゆっくりと呟いた。


「……今まで私は、自分にできないことばかり考えていました。けど、違ったんですね。自分にできることを、どう活かしていくかを考えなくちゃダメだったんだ」


「ウィルには、みんなにできないことができるんだから。それを活かさないのは、もったいないだろ」


「もったいない、ですか。自分の力を、そんな風に思ったことはなかったですが……」


「そんなことないって。何度も言ってるけど、俺はウィルもすごいやつだって思ってるんだからな。もう少し、自分を高く買えよ」


「桜下さん……」


ウィルが潤んだ瞳で俺を見つめる。う、な、なんだか照れ臭いな。俺が目を逸らすと、ウィルは不満げに、唇を尖らせた。そんな顔されたって、俺にロマンチックを期待する方が無理だってば。


「……桜下さんは、いつも、私の知らない力を引き出してくれますね。すごいです」


「え?そ、そうか?」


と思ったら、急に褒めてきた。困惑していると、ウィルがすっと顔を寄せてくる。耳元で、一言。


「恋人がこんなにすごい人で、私は幸せですね」


「っ……!?」


な、な、なにを……ドギマギしながらのけ反ると、ウィル頬を赤く染めて、いたずらっぽくクスッと笑った。


「不意打ち、上手くできました?」


あ……ああああ!くそ、ウィルのやつ!大声で叫んでやろうかとも思ったが、やめた。こういう時、俺はウィルに勝てたためしがない。そうだった、こいつはいちおう、年上のお姉さんだったっけか……



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ